創始の竜王陛下
「わあ…」
宮殿の廊下を歩いていて、
見事なタペストリーにレティシアは瞳を奪われる。
「あれ、この方、なんだか…フェリス様に似てる…」
壮麗なタペストリーの中で
剣を持って戦う若い美貌の剣士が、
フェリス様によく似ている。
絵の中の剣士は、黒髪だけれど。
こんなに立派なタペストリー絵巻として、
ここに飾られてるんだし、
フェリス様のご先祖の王族の方なのかな…。
「この御方は、ディアナの創始の竜王陛下にて、我が国の守護神、レーヴェ様です」
「え! ディアナの神様!」
ディアナは竜の加護を受ける王国。
なので、幾多の苦難の時あれども、人の子の力では、誰もディアナを奪えない。
吟遊詩人たちがそう歌っていた。
強国ディアナと言えども、代々の君主がすべて賢君でも名君でもないのだが、
その隙に乗じて、誰かがディアナを手に入れようとすると、
必ず邪魔が入って叶わない。
ディアナを侵そうとしたものが、必ず、ひどいめにあう。
だから皆が歌う。
眠れる気まぐれな竜王レーヴェは、いまもディアナを守っている。
気に入らないものがディアナの地に入ることを許さない、と。
「はい。まがうことなきフェリス様のご先祖です」
「創始の王というと、何世代も前の方だと思うのですが、
フェリス様のお兄様かお父様と言われたほうが頷けるくらい、そっくりです」
「そうなのです。びっくりするほど、フェリス様と似ていらっしゃるでしょう?」
畏まって説明していたリタが、ちょっと教室の高校生のように、
声がはしゃいでる。
「ディアナ王族の方は、みんな、フェリス様のように、
創始の王の血を強く引いてらっしゃるのですか?」
創始の美しい神なる竜王の血を引いて、なんて、ちょっとわくわくする。
とってもファンタジーっぽい。
レティシアの実家のサリア家は、そんな神秘的なところはなかった(残念)。
「いえ……あの……」
そうでしょうそうでしょう? フェリス様似てますよね? と
主自慢の嬉しさを隠せなかったリタが突然言葉につまる。
「ほかの王族の方は、そんなにというか…ほとんど全然、似てはいらっしゃらなくて……」
主のフェリス自慢はしたいが、そこは言いにくいらしい。
「うちのフェリス様だけが、何故か、とても創始の竜の君に似てらっしゃるので、
ちょっと居心地悪いのです。……おはようございます、レティシア様」
回廊を歩いてきたレイが、説明してくれる。
「おはよう、レイ。どうして居心地が悪いの?」
「現世の王陛下より、王弟殿下フェリス様の方が創始の王に似てると、
御不快に感じる方もいらっしゃるのですよ、レティシア様。人間の御心というのは難しいのです」
「それはでも、フェリス様のせいじゃないわ。ただ、ご先祖に似て生まれただけで、
嫌がられるなんて、ひどい」
そういえば、フェリスが、
(そうだねぇ、僕の何がいけないんだろうな、顔がいけないのかも知れない)
と昨日話してた時は、
綺麗な顔の人が
何ともおもしろい冗談を言っていると思ったのだが、
あれは冗談ではなかったのか。
「まったくですね」
フェリスの為についストレートに怒ってしまったレティシアを、好ましそうにレイが見ていた。
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