第98話 ようやくの再会
前回のあらすじ)二階を探索したリズは浮遊体に脅かされて気絶した
「うわぁぁぁっ」
喋る生首の夢を見た気がして、リズはベッドから跳ね起きた。
はぁはぁと荒く息を吐いて、辺りを見まわすと、古めかしくも落ち着いた室内が目に入る。
日は落ちているようで、窓の外は既に暗闇に包まれていた。
「あれ、えっと……?」
なんだか記憶が混乱している。
呼吸を整えて一度整理をしよう。
確か……地上支配のために貧民街の支配者を操ろうともくろんだ。
そして、意識を失ったふりをして支配者の館に潜り込んだのは覚えている。
あちこちをチェックされた後、拷問官の少女が出て行って。
それから、何がどうなった……?
結局地下への入り口はなかなか見つからなくて……。
その先を思い出そうとすると、頭がズキズキと傷む。
「あ、起きた」
声がしてキッチンのほうへ顔を向ける。
嬉しそうに顔を覗かせたのはエルフの少女だ。
「ご、拷問官っ」
「ごうもんかん……?」
「あ、いや……」
言葉を濁すと、エルフの少女は奥へと声をかける。
「ゼノス。行き倒れの人、起きたよ」
「おお、そうか。気絶だからそのうち起きると思ったが」
食卓のあった部屋から誰かがやってくる。
「男ぉぉぉっ!」
「……は?」
「……いえ、なんでもないですわ」
男だ。
男が来た。遂に待ち望んでいた男……!
ようやく手駒にできる相手がきた。
はやる心を押さえつけながら、まずは相手を観察する。
種族は人間だ。
黒髪で飄々とした雰囲気。
不思議なことに、どこかで見たことがある気がする。
目を壁に向けると、黒い外套がかかっていた。
――あれ……ちょっと待って…‥?
黒髪に、漆黒の外套を羽織った人間。
部下のガイオンに聞いていた支配者の外見そのままではないか。
――来た……! 粘った甲斐があったわ。
いきなり訪れた支配者との対面。
想像していたより優しげな顔で一瞬虚をつかれたが、おそらく間違いない。
こういう一見穏やかに見える奴がやばいことは往々にしてある。
そばにいるのはエルフの拷問官だけ。
側近ということは腕は立つのかもしれないが、隙をつけば不可能ではない。
支配者に少し傷をつけて、血を流し込めば、もう私には逆らえないのだ。
「気分はどうだ?」
「え、ええ、なんとか」
ゼノスと呼ばれた支配者が近づいてくる。
あと、もう少し。
もう少し距離が縮まれば、手が届く。
軽く握った拳の中で、人差し指の爪がきゅうと伸びて尖った。
しかし、支配者はそこで立ち止まって、じっとリズの顔を眺めている。
――まさか、攻撃の気配に気づいた……?
身を硬くしていると、相手はしばらく考え込んでこう言った。
「なあ、もしかしたらだけど……」
何度か首をひねって、確かめるように続ける。
「リズ姉、か?」
「は……?」
ぽかんと口を開いたリズは、その両目を大きく見張った。
ゼノスという名前、どこかで聞いたことがあった気がした。
そして、この面影に記憶があったのも、ガイオンに聞いたせいではなかったのだ。
自分は、この男を知っている。
リズは手を口に当て、恐る恐る言った。
「まさか……孤児院の……あのゼノスちゃん?」




