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10万部突破【書籍④巻&COMIC②巻発売中】五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました  作者: あや


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かくあるべき貴族のお姫様とは


「ディアナの国の方、すべてが、水の属性を有してらっしゃるのですか?」


「いや。レーヴェ様のお膝元だから、水属性の者がよそよりは多いというだけで、

 土の気の者も、火の気の者も、風の気の者も、もちろんおるよ」


穏やかに、マーロウ先生が続ける。


「それぞれの物質を構成する元素の性質を理解することで、それらを扱えるようになる」


マーロウ先生の手がテーブルの上に差し出されて、その中に、ぽうっと明るく、炎が灯った。

炎は小さな球になり、勢いよく燃え始める。


「……先生! 大丈夫ですか!? 熱くないですか!?」


うう、魔法の火だから、熱くはないの? 

でも、あんまり勢いよく燃えてるから、先生の指が心配……。


「大丈夫。これはわしが燃やしてる炎だから、主のわし自身を傷つけることはない」


「そ、そうなのですか」


ぽう、ぽうと、マーロウ先生は、炎の球をいくつか増やしてくれた。


魔法学のお勉強の灯りがわり!?


「ディアナでは火の魔法を扱える者は少ないから、火魔法を覚えるとすぐ出世するよ」


「やはり、水魔法が得意な方が多いのでしょうか?」


「左様。水の魔法が得意な者が多いし、レーヴェ様の気に満ちたこの土地では、

 水の魔法は発現しやすい」


「なるほど……。例えば、砂漠では、水の魔法は使いにくいってことでしょうか?」


「正解。ねぇ、レティシア姫。

 ……サリアのこんなちいさなお姫様が、どうして、砂漠なんてものを知ってるんだい?

 ここから遠い遠い国に確かに砂漠はあるのだが……、

 あんまり貴族の小さいお姫様が詳しい話ではないんじゃが」


マーロウ先生が、不思議そうに、そしておもしろそうに、レティシアの顔を覗き込んでいる。

フェリス様を思い出させる、魔法を使う人の青い青い瞳。


「………!!」


口に手をあてる。

いけない。

そうなのか。


うう。

サリアでは、普通の少女らしい言動を、と一応気をつけていたのだけれど、

こちらに来て、「普通」を気にするのを忘れて話してても、

フェリス様が奇妙がったり、聞き咎めたりしないものだから、

「普通の貴族の少女っぽい、かくあるべき姿」の擬態をすっかり忘れてしまってた…。

 

あれ? 

よく考えると、なんで、フェリス様は、何も、レティシアを奇妙がらないんだろう?

マーロウ先生の不思議がる反応の方が普通だよね、きっと。


フェリス様御自身が竜の血を受け継ぐ、不思議な血族の方だから?

そもそも、フェリス様が変わった方だから?

ただの、変わった(レティシア)に対する思いやり?


「私、本を読むのが…とても好きで…」


落ち着いて。

深呼吸して。

何もマーロウ先生は、変なこというな、て、レティシアを責めてる訳じゃないんだから。

(さんざん、サリアで、奇妙な王女、気味が悪い、って白い目で見られたトラウマが疼くけど…)


いまは、ただ、どうして? て優しく尋ねられただけ。


「ほう」


「サリアでも周囲に不気味がれられるほど、本を読んでいたので……、

 砂漠のことも、本で読みました」


「左様ですか。それは、随分と、書物を読み漁ったと拝察致します。

 ……本好きの博学のお姫様は、フェリス様にはぴったりですの」


「……フェリス様は、私に、ここでは、本をたくさん読んでもいいって言ってくださいました」


御顔が綺麗なことより何より、

それが一番、レティシアが、フェリス様、いい人だー、好きだー、と思う理由。


(御顔はあまりに綺麗すぎて落ち着かないので、もうちょっと綺麗すぎなくてもいいくらい…)


「それは、ああ見えて、フェリス様も本の虫だからでしょうね。

 昔よく、少年の頃、舞踏会の予定などを忘れて、

 魔法省の図書室にも引き籠ってらっしゃいましたよ。

 気になった本を読むのに没頭されると、他のことを忘れてしまわれるらしくて」


うんうん、と言いたげに、マーロウ先生の作った炎の球たちが揺らめいている。


「そうなんですか?」


マーロウ先生の言葉で、

大きな魔法書の山に埋もれてる、ちいさいフェリス様が浮かんで可愛い。


こちらの世界の本て、そもそもわりと大きくて、子供の手には重いのだ。

元の世界みたいに軽い紙は、まだ生まれてないからだろうけど。


じゃあ、フェリス様、魔法省の図書室行けなくなったの、残念なんじゃないかな?

それこそ、そこにしかない魔法書とかたくさんありそう…。


こっそり魔法で行ってたりするのかな…?

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