花冠の竜の国
「僕に似てるなら、きっと優しくないよ。
気に入った人しか助けなかったりするんだよ」
フェリスは微かに苦く笑って、
神話のタペストリーを見上げている。
なんとなく、フェリスが、
荘厳な神話の絵巻に吸い込まれてしまいそうな気がして、
無意識にレティシアはフェリスの衣装の袖を掴んでしまった。
「姫? どうしたの?」
「あ、すみませ……」
そんなことあるはずない。
と思っても、
レティシアだって異界から転生して来てるんだから、
絵巻に吸い込まれる王子が居てもおかしくない。
「いや。血生臭い戦争の絵だから、ずっと見てると、怖くなった?」
ふわり、とフェリスの白い指が、レティシアの髪を撫でる。
「なんだか…、絵の中にフェリス様が攫われそうな気がして…」
頼りない子供のようなことを言ってしまった。
いや、子供なんだけど。
「ここに、僕が?
戦闘能力の低い子孫は邪魔だぞ、てご先祖に蹴りだされそうだね」
安心させるように、フェリスがレティシアに微笑みかけてくれる。
フェリス様に似た黒髪の竜王陛下に傷はないけど、
川縁に血塗れで倒れている戦士たちもたくさん描かれている。
筆致がリアルなので、とても怖い。
「創始の竜王陛下は、王妃アリシア様が死ぬくらいなら、
こんな国いますぐ滅べばいい、何なら水没させようか?
とお怒りになった伝説のある、苛烈な御方です。
フェリス様よりかなり激しい性格でいらっしゃいます」
「竜王陛下、王妃様をとても愛してらしたんですね」
「左様でございますね。
レーヴェ様は愛するアリシア様の為にディアナをお守りくださり、
その守護はいまも続いていて、ディアナの永遠の繁栄を約束してくださってます」
(永遠はべつに約束してないけどな)
レイの説明に、誰かの、凄くいい声が被さった気がした。
「レティシア」
なんだか、さっきから……。
「はい? フェリス様?」
「天才画家の図案による、神話の絵巻はあまり見ていると酔う。
そろそろ行こう?」
「はい」
フェリスがレティシアの腕をとって、歩こうと促してくれる。
「戦うドラゴンの絵なんて怖いばかりだよ」
「そんなことないです。ドラゴンの雄姿はかっこいいです。」
タペストリーは壮麗な連作になっていて、
フェリス様に似た人の形で戦う竜王様から、
竜がディアナの街を飛行する姿へと変化する。
回廊の終点には、
穏やかそうに寛ぐ竜に、花冠を作って載せて微笑んでいる姫君の姿がある。
この姫君が、竜の神に愛されたアリシア王妃だろうか?
「かっこいい? 怖くないの?」
「怖くないです。最強の竜は憧れです」
レティシアは、日本での社畜OL時代、
自分が最強からは程遠かったせいか、
お話のなかでたいてい最強の存在である竜はあこがれだった。
ゲームでも、何か一つのゲームをやりこめるほどの時間はなかったが、
ドラゴンが出てくると、必ずドラゴンを選択していた。
それから思うと、竜神の守護のある国にお嫁に来れたのは、ちょっと嬉しい。
「そうか。レティシアは、竜が怖くないのか」
「はい。竜、大好きです」
レティシアのその言葉を聞いて、何故かやけにフェリス様が嬉しそうだ。
貌が似ていても、フェリス様が竜という訳ではないが、
竜王陛下の子孫としては、ドラゴン好きは嬉しいのだろうか?
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