世界を構成する四つの元素について
「この世界のすべては、四つの元素から成り立っておる。
レティシア姫、この四つの元素が、何かわかるかね?」
にこにことマーロウ先生が問う。
「え…と、水と炎と…、土と、風?」
ここに第五のエレメントが足りない、とかよく本とかゲームではあるのよ。
第五のエレメントが何だったかは忘れたけど。
「左様。本日の生徒は優秀じゃ」
よしよし、と褒めて下さる。
先生、優しい。褒めて育てて下さる。
「風、火、水、土。
世界はこれらの要素によって始まり、これらの要素によって構成される。
たとえば姫が立っている大地、これは土属性だ。
土は全てを育む。時に隠す。
死したものを分解し、再構成する。
農作物や、木の葉、虫、獣、人に至るまで。
それゆえ、自然界で生まれたすべてのものは、土に還っていく。
土に還ることの叶わぬものは、自然なものではなく、異質なものとされる」
「異質なもの…」
「なかなか人の手では、何千年も土に還らぬもの、というのは、
いまのところ、作りがたいがね」
「お母さまから、魔法学というのは、あまりにも赤子のような人間が、
この世界や、神様のことを、少しでも知りたくて始まった学問、とお聞きしました」
だから、何処の国であろうと、世界中の神殿や魔法の塔は、
高く高く天へと聳え、神様に近づこうとするのだと。
でもまるで叶わぬ恋のように、
人が神様や世界の秘密に近づこうとすればするほど、遠ざかるのだと。
「そうだよ。姫の母君の言葉は正しい。魔法学も神学も同じ。
人間がこの世界や神様のことを知りたくて始めた学問だよ。
だが世界のことなど、生まれたばかりの赤子のような人間に全て知りえるはずもない。
神様を理解しようとするなど、レーヴェ様を理解しようとするようなものだ」
「竜王陛下は、難解な方ですか?」
レーヴェは我儘、と言ったフェリス様の美しい貌を思い出す。
言葉の内容より、なんだか我儘な友人に、手を焼いてるみたいなフェリス様の様子がおかしかった。
「太古の、竜王陛下自身のお言葉を書き留めた書物によると、
陛下は大変、単純で好みのわかりやすい御方なのだそうだが、
神ならぬ人間の身には、陛下の御心は測りがたいね」
「このディアナは、レーヴェ竜王陛下の守護のもとにある地だ」
「はい」
「レーヴェ様は、水を司る水竜。故に、ディアナの者は水の属性の者が多い」
「人間にも、属性があるのですか?」
「もちろんだよ。姫もまた、いまの名を持つ以前、この世界に生まれる以前から、
水に属していた筈だよ」
「私も?」
「水竜の王の血脈を継ぐ一族の花嫁に、いかなる縁を結ぼうとしても火の娘は来られない。
火は水に戻されてしまうから。レティシア姫もまた、水の属性を持つからこそ、ここにいるのだよ」
「水の属性……」
水の属性なんて、あるのかなあ?
せいぜい、レティシアは、前世で二月生まれで、魚座だったくらいしか……。
ああ。
生まれた国である日本は、その世界では有数の、水の綺麗な国だったけど……。
蛇口を捻った水道の水が、そのまま安心して美味しく飲める国なんて、
この世界に、そんなにいくつもないんだよ、て優しいおばあちゃんに教えられて育った。
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