レティシアとくまのぬいぐるみ
「また笑われてしまった…何故」
着替えてくるから、一緒に夕食にしよう、
と一頻り笑ったフェリスはレティシアに言った。
終電で仕事帰りの社畜の雪と違い、
外から帰られても、
少しもよれてないフェリス様は着替えなくてもいい気もするのだが…。
「ちっとも真剣には取り合って貰えなかったけど、
フェリス様が楽しそうだったからいいかー、ねー、くまさん」
一度部屋に戻ったレティシアは、
フェリスに貰ったくまのぬいぐるみに相槌を求める。
くまのぬいぐるみは、
そうだねー、と言いたげに、つぶらな瞳で応じている。
あんな顔も出来るんだ、フェリス様、ってちょっと驚いた。
凄く楽しそうに笑ってると、
余計に、タペストリーの竜王陛下と似てたな~。
涙流さんばかりに笑いながら、
レティシアが摘んだばかりの薔薇をありがとうと受け取ってくれた。
「くまさん、フェリス様帰ってきてるの見たら、
何だか嬉しくて、飛びつきそうになったよ」
心底、楽しく講義受けてたので、
昼間、フェリス様いなくて寂しかったとかは全然ないんだけど。
何だか、
あ!
フェリス様、帰って来たんだ!
嬉しい!
て。
五歳化してるのか、
走って飛びつきたくなっちゃった。
いやホントに、
五歳なんだけども。
前世の記憶を思い出してから、
ほとんど、私、雪の意識なんだけど。
さっきのは、なんだか、
(あー! フェリス様だー!!)
って、ちっちゃいレティシアが飛んで行きたがってる感じだった。
現金だな、私!!
昨日まで、変人の王弟殿下に逢うの、あんなに怖がってたのに。
「浮かれてるんだな、私、たぶん…」
こちらの世界の優しかった父と母が死んでしまい、
幼い身で、やっかいものみたいになってしまった。
いずれどうにかにして自立するにしても、
王族ってどうやって自立するんだろう…?
手に職をつけて働くって訳にもいかないのかな、
修道院でも行くしかない? と思っていたら、ディアナの王弟殿下との話が来た。
正直、婚姻の話、嬉しくなかったけど、拒める雰囲気じゃなかった。
叔父であるロドリゲス王は、
レティシアをサリアの有力貴族と結婚させることを望まなかった。
王家の血を引く娘を、有効活用して、大国ディアナとの縁を結ぶことを望んだ。
「王家の娘である姫様が嫁ぐことで、サリアとディアナは強固な信頼関係を築けます」
「そうですか。私の婚姻で、ディアナとサリアの貿易が盛んになり、
サリアの貧しい家の子が、よそに売られずにすむようになれば、嬉しいです」
もう、父様も母様もいない。
この世に、誰も、レティシアを助けてくれる人は、いないのだ。
だからせめて、毅然と頭を上げていなくては。
わかっている。
王宮の孤児に手を貸しても、現王に疎まれこそすれ、いいことなど何もないのだ。
だから誰も、お父さまやお母さまが生きてたころみたいにレティシアに優しくしない。
食べるものがない子もいる。
それを思えば、レティシアが与えられたこの運命のなかで、最善を目指すしかない。
でも、なんだか、二度目の人生、一度目の社畜よりハードになってるのでは……?
と、途方に暮れてたら、
「あなたは私に属するものになるのだから、必ず私が守るから」
神話の神様にそっくりと言われて難儀している、美貌の王子様がやってきた。
味方が一人もいない世界の中で、やっと出逢った、たった一人の味方。
「くまちゃん、一緒に、優しいフェリス様が、誰にもいじめられない様にお守りしようね!」
ぎゅむーっと興奮気味のレティシアに抱きしめられて、
くまのぬいぐるみは、
(いやそれはどうでしょう。僕は、姫様の優しい眠りをお守りするように、
フェリス殿下から仰せつかった非武装系のくまですから…)
と困り顔をしていた。
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