案ずるより、生きてみるが易し
「私が、一日に一年、大きくなれればよいのですが…、
私のことで、フェリス様が笑われないか、心配、です」
自分で言うのも何だが、
リタに髪を梳いてもらっている鏡の中のレティシアは、そんなにはひどくない。
もう少し成長したら、きっと、可愛い姫君の部類だ。
もちろんフェリス様や竜王陛下みたいな、この世ならぬ美貌ではない。
が、それは普通の人間は、男女ともにそんな美貌ではない。
しかし、いかにも、まだ……。
「まあ、レティシア様。御二人の婚姻は、国王陛下がお決めになり、
ディアナとサリアの国同士で結ばれた大切な婚姻です。
誰が、それを悪く言ったりしましょうか サリアの姫として、
我がシュヴァリエ家の若き女主人として、胸を張ってお臨み下さい」
「そうですよ。それに、ディアナでフェリス様を笑いものにするような、
恐れ知らずな方はおりません。あんなに竜王陛下にそっくりなフェリス様に
悪いことをしたら、きっとレーヴェ様に祟られる、て怖がられてますから」
「え。そうなんですか」
竜王陛下の祟りつき!
それはサリアの国の威光より、ディアナではとっても強そう……。
「そうなんですよ。あまりにも竜王陛下そっくりに成長されて、ちょっと
フェリス様が御不便を感じることもありますが、そこはちょっと便利なんですよ」
竜神様の祟りつき扱いは普通の人の感覚では便利ではないと思うけど、
サキもリタも、ね! とにこにこしてる。
いいかも。
ここのおうちの人の、この心の強さ。
「それに坊ちゃまも……あ、いえ、フェリス様も、とても、強くなられました。
我が家の当主が、誰にも、当家の花嫁を傷つけることを許しません」
「坊ちゃま」呼びを言い直してるサキが、ちょっと可愛い。
きっと、子供の頃から、フェリス様に仕えてるんだろうな……。
「もちろん陰で勝手なこと言う人はいるでしょうが、言わせておけばいいのです。
何を言われようと、レティシア様は、フェリス様のただ一人の正式な妃、
ディアナ王家の御方となられるのですから。
そりゃあ、羨ましさに文句言うレディたちはいますとも」
ふふふ、と鏡の中のリタは自慢げに笑った。
「私共も、レティシア様がいらっしゃるまで、少し不安でしたが、
レティシア様ご到着以後、フェリス様が楽しそうなので大変安堵しております」
「そうですとも。坊ちゃま、いえいえうちのフェリス様が、
女の子というのは、何を用意してあげるべきなんだ?
そもそも、いったい何を喜ぶものなんだ? てこのサキに質問なさったんですよ!
ついに、当家にも、そんな日が参りました!
もう…もう…、私、この歳まで、生きててよかったです。
うちのフェリス様はこのまま、御婦人方に憧れられるだけ憧れられて、
もしや、ずっと…ずっと、御一人でいらっしゃる気なのではと、
サキがどんなに案じておりましたことか…」
いや、そんなに大事で心配な坊ちゃまにやって来た花嫁が、
この私では、どうなんでしょう? とレティシアは思ったが、
感激の涙をそっと拭っているサキがあまりにも可愛らしいので、
思わず、この善良な女官長の夢を壊さないように、
どうにかよきお姫様らしくしていたいものだ…、と
鏡の中で、リタの手で綺麗に髪が梳かれていくレティシアを見つめていた。
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