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10万部突破【書籍④巻&COMIC②巻発売中】五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました  作者: あや


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食事とお菓子のお話



「あの…、フェリス様……、フェリス様ってば、まだ笑ってます?

 そんなにおかしかったです?」


フェリスの人生で、二日続けて、こんなに笑ったことは、ないかも知れない。

(そんなに笑いが多めの人生ではないので)。


だいたい、男同士の約束って、何処から出てきたんだろう?


朝一から、レーヴェの絵は飾りたがるし、

誰もフェリスに聞かないような微妙な質問はしてくれるし、

フェリスの花嫁殿は、何が飛び出すかわからない、凄い飛び道具入りのびっくり箱のようだ……。


「フェリス様、何かお飲み物をお持ち致しましょうか?」


「うん。水かな……、そして、レティシアにデザート持ってきてあげて」


「畏まりました」


レティシアは、お喋りしながら、生真面目な小動物のように、

せっせと嬉しそうに朝食を食べている。


何ということもない朝食を、こんなに嬉しそうに食べられるのは、

女の子ってどうなってるんだろう?


人間おもしろいもので、目の前でこんなに一生懸命食べている人がいると、

いつもべつにとらなくてもいいと思う朝食も、つい動作を真似して食べてしまうものなんだな…と。


「朝からデザート食べてもよいのでしょうか?」


「? サリアではデザートは午後からと決まってるの? 

 まあ、ディアナは夜中にもケーキ食べる国だから、よそより食べ過ぎなのかな…」


ディアナは菓子類の輸出国でもある国なので、他国より生産量のみならず消費量も多いかもしれない。


ディアナ人は人生を愛するように、子供から大人まで、御馳走とお菓子と酒を愛している。

フェリスのように、食に興味が薄いなんて人間は、少数派この上もない。


「夜中にケーキ! 禁忌の味がしそうです」


「禁忌ってそこに使う?」


「変ですか?」


「うーん。そこまで禁断ではないね、ディアナでは普通だろうな」


昔から、フェリスは、夜中に本を読むのに、よくチョコレートを齧っていた。

いろいろ食べるより、手軽だったから。


「フェリス様は、食事が面倒だと、御菓子で熱量をとろうとなさるんです。

 これからは、ぜひ叱って差し上げて下さいね、レティシア様」


「サキ。そんな話を……」


「それはダメです。フェリス様。御菓子は特別な御褒美ですが、

 御食事とお菓子はべつのものです」


こんなに小さい人に、怒られてしまった…。


「結果的に、熱量を得られて、身体が動けばよくないか?」


効率的だと思うんだが……。


とはいえ、僕だって、レティシアが食事でなくお菓子ばかり食べてたら注意するが。


「ぜんぜんダメです」


「ですよね、ですよね、レティシア様!」


我が意を得たり、とサキが、レティシアの言葉に喜んでいる。


なんとなく、強敵になりそうな予感……。


「本日のデザートは、

 さくらんぼとホワイトムースのゼリーでございます、レティシア様」


幸運なことに、フェリスの旗色が大変悪くなってきたときに、

ちょうど給仕がデザートを持ってきてくれた。


「可愛い!」


「お気に召して、よかった」


レティシアが瞳をきらきらさせている。

うん。確かに。

これくらい喜んでくれると、作る者もさぞや嬉しかろう……。


「フェリス様、お水と、御口直しに、冷たい桃と紅茶のセパレートティを」


「ああ、ありがとう」


そうか。

フェリスにはあまり経験がないけど、

食事って、たぶん、こんな風に、にぎやかに楽しむものなんだな。


「フェリス様、さくらんぼ、美味しいです」


「レティシアのお気に召して何よりだよ」


普段からは考えられないほど、朝食で熱量を消費した気がするけれど、

不思議と不快ではないフェリスであった。




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