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172.0話 ご機嫌少女と置いてけぼりな子

 


 ―――11月4日(土)



「憂? 憂は何を……プレゼント……?」


 千穂さん、ご機嫌さんですねぇ。もうお買い物にしか意識行ってないのかもしれません。千穂さんの機嫌が良ければ、憂さんもご機嫌……。

 その2人の笑顔は、プラスの効果を生み出す……。


 早い事、こうすれば良かったんやわ。ウチもまだまだですねぇ。


「くす……。貴女もご機嫌、麗しいご様子ですね」


「遥さん。わざわざすみませんねぇ。懐刀さん、自ら送って下さって……。その効果は絶大ですわぁ」


 ……国内は落ち着いてきた……と、言う事ですかねぇ? 頼もしいお人やわ……。


「来週には肇も戻って参ります。そうすれば学園内に潜む、不埒な輩への大きな牽制となるでしょう」


「それは……助かりますよって……」


 総帥さん、自ら……ですかぁ。総帥にとっては、学園内の敵意など些細な事なのでしょうねぇ。それよりも命に関わるほうを優先と言う訳ですわぁ……。


 それにしても、こないに大きな……、いけません。思考は標準語でいかなあき……。


 …………。


 ダメですね。なんでこんな関西方面の言葉は強いんですかねぇ?


「この車は?」


 大きな白い……。ググった(先生に聞いた)ら大型ミニバンって結果。大型のミニとは面白いですねぇ……。


「憂さまとご学友の送迎用に購入したものです」


 ……いくら使えば気が済むんでしょうか? こないな金銭感覚になりとう……、なりたくないですねぇ。


「――ないしょ」


 随分と間が空いてしまいましたが、プレゼントの話ですね。

 内緒ですかぁ。ウチも何か頂けるのでしょうか?


「内緒!? ずるい!」


 憂さんは想いをプレゼントに籠めておられますからねぇ……。千穂さんにはちゃんと思い出してきているんだよ、とカピバラのぬいぐるみを。拓真さんには、バスケメンバー全員でバッシュを渡すことで、バスケを続けて欲しい、と。千晶さんには、まだ教えて頂けてないけど、きっと想いの表現をされてます……。


 ……ええなぁ……。


「――うぅ――ずるく――なぃ――」


「ね? 教えて?」


「千穂さん? いけませんえ?」


 追求されると隠し切れないんですから……。














「おはようございます! 憂先輩! 千穂先輩!」


 七海さん。この方は良く理解されてますねぇ。ウチら護衛には挨拶は必要ありません。


 ……美優さんは七海さんと一緒にいると存在が掠れてしまいますねぇ……。バスケをしている美優さんは、あ……んなに存在感を見せはるのに……。


「それではお気を付け下さい。憂さま、千穂さまに何かあれば、肇が悲しみますので」


「任せておくれやす。学生相手ならウチらで戦えますえ?」


 護衛の増員は提案されました。でも、不要ですわぁ。あの記者会見で憂さんが発言しなかったとしても、空気は戻りました。憂さんへの想いを持つ変わらない人はどの道、動いてくれはったんです。もっと時間は掛かったかもしれませんけどねぇ……。


「放課後の護衛体制は、不備の無いよう、整えておきます。安心して、千穂さまのエスコートをなさって下さい」


 至れり尽くせりです……。『もしも』は必要ありませんからねぇ。


「それでは失礼します」


「遥さん! ありがとうございます!」


「――遥さん――ありがと――」


 お2人は揃ってお礼……。ホンマ、ええ子たち……。


 ……。


 本当にいい子たち。



 遥さんは行ってしまわれた。任務開始ですねぇ。


 ……とは言っても、憂さんと千穂さんは親衛隊に守られて……、ウチらする事ありません。


「助かるなぁ」


 ……康平さん。


「そうですねぇ。ウチらだけやと、視線までは防げませんからねぇ。親衛隊の人数なら、それさえも防いで下さる。ところで、康平さん?」


「なんや?」


「ヤケに車内で静かでしたねぇ?」


「…………」


「今度は遥さんですえ?」


「『今度は』ってなんや!? ワイ、あの秘書さん、苦手なんや。お前そっくり……」


「……それはウチも苦手言うことですかぁ?」


「いや、そうじゃない! そうじゃないぞ!」


 ……なして標準語になるんですかねぇ……?








 親衛隊の皆さんは今日もC棟校舎内まで……。


 今日は佳穂さんのお誕生日。千晶さんの時には無かった監視カメラが、ようやく設置されましたわぁ。せやから、憂さんらと通学です。その方がウチもいいです。離れると怖いですからねぇ。

 千晶さんの時より、事態も落ち着きが見られます。早々、悪意もぶつけられません。慎重になる必要があるのは、開封の時くらいですわぁ。これには康平さんの力が有効です。もう、彼は東門で待機中。おっかない外見が役に立つんですから、世の中面白いです……。



 それより……。



 親衛隊の皆さんは、いつまで続けるつもりですかねぇ?


 ……部長さんも困ってはるわぁ。


 部長さんは6組に転室ですねぇ。こないにコロコロクラスメイト変わってしもうて、6組さんも大変やわ。


「どうですかぁ? 人数、増えましたえ?」


 顔色はええみたい。でも苦笑いしながら「今のところ、1名のみ戻ってきました。全盛期にはほど遠く……。正直、親衛隊が立て直していなかったらと思うとゾッとします」


「そうですねぇ……」


 もうしばらくは親衛隊の力が要ります。でも、これから先、憂さんは通常に戻っていく必要があるんですえ? それを七海さんが理解しておられる……?


「それでも、部長さんには期待しているんですえ?」


 ……今日は親衛隊の皆さん、教室内への突入は無し……ですかぁ……。


「……!! ありがとうございますっ!」


 ……こちらが言うべき台詞なのに、この部長さんは……。



 5組の前では、七海さんがしっかりと頭を下げ、親衛隊に「落ち着いてきたからここまでだよっ!」と解散宣言。


「えー?」って聞こえた不平不満にも「今度、親衛隊の会合に憂先輩も参加して頂きますから我慢ですっ!」と応対……。美優さんも驚いてはるわ。よく見えてはる。あの親衛隊長さんは案外、考えて動いているのかもしれませんねぇ。学園長の呼び出しで何が話されたんでしょう……?


 ええ機会ですかねぇ……。


 そろそろC棟への引き篭もり脱却も視野に入れますかぁ……。中等部ならええでしょう。










「佳穂! 千晶! おはよ!!」


「あれー? 親衛隊は?」


「おはようさんや!」


「みんな、おはよ」


「――おはよ!」


 佳穂さん、千晶さん。貴女がたのSS(シークレットサービス)もそろそろ不要ですかねぇ? いえ、あとひと月は要りますか……。外は危険です……。

 プレゼントはまだ少ないですねぇ。佳穂さんは、ここしばらく獰猛なワンコみたいでしたから、贈りづらくて、千晶さんより少ないと予想してます。


「梢枝さんにスルーされたー!」


「おはようございます。佳穂さんは挨拶されてませんけどねぇ……」


「……そうだっけ? おはよ!」


 佳穂さん、明るうなりはった。やっぱり千晶さんと一緒がええですわぁ……。時間は本当に関係を癒やしてくれるんですねぇ……。


 ……それでも(わだかま)りは……。千晶さん? 言うてもええんやないですか?


 ……言いにくいですよねぇ。ウチの親がそうだったら……、やっぱり言いにくいわぁ……。


 その千晶さんは、憂さんと千穂さんの会話に乱入。


「なんか千穂、元気だね。うざいくらい」


 酷い言葉ですねぇ。


「――うざい?」


 聞き取りはった……。ははっ! 千晶さん、慌ててはる!!















 授業もあと3分で終了。千穂さん、そわそわしてるね。


 よっぽど、ストレス溜まってたみたい……。申し訳ない事をしましたわぁ……。


 今日、変わった事と言えば、デイビッドからこっそり頂いたメモ書きくらい……。


 本国からの連絡。憂さんの情報提供を呼び掛けられた。髪の毛を1本だけでいいから送って欲しい。他の非常勤講師たちも同じような状況……。


 予想通りと言うか、何と言うか……。困りましたねぇ。


 海外との折衝はウチらやのうて、総帥の領域。それでなくとも、遥さんは多忙でしょうに……。

 まぁ、仕方ありませんねぇ。ウチらは身辺の警護ですわぁ。身の丈に合った事をするのみ……。


 …………。


 はぁ……。授業……、退屈でいけません。


 あと2分……。


 …………。


 憂さん、一生懸命ですねぇ。

 少し前、欠席していた憂さんは、停学中の圭佑さんに想いをぶつけはった。


 学園を休んだ理由は、怖かったり、視線が痛かったりした事が一番の理由じゃない。むしろ、自分が学園に行けば、嫌な思いをする人が出てしまう。それを嫌がった……。


 やっぱり憂さんは憂さんだね。自分の事は二の次にして、人の側に立てる優しい人。それも敵意を見せ付けてくる相手を思いやって……。


 ……凄いよ。ウチには無理。そんな憂さんだからウチだって想うよ。


 千穂さんが結論を出して……、佳穂さんが……。


 随分と順番が後ろ……。叶わないかな……?



 千穂さんに言われた時は驚いた。悩まされた。千穂さん、よー見てはるわ。あんなにおっとりしてるのに……。



 ……憂さん。



 ……ぎりぎりまでセンセの言葉を聞き逃すもんか……。そんな意志を感じさせる横顔。



 勉強はちょっと休憩。これは額面通り。優しい憂さんでも、真正面から敵意をぶつけられ、気持ちをリセットする必要があった。圭佑さん、グッジョブですねぇ……。


 あ。圭佑さんも告白しはったんやった。



 ……………………。



 ウチは諦めますかぁ……。



 終業の鐘。



 憂さんは伸び上がって体を解す。


 ヘソ……見えません……。いつの間にやら、一枚増やされはった。


 …………。


 ……残念。


 行きますかぁ。席、もう少し近くに……。


 …………。


 ここがあの子を護るには……。出入り口に近いこの席が都合ええ……。寂しいわぁ……。


「ちほぉー! マジであたしら置いてくんかー!!」


「佳穂。わがまま言わない。あたし『ら』言うな」


「付いてこられたら迷惑ですっ!」


 それはそうですね。千穂さんの買い物……。あなた方へのプレゼントもですわぁ……。


 憂さん……。理解に及んでいませんねぇ。何よりです。

 憂さんはまだ無理ですえ? 遥さんと見解は一致していますわぁ……。余所の学校の生徒には、退学の可能性と云う自制を促す最大要因がありません。


 ……いつか戻してみせます。


 未だに『大人たち』から怪しまれている総帥は、貴女の完全な味方……のはずですわぁ……。











「わ! 野菜高い!! いつの間にこんな事に!!」


 ……活き活きしてはるねぇ。まぁ、ネギがはみ出した買い物袋を下げた姿が似合う千穂さんですからねぇ……。よく考えてみると、変わった女子高生なのかも……。


「梢枝さん!? どうしたらいいですか!?」


「……聞かれましても」


「ぷくく……」


 康平さん? 怒りますえ?


「何が食べたいですか? 明日は私がぜーんぶ作るんですよっ!」


「そうですねぇ……。今度は千穂さんの作りはった焼きそばとかええですねぇ……」


 あのパジャマパーティーで、千穂さんは見てただけですからねぇ。


「焼きそば! ……キャベツに人参、ピーマン……。高いなぁ……。あー! もやしまで上がってるぅぅ!! んー? でも、買ったその日に作りたいですよね? お誕生日会、サボっちゃおうかな? どう思います?」


 よう喋りはるわぁ……。

 スーパーでの買い出しで元気になりはる千穂さん……。


 ……オバサン言いはった佳穂さんの気持ちが……。


「豚肉は売り出し! 広告に載ってたから! うん! 余った野菜で、炒め物かな? 他になに作ろう? 康平くん、何がいい?」


「え!? ワイは自分ちで食べるよ!?」


 ……康平さんも空気読みませんねぇ……。


「そっ! そんな泣きそうな顔すなや! 行く! 食べにいくから!」


 ……千穂さんに突っ掛かる輩は居ませんねぇ。千穂さんは学園を飛び出て、この蓼園市で有名人になりはった。


 好意的な視線がほとんど(・・・・)ですわぁ……。

















 そうして、千穂が買い物を満喫している頃……。


「千穂? 千穂は……えっと……、出掛けた……よ?」


 普段はご飯のお知らせに来るくらいしかしない憂が何を思ったか、お隣の漆原家を訪ねた。ここへ引っ越し以降、よく覗きに来る千穂が来ないからであろう。

 千穂は憂に内緒のまま、買い物へと出掛けたのである。


 千穂パパは、千穂の不在を誤魔化せるはずもなく、憂は千穂の『お出掛け』を知ってしまったのだった。


「ずるい――!!」


 知った憂も当然ながら、我慢している。

 元々、家に閉じ籠もるタイプでは無いのだ。


「ボク――おこった――!」


 頭わしゃわしゃはしていない。まだマシな状態なのだろう。怒ったとイライラが頂点に……。微妙な違いが行動の違いを生んでいる……のか?


「ゆ、ゆうちゃん?」


「――バスケ――したい――のに――」


「――がまん――してるのに――」


「ちょっ! とっ、とにかく、中に……!」


 ポロポロと大粒の涙で感情を露わにした憂を、自宅に招き入れ、慰め続ける羽目になった千穂の父なのであった。





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