竜王陛下の代理人
「フェリス様と、タペストリーに描かれた竜王陛下が似てるのに、
私がとても驚いてたら、
フェリス様、僕はこんなに我儘じゃないよ、と笑っておいででした」
「フェリス様は成長するに従って、
竜王陛下にどんどん似てこられたからね。
そう言われることが増えて、
王弟殿下御本人も戸惑って、
レーヴェは神で、僕は地べたを這う、哀れな人の子だ。
似てる筈なんかないのにな、とやさぐれていたよ」
「フェリス様のほうが少し憂いを帯びてらして、
竜王陛下のほうが、なんだか、明るい方なのかなと…」
朝見たタペストリーでも。
レーヴェ様、
血塗れの戦場のなかにいても、へこたれないで、
笑顔を見せるような神様だったんだなーと。
「この世の誰も、レーヴェ様を制限できないからね。
昔々には、レーヴェ様を神殿に捕らえて、
その力を得ようとした他国の者もいたそうだけど、
篭められた神殿ごと破壊するような御方だから…」
「神様を生け捕り……大胆にして、無礼過ぎる」
ぽかん、と、レティシアは口を開けた。
「全くね。昔も今も、
人間というのは、この世界の中で、小さな存在なのに、
神を敬わず、
ただ神の名と、神の力のみを利用しようという悪しき者もいる。
神の力というのは、人が使役するようなものではない」
「ディアナの方は、レーヴェ様を尊敬しながら
とても愛してらして、微笑ましいです」
普段、ちっとも信仰のあつくなかった、日本人の雪も、
車にひかれるときは、神様…! て思った。
生まれ変わって、レティシアになってる!! と気づいた時も、
神様どうなってるの!? と思った。
それは、レーヴェ様やサリアの女神様みたいに、
ちゃんと貌のある神様じゃないんだけど。
漠然と、名前も顔も知らない
「神様」を、呼んでしまうのは、
人の、何か本能的なものなのかなー。
「でも、神様に似てるって言われるの
は、確かに、大変そう…」
まして、レーヴェ様みたいに、こんなに、
現役で、愛されまくってる神様だと……。
「ディアナの神の代理人は国王陛下なのだよ」
「そうなのですか?」
神の代理人。
ということは、この場合は、レーヴェ様の代理人てこと?
「そう。男であれ女であれ、
レーヴェ様の竜王剣を抜ける者、
レーヴェ様に最も近しい御方が、ディアナの王になるのだよ」
「レーヴェ様にもっとも近しい御方が、ディアナの国王陛下」
レティシアは、ランス先生の言葉を繰り返してみる。
そういう風習の国で、
やたらレーヴェ様に似たフェリス様が、
お兄様の国王陛下にお仕えしてたら、
何だか、ちょっと、変な絵面に見えるかも……?
顔が悪いから虐められるのかも、と笑ってたフェリス様の言葉が、
違った意味で、現実感ありすぎる…。
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