薔薇の花の咲く宮で
フェリス様に、我儘になって下さい、なんてお奨めしたけど、
レティシアもちょっと我儘になってる気がする……。
国許にいたときは、お父様もお母さまもいなくなって、
もう何もレティシアの希望を聞いてくれる人はいなくなったから、
誰にも、何も望んでなかったのに。
どうして昨日初めてあったばかりのフェリス様に、
いろんなこと、言っちゃってるんだろう……。
いくら結婚するからって、甘え過ぎだ……、
フェリス様に呆れられない様にしなきゃ……。
(努力するよ。できるだけ、レティシアより、早く死なない)
あれは、大事な人を失うことを知っている瞳だった。
愛する者とともに、
身体の何処か一部を一緒に天に持って行かれてしまったような、
あの痛みを知ってる瞳。
フェリス様も、お母様を早く亡くされたと……。
「う……ん」
くまちゃん、ふわふわ。
ベッドも、ふわふわ。
気持ちいい……。
でも、もう、きっと朝だから、そろそろ、起きるー……。
「おはようございます、レティシア様」
「おはよう、ございま…」
サキとリタが代わる代わる、時には一緒に、レティシアのところへ来てくれる。
リタは若くて可愛らしいし、サキは年配で母親のような安心感がある。
「お疲れではございませんか? フェリス様が、レティシア様は慣れないことが多くて大変だろうから、
ゆっくり寝ていてもいいとお伝えするようにと」
「大丈夫です。フェリス様の宮に来てから、なんだか凄くよく眠れて、体調がいいのです」
くまちゃんのおかげなのか、フェリス様のおかげなのか。
「まあ、それはようございました。
きっと、フェリス様とお逢いできて、安心されたのですね。
それに、こちらの宮では何も特別なことはしてないのですが、
庭園の花などもよく咲いて、他の宮の方から羨ましがられるのですよ」
「わかります。王宮で、ここの薔薇が一番綺麗ですもんね」
嬉しそうなサキの説明に、うんうん、とレティシアが頷く。
フェリス様が自分の宮の花の世話をする訳ではないだろうけど、
その人の庭に植えると、同じ植物のはずなのに、めきめき生き物が成長する人っているよね。
土の問題や、手入れの問題だけでもなさそうな、ちょっと不思議な現象。
あれも一種の魔法なのかなあ…。
「フェリス様は、うちの庭師は優秀なんだろうね、て仰るんですけど、
庭の花まで王弟殿下に恋をする、て歌われてます」
「居心地のいい宮なのは、ご当主のフェリス様とそこで働く方々、
きっと双方が素晴らしいのだと思います」
それはやっぱり、どちらも大事なことだと思う。
レティシアの宮なんて、両親が天に召されてから、レティシアが落ち込み過ぎて、真っ暗になってしまった。幼少の身で立ち直れなかったとはいえ、仕えてくれてた人たちにも申し訳なかった…。
「まあ、本当に。うちの花嫁様が可愛すぎてどうしましょう、リタ」
「ですね! 人見知りのフェリス様が、花嫁様に馴染めるかどうか、
皆で心配しておりましたが、レティシア様がいらしてから、フェリス様とても楽しそうです。
フェリス様があんなに笑ってるところ、昨日初めて拝見しました」
!?
サキさんが何かに感じ入ってるのが謎だけど、
明るい声でリタが言うように、
フェリス様が、ああー変な子が来たーって嫌がってなかったら嬉しいなー。
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