竜王陛下の子孫たち
「フェリス。サリアからレティシア姫が到着したと聞いた」
現ディアナ国王マリウスは、御年二十七歳。
王太后からは何かと風当りの強いフェリスだが、兄との仲はそんなには悪くない。
というか、おっとりな兄君は、フェリス贔屓で、
何かと、義母上の監視を逃れては、自慢の弟を呼び出したがる。
その御心が有難いやら、困るやら、なのだ。
「はい。陛下」
「そなたには少し若すぎる姫君だと思うが…」
もっと似合いの年頃の姫を選んでやりたかったのに、
国の為にすまぬ、と以前にも言われた。
フェリス自身は、十七歳になるというのに、
それまで、結婚とか、恋とか、考えたこともなかった。
フェリスは、それこそ、
「まるで神代の竜王陛下の生まれ変わりのような」美貌と称えられて、
物心つく頃には、いろんな方面から注目を浴びるようになった。
だけど、何も感じたことがない。
(残念な話だ……)
凄く綺麗な娘にも、艶めいた御婦人にも、何なら誘いをかけてくる男性にも。
誰にも、何も、感じたことがない。
どんな美しい娘にも心を動かさない、
『氷の美貌の王弟殿下』は、そういう意味では当たっている。
『愛しいアリシアの為に、この国を守る』
をその通りに有言実行して、
いまだにディアナのすべての女性の心に君臨するレーヴェ竜王陛下とは、
その一番大事なところが、ちっとも似ていない、
とフェリスは我ながら残念に思っていた。
でも、あの子……。
「レティシア姫は、とても可愛いらしい方ですよ。私にはもったいない程に」
孤独な瞳をしていた。
何にも期待していないような瞳で、フェリスを見上げていた。
自分に似てる、と思った。
秘密めいていて、いろいろと魂の具合が不安定で、何か達観したような瞳が。
「そ、そうか? 気が合いそうか?」
兄上は気の弱い、そして、気の優しい方だ。
昔から、義母上に恐れをなしつつ、こっそりフェリスをかまっていた。
フェリス自身もそうだが、
なんで、あの竜王陛下の子孫で、こうなるんだろう?
向かうところ敵あらず的な、強気の竜の遺伝子は、
長い年月で、あちこち散逸してるんだろうか?
と疑問に思うくらい、いわゆる、ごく普通の、とても人の子らしい男性だ。
「はい。年齢が離れているので、何を話せばいいのか案じておりましたが、
とても聡明な方で、話していて楽しいです」
五歳であの会話は、たぶん、聡明とかのレベルではないと思うけれど。
でも、あの子にも秘密があっても、それはお互い様というか…、
そのくらいのほうがフェリスはむしろ気が楽だ。
「おお、そうか。余もそれを聞いて、大変嬉しい。余は、フェリスに幸せであってほしい」
「身に余るご厚情、大変有難く思います、陛下」
フェリスは、玉座の兄に向けて、騎士の礼をとった。
その姿は、周囲に控える者たちが、溜息を零すほどに美しかった。




