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第85話 小火【前】

前回のあらすじ)貧民街の夜祭ゲーム大会はカーミラの優勝で幕を閉じた

 白熱のゲーム大会が意外な形で終了し、後はのんびりと祭りの余韻を楽しむ流れになった。


 賑やかな祭りばやしを耳にしながら、ゼノスは大通りに並んだ屋台の一つで串焼きを頬張っていた。


「そういえば、ゲーム大会の優勝者の姿が見えないが」

「カーミラさんは人目につきすぎたって、帰っちゃったよ」

「今さらだけどな……」


 ただ、祭り参加者の大部分は、いつも治療院に来る面子だから、初見の者はほとんどいなかったはずだ。

 ちなみに優勝賞品の高級酒はしっかり持ち帰ったそうだ。


「先生、楽しんでくれてるかい?」

「ああ、おかげさまでな」


 亜人の女首領達がぞろぞろとやってきて、ゼノスを囲むように座った。

 ゾフィア達は溜め息をつきながら夜空を仰ぐ。  


「しかし、カーミラに優勝を持っていかれるなんてねぇ」

「変なルールを作るんじゃなかったとリンガは思う」

「運勝負なら仕方がない。まだその時ではないと天が言ってるのかもしれんな」 

「でも、リリは楽しかった」


 四人の間に妙な戦友感が漂っているのは気のせいだろうか。


「まあ、なんとか無事に終わりそうでよかったさね」


 貧民街でひらかれた初めての祭り。

 主催のゾフィア達はどこかほっとした様子で互いに乾杯をした。


「今回は内輪の参加者が中心だけど、来年はもう少し大きくしたいねぇ」

「話題になれば参加者も増えるとリンガは思う」

「いずれは貧民街を代表する祭りになるかもしれんな」

「そうしたら、市民の人達も来るようになるかな」


 リリの何気ない一言に、場の空気が固まる。


「あ、ごめん……」


 階級に支配されたこの国では、市民と貧民の隔絶は限りなく大きい。

 中にはウミンやベッカー達のように差別意識の薄い者達もいるが、基本的には少数派だ。

 ゾフィアはふっと笑って、リリの頭をなでた。


「いや、いいのさ、リリ。そうだね、もしかしたら、いつかは……」


「リンガは全く想像できないけど……」

「しかし、時代を変えるのは案外リリのような子供なのかもしれんな」 


 リンガとレーヴェが続けて言う。

 

 そのままなごやかに談笑していると、ゾフィアの弟のゾンデが焦った顔で現れた。


「姉さん、ここにいたのか。ちょっと来てくれないか」

「……?」

 

 ゾフィアは首をひねって立ち上がる。  

 

「どうしたんだい?」

「妙な奴らが現れたんだ」

「妙な奴ら?」

「ああ、祭りに乱入してきていちゃもんをつけている」


 ゾフィアが目を細め、リンガとレーヴェも立ち上がる。 

 

「ゼノス」

「ああ、俺たちも行こうか、リリ」


 リリとゼノスも亜人達の後に続くことにした。


 大通りを進むと、会場の入り口辺りがなにやら騒がしい。

 リザードマンにワーウルフ、オークらの向こうに十数人の男達がいる。 


 先頭に立つのは鋭い牙を生やした筋骨隆々の大柄の男だ。肌は緑がかっており、色々な亜人の血が複雑に混ざっているように見える。


「おいおい、なんだよこりゃ。天下の往来で勝手なことをやられちゃ困るぜ」


 一同を見下ろすように男は言った。

 先頭に出たゾフィアが、静かに相手を睨みつける。


「あんた、誰だい?」

「あぁ、誰でもいいだろうが。お前が責任者って奴かぁ?」

「ま、一応そうさね。なにか迷惑かけたかい?」

「かかりまくってんだよぉ。うるさくて眠れねえんだよぉ」

「それは悪かったねぇ、もうすぐ終わるから勘弁しておくれよ」 

「それに屋台が邪魔で道が通れねえだろぅ?」

「通りたきゃ勝手に通んな。別に邪魔はしないさ」

「ほーぅ」


 男は一つ目を細めると、手に持つ棍棒でそばの屋台を突然殴りつけた。

 強烈なまでの膂力に、仮設屋台の半分ほどが木っ端微塵に弾け飛ぶ。

 店主のコボルト族が「ひっ」と悲鳴をあげて、慌てて逃げ出した。  


「俺ぁ見ての通り、でけえからよぉ。ここを通るなら邪魔な屋台は全部壊さねえとなぁ」

「なるほどねぇ」 


 ゾフィアはぴくりとも反応せず、腕を組んだまま一段低い声で応じる。


「要は喧嘩を売りに来たってことかい」


「ゼノス。あの人達は……?」


 後ろにいたリリが、不安そうにゼノスの袖を引っ張った。


「わからないけど、もしかしたらーー」


 この祭りは貧民街の三大勢力であるリザードマン、ワーウルフ、オークが仕切っている。

 貧民街の盟主たる三種族の祭りごとに口を出すのは普通は容易ではないはず。


「もし、それができる勢力がいるとしたら――」


 ゼノスが言おうとしたことを、ゾフィアが先に口にした。


「あんたら、地下ギルドの奴らだね」

見つけてくれてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 普段闇に隠れて生きる連中が、お祭り騒ぎだからってちょっかいかけにくるなんて、妙ですな。 別に表が騒いでようがそのまま闇に紛れてればいいのに。 普段やってることと、今やろうとしてること…
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