美しい壁の花
「薔薇が見事ですね。
ずっとお庭、歩いてみたいな、て思ってたので、嬉しいです」
季節は春で。
花も鳥も草木も、春に浮かれているようだ
レティシアも、庭園でのお茶と散策に誘って貰えて、ご機嫌だ。
「レティシアは、今夜から、私の宮で眠るんだろう?」
「はい。たぶん、そのはずです」
詳細は聞いてないが、王弟殿下の宮の一室を頂くのだと思う。
「では、我が宮の女官には、我が花嫁の自由を保障するように、よく伝言しておこう。
散策も、お茶も、花でも衣装でも装身具も、
レティシアが欲しいものはちゃんと望んだらいいからね。
私は影の薄い地味めな王族だが、
小さな妃の暮らしを不自由させない程度の財産はあるはずだから」
「影の薄い……地味な……?」
人生で出会ったなかで、もっとも派手な顔の王子様が、真面目な顔で冗談を言っている。
「そう。いつも、誰かに虐められないように、壁際に隠れてるんだよ」
悪戯っぽくフェリスが言う。
「それは…、ずいぶん、壁が華やかになりそうですね」
なんて目立つ生きた壁画だ。
「はい。いつも、壁に、令嬢方が並んで、次のダンス待ちの列ができますよ」
絶妙な感覚でレイが横からあいの手を入れてくれる。
「レイ。私の可愛い花嫁に浮ついた男に思われるだろう」
「でも、その方がよほど想像できます。
きっとフェリス様と踊りたい可愛い方がたくさんいるだろうと」
ああ!
ちょっとミステリアスな、モテモテの美男の王弟殿下!
いいなあ!
どうせ生まれ変わるなら、雪も、男の子になって、
モテてみたり、勇者になってみたりも、楽しかったかも?
「こらこら、そこは喜んでないで、妬いてくれなきゃ、我が妃よ」
微笑してとがめる婿殿と、背景の白薔薇がなんと似合うことかと。
フェリス様、普通に、輝く太陽と薔薇を背負っていらっしゃる。
「は。すみません。至らず」
だって、ヤキモチなんて、そんな俄かに起こるはずもない。
今日初めて逢った人だし。
現世上は十歳年上、過去世ならば十歳年下。
頑張っても、自慢の美貌の兄か、弟が、やたらとモテてて嬉しいぐらいの感覚だ。
「舞踏会のフェリス様、とっても、絵になるだろうなあ、て…」
「おかしな、可愛いレティシア。じゃあ、うんと着飾って、一緒に出よう、舞踏会」
「え……」
それはどうだろう。
レティシアもこの華やかな王子殿下と一緒に出るのは、
なかなかにいろいろ言われそうな気がするが。
とはいえ、うんと着飾った婿殿はちょっと見たい。
「大丈夫。誰にも、私の花嫁に、文句など言わせないから」
「あ、ありがとうございます…」
うん。やっぱり。
いろいろ言われるだろうなーとは、婿殿も思うよね。
この組み合わせだし。
でも、美貌の婿殿は、微笑んでても、なんか強そうだ。
(異様に、迫力がある…)
レティシアも、優しい彼にあまり恥をかかせぬように、
いろいろ頑張ろう。
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