氷の美貌の王弟殿下
「私の花嫁とはいえ、
レティシアはまだ幼いから、
いますぐどうこうという危険はないと考えているが、
くれぐれも身の安全には気を付けてやって欲しい」
「御意。厳重に精査して、
信頼のおける者以外、姫の傍には近づけません」
私たちは似た者同士だね、と言ったら、
レティシアは
とてもとても驚いて、
そしてほんの少しだけ
安堵したような顔をしていた。
フェリスと似てる
と言われて喜ぶ者は、
このディアナ王宮にはそういないだろうから、
くすぐったいような気持ちになる。
いろいろと
レティシアにフェリスの本性がバレてしまったら、
すっかり嫌われてしまうかも知れないが、
少なくともいまのところは、あの小さい花嫁に
好かれている。
ような気がする。
誰かに好かれたいとか
誰かを手に入れようとか
誰かを守りたいとか
そんな望みを、フェリスは、
随分と昔に、捨ててしまったので。
こういうふわふわした感じは慣れないが。
お互いに、
望んだ結婚ではないとはいえ、あの子と話すのは楽しい。
異国から来た小さい姫は、
大人でも不勉強な者なら知らぬようなことをすらすらと応える。
それなのに、ときどき、はっとして、
余計なことを喋りすぎたろうか? と困った様子で、口を押さえている。
あの年齢で、
あの聡さや知識はおかしい、
と人々に不審がられて、
恐らく国許で居心地の悪い思いをしてきたのだろう。
「宮廷人は、自分より愚かな子供が好きだからな」
姫君は少し物知らずな方が好まれると窘められたと
レティシアは言ってたが、
それは何も「姫」や「女」に限った話でもない。
「殿下?」
聡い子供や、賢い子供は都合が悪い。
自分の思うように、子供を動かしたい者たちにとって。
「いや、私と違って、
賢いレティシアには苦労が多かろうな、と思ってな」
「レティシア様は、私に、王弟殿下に恥をかかせたくないから、
ディアナの作法を教えて欲しいと仰せられました」
レイの言葉に、フェリスは青い瞳を瞠る。
「私も、大切な我が主に五歳の花嫁とは如何なものか、
と密かに不満でございましたが、本日、あの言葉をお聞きして、
あのちいさい方を、心よりお守りせねば、と思いました」
「うるさ型のレイの忠義を得た
レティシアのここでの暮らしは安泰だね」
フェリスは混ぜっ返したが、
黄金の鍵を持つくまのぬいぐるみを握りしめながら、
殿下に恥はかかせません!
とはりきってるレティシアを想像してしまい、
あまりにも可愛らしくて、困ってしまった。
レティシアはおもしろくて可愛くて、愛おしい。
深窓のたおやかな姫君らしさが、ぜんぜんないところがまた可愛い。
フェリスは
普段あまり目立ちたくなくて、
感情も動かさないようにしてるので、
氷の美貌の王弟殿下とも称されるが、
実のところは、情の強すぎる一族なので、あまり思い入れないようにしたいのだが。
あの無防備な小さい柔らかい手は、
若くして世の中を諦め尽くしているフェリスを、いったい、どこに連れて行くんだろう。
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