傾向と対策
「レティシア、食事はとった?」
レティシアの前に片膝を折って、レティシアと視線の位置を同じにして、フェリスが尋ねる。
「え…」
さすがに、初の婿殿との謁見に緊張して、今日は何も食べていない。
「軽いものを運ばせるから、私とお茶を?」
「は、はい。お時間が許すようでしたら」
フェリスとお茶は、それはそれで緊張するが、フェリスが想像よりずっと優しい人だったので、安心して、少しお腹も減った気がする。
我ながら、現金なものだ。
「ケーキは? 甘いものは好きか? 昨日読んだ本に、子供はみんな甘いものが好きだと誤解して、押し付けてはなりませんと書いてあったんだが…」
「フェリス様」
「ん?」
「私との会見に備えて、いったいどんな本を読んで下さったんですか」
ここは、子供扱いにヘソを曲げるべきなのか、幼い花嫁と接するために。傾向と対策を検討してくれてたことを喜ぶべきなのか?
「すまない。この場合、子育て本では間違ってると思ったのだが、どうにも、見当がつかなくて…」
「いえ…」
子育て本はだいぶ違うと思う、と思いはしたが、美貌に憂いを浮かべるフェリスを見てたら、ちょっとおかしくて笑いそうになってしまった。
「ありがとうございます。甘いものは大好きです」
レティシアは何を喜ぶんだろう? と考えてくれたのだと思うと素直に有難い。
「では、運ばせよう」
甘いもの、嬉しいな…。
それに、相手が美形の婿殿すぎるけど、お茶の卓を囲む誰かがいるっていうのも、ちょっと嬉しいな。
ディアナへ婚礼のための旅をしてきて、こちらの女官も丁重に接してくれるけど、慣れない国で、食事もずっと一人だったから…。
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