シュヴァリエ公爵家の女主人
「レティシア様」
「はい」
レティシアは、まだ眠い瞳をこする。
うーん。
なんだか夢を見てたような気がする……。
「お起こしして、申し訳ありません。少しうなされていらしたので、
悪い夢を見てらっしゃるのかと」
「えっと……悪い夢…ではなかったと思うのですが」
内容は覚えてないけど、
悪夢ではなかったような……?
ああ、なんだか、ちょっと困ってたような気は……。
眠る前に、
図書宮の鍵をくれるなんて、
なんていい人なんだ、フェリス様!
とびきり美人な上に、いい人!
もしかして、神…? と感動しつつ、
大事にくまのぬいぐるみと黄金の鍵を抱いて眠った。
でも、あんなに何もかも持ってそうな人なのに、
何だか寂しそうなのはなんでなんだろう…と。
フェリス様のことを考えてたから、
フェリス様の夢だったような気も…。
「まあ。よい夢だったら、お起こしして、申し訳なかったです」
女官がカーテンを開けてくれると、柔らかい太陽の光が零れてくる。
よく手入れされた、いいお部屋だなあ。
サリアにいたときのレティシアの部屋は、こんなに日当たりよくなかった。
「いえ。朝ですから」
年若い女官がすまなそうな顔をしてるので、レティシアはぶんぶん首を振った。
この女官、初めて見る。
ずいぶん若い。
「お初にお目にかかります。
フェリス様から、レティシア様の身の回りの世話を仰せつかりました。
リタと申します」
綺麗な黒髪のリタは、十五、六歳くらいだろうか?
若くして、大役を任された誇りで瞳が輝いている。
「昨日まではレティシア様の御身が、王宮の女官がたお預かりでしたので、
いろいろと自由が利かなかったと思うのですが、
これよりは、私共の女主人として、安心してお過ごし頂けるようにお仕えします。
ささやかな身の回りのことはこの私に、難しいお悩みは女官長のサキにご相談ください」
「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します」
正式にご挨拶頂いたので、レティシアも、
ベッドの上で、思わず正座して、三つ指ついてしまう。
(国が違う)
白い寝巻姿ではあまり恰好がつかないが。
それにしても、昨日も思ったが、夜着もとても可愛い。
レースが幾重にもつらなってて、寝るためだけなのがもったいないくらい。
まあフェリス様とレティシアでは、
現状、そんな進展はまるきりないけど、
いちおう花嫁様の御寝巻きだからとっても可愛いのかなあ。
「いえいえ、姫様。
姫様に頭を下げられては、私が困ります」
「と言われましても……」
もちろん、レティシアがフェリス様の花嫁になるんだから、
当然、フェリス様の半身として、シュヴァリエ公爵夫人となるわけだ。
シュヴァリエ家の女主人として。
五歳にして、公爵夫人。
レティシアが、公爵家の女主人。
ぴんと来ない。
ちっとも。
中身は二十七歳相当だけど、見た目は五歳だよ、五歳。
コナン君みたいに賢くもないよ。
無理、あるよ、だいぶ。
「うー……」
三つ指ついた小さなレティシアの隣には、
フェリス様が贈ってくれた大きなくまのぬいぐるみ。
だいじょうぶ? と言いたげに、
図書宮の黄金の鍵を抱えたまま、レティシアを覗き込んでいる。
そのくまのぬいぐるみの存在に、ちょっと和んだ。
(大丈夫だよ。あなたは私に属するものになるんだから、必ず私が守る)
まちがいなく優しい、美しい王弟殿下の声を思い出して。
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