癒しの魔法について
「はい。殿下…」
レティシアは、反省、しょんぼり、という様子だ。
レティシアの身を案じているだけで、決して叱ってる訳ではないんだけどな…。
「ん、何?」
ひどく沈んだ顔をしている、うちのちいさいお姫様。
「私がはしゃぎすぎたせいで、マーロウ先生が叱られたりは……」
「そんなことはしないから、心配しなくていいよ」
「安堵いたしました」
レティシアのほっとした顔。
そう。
それは王族や貴族の家なら、よくあることだ。
たとえ、何の罪科もなくても、大切な妃を倒れさせた、という理由で、教師を罪に問う者すらいる。
フェリスは、そういうことが嫌いなのでやらないが。
子供の頃、こんな悪しき風習は僕が大人になったらすべて滅ぼしてやる、と思っていたことがたくさんある。すべては無理でも、僕がこの手で変えられることは変えていく。それがどんなちいさなことでも。
「そんな顔しないの、レティシア。大丈夫だよ。
僕なんて、魔法の鍛錬していて、魔法省の塔ひとつ吹き飛ばしたことがあるよ」
蒼白な顔のレティシアが落ち込んでいるようなので、そんな話をしてみる。
「……え? 塔?」
「あのときは怒られたよね、サキ」
「はい。ただ、塔がひとつ吹き飛んだだけで、魔法の塔の方に誰もお怪我はなく、まことによろしゅうございました。やはり、子供の頃からのフェリス様のお優しさが、爆破の魔法にも顕れております。あの塔はだいぶ老朽化しておりましたので、そろそろ新しく建て替えによい時分でございました」
「物凄く苦しいフォローありがとう、サキ」
澄ました顔のサキ。どうにか、レティシアの気を晴らしたいというフェリスの気持ちを察してくれて、
昔話を面白おかしく語ってくれてるようだ。
「フェリス様でも、そんな失敗をなさる…?」
きょとん、としてるレティシアが可愛らしい。
「失敗の連続と言った方が正しいかも。子供の頃の僕は、力の制御がうまくできなくて難儀した。
たとえばね……手を、レティシア」
「はい?」
レティシアの手に触れて、フェリスの力を少し彼女に分け与える。
「……フェリス様、あたたかいです」
レティシアは少し緊張した不思議そうな顔をしている。
実際、フェリスも、この手の魔法は普段ほとんどやらないので、だいぶ緊張している。
「そう。僕も、こういう癒し系の魔法も……全くできないって、訳じゃないんだけど」
ああ、でも、なんだか、レティシアに触れると、凄く心地いいな。
レティシアが生まれて初めて体内の魔力を動かそうとして消耗してる筈だから、
フェリスの魔力を少し与えるつもりなのに、何故だろう、与えてる筈なのに、
フェリスにもレティシアの力が自然と還ってきてる。
「はい…」
「僕は、壊す方が、たぶん得意」
「フェリス様……」
冗談だと思って、レティシアはくすくす微笑っているが、残念なことにただの事実である。
フェリスの場合、ヒーリング(治療)系の魔法は、意識してやらないと発動しないが、
攻撃系の魔法なら、ほぼ考える前に発動している。
ちっとも優しくない根っこの性格が出てるようで、嫌である。
「うん。きっとね……、レティシアはこういう系の魔法の方が向いてるんじゃないかな」
綺麗な波動だな……。
どうやったって、こうして身体の一部に触れていると、
レティシアの本来の気に触れるけど、なんて濁りがない波動なんだろう…。
レティシアの失われた気を補填するつもりだったフェリスが、何故か逆に癒されていく。
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