琥珀の瞳の姫君について
「……はっ! フェリス様! これもしかして、私、フェリス様の御力を吸い取ってるんじゃ……!?」
大人しくフェリスにされるままになっていたレティシアが一転、
吃驚した顔で、フェリスの手を放そうとする。
それ以上、後ろがないのだが、何とか、ベットのなかでずるずる後退ろうとしてる。
なるほど。自分のものじゃない力が流れ込んできてるのに気づいたんだ。
ホントに聡いんだな。
それにしても、相変わらず、反応がおもしろい……なんでこうなるんだろ?
「レティシアが吸い取ってるんじゃなくて、僕が分けようと思ったの」
「……!? そんなのダメ! フェリス様の元気が減ります!」
フェリスの意思というところを強調しようと、説明したが、聞き入れて貰えない。
「元気……いや……元気じゃなくて魔力…、レティシア、……」
「ダメです! もうフェリス様、私に触っちゃダメ! 私、もう元気です!
フェリス様、ありがとうございました!」
ぷるぷるぷるぷるぷる、レティシアが金髪を振ってる。
見開いた、琥珀の瞳。
まるで……治療を嫌がる、仔猫とか仔犬のよう。
ダメだ。
可愛すぎて、笑い死にしそうだ……。
「フェリス様? 何かおかしいことありました?
私から何か変な菌とか、病気とか、フェリス様に行ってません!?」
「…だって、あんまり可愛すぎて」
おかしすぎて、涙がでそうだ。
この世にフェリスから何かを欲しがる人間はそれなりに数いるんだが、
ほんのちょっとした力を分け与えるのさえ嫌がるこのちいさい婚約者殿、
どうなってるんだろう、おもしろすぎる……。
「!? よくわからないけど、笑うとこでしょうか!?」
「じゃあ、ここ泣くとこかな。僕の可愛い花嫁殿の手を、僕が初めて握ったら、
振り払われて、哀しみでこの心臓が壊れてしまいそうって」
笑いがとまらなくなったフェリスを、女官のリタがきょとんとした顔で見つめている。
あまり大笑いするタイプの人間でもないので、無理もない。サキはなんだか嬉しそうだ。
「いえ…、あの…振り払ったわけではなくて、あの…あの…、フェリス様の御身が心配、で」
ううう。
治療してもらってたのに、振り払ってしまった…、そんなつもりでは…、と困っている。
「それにね、僕がレティシアに少しだけ力を分けたけど、レティシアからも貰ったよ」
「……ホント、ですか?」
「うん。なんかね、僕、こういう治療系、あまりやらないから、わからないんだけど、
レティシアからも還って来たよ。凄く綺麗な波動に、浄めて貰った感」
「私も、凄く、あたたかく包まれてる気持ちでした」
うまく言えない、と言いたげに、レティシアが言葉に迷っている。
「ね。だから、僕は、逆にレティシアから貰ったくらいで、
何も力を失ってないから、心配しないで」
金髪を掻き揚げて、レティシアの白い額にくちづける。
琥珀色の瞳が、呆然と、フェリスを見上げている。
闇の中の魔物を払うと言われる宝石の色をした瞳。
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