王弟殿下は、眠れる姫君の部屋を訪れる
「レティシアが倒れた? 今日はマーロウ師の魔法の授業だったのでは?」
フェリスが誰かを大切に思うのは、随分久しぶりのことだ。
「は、はい、フェリス様。レティシア様は、大変熱心に授業を受けてらっしゃったのですが、
魔法の実践の授業で、魔力の制御がうまくいかなかったらしく…」
フェリスはレーヴェみたいに無敵でも最強でもないから、誰かを大切に思うことは、怖い。
「初日から、そんな大技を習ったんだろうか? もっと初歩的な講座だと思ってたんだが…」
大切な人は、いつも傷つきやすくて、失われやすいから。
「それで、レティシアの容態は?」
「大事ありません。お医者様も、マーロウ師も、疲れて眠っていらっしゃるだけだと仰られました。
マーロウ師からはフェリス様にお手紙をお預かりしてます」
「ありがとう」
手紙を受けとり、レティシアの部屋へと足を向ける。
勝手にかまうな、とけん制しておいて、なんでレーヴェは、こんなときにレティシアをちゃんと見ておいてくれないんだ、と苛立つという…。
我ながら、身勝手この上ない。
「フェリス様?」
レティシアの寝室の前で悩んでいるフェリスを、女官のサキとリタが促す。
「眠っている女子の寝室に、勝手に立ち入っていいものだろうか…?」
そもそもここはフェリスの宮なのだが、フェリス自身が己のプライベートをぜひとも死ぬほど尊重してもらいたい人間なので、他人のそれも大事にしたい。
「………。フェリス様は、レティシア様の夫になられる方です」
「それは、そうだが…」
そんな、国と大人達の都合で勝手に決められた夫に、何でも勝手にされたら嫌だろう、と思うのだ。
その点では、少しは安心感を与える?かも知れないので、わりと女性に好かれるほうの顔でよかったかもしれない、と最近やっとフェリスは思っている。
「どうか、お傍にいらして差し上げて下さい」
リタが躊躇うフェリスをそっと促し、寝室のドアをあける。
広い広いベットに、レティシアは一人で眠っていた。
レティシアの隣には、くまのぬいぐるみがいる。
あれはフェリスが贈ったのだが、レティシアは気に入ってくれたらしくて、とても喜んでくれていた。
レティシアが喜んでくれたので、フェリスとしても、ほっとした。
何といっても、フェリスは、生まれてこのかた、女の子の機嫌をとろうと思ったことがない。
なので、女の子が何を喜ぶのかわからない。
女の子、というか、女性である義母上の機嫌はいつもとろうとして、長い年月、ずっと失敗し続けた。
もう自分には、女性の機嫌をとる才能はないのだと諦めて久しい。
「……ん…、…ん……」
レティシアが魔法の鍛錬に疲れて悪夢でも見ているのなら、それこそ魔法で払ってあげよう、と思って、
フェリスは、レティシアのベッドに近づく。
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