第83話 貧民街の夜祭【4】
前回のあらすじ)ゼノスへの告白権を密かに賭けた女達の夜祭ゲーム大会は、四どもえのまま佳境を迎えていた。
「速報! 速報!」
祭り広場の中央ステージで声を張りあげているのは、ゾフィアの弟ゾンデ。
各ゲームブースから届いた結果をまとめて発表するようだ。
「ゲーム大会の現在の順位だが、126点で同率一位が四名。我らのお頭ゾフィア、ワーウルフの首領リンガ、オークの頭領レーヴェ。そして、エルフのお嬢ちゃん、リリ!」
会場のあちこちから大きな歓声が上がる。
「さあ、四つ巴の勝敗の行方は果たして! 栄冠は誰の手に渡るのかっつ! 心して結果を待てぇぇぇっ! そして、頑張れ姉さん」
「あいつ、あんなキャラだったか……?」
ゼノスはステージを見上げながらつぶやく。
しかも、最後さりげなく姉を応援していた気が……。
四人の女達は、その後もデッドヒートを繰り広げ、横並びのままいよいよ最終ゲームを迎えた。
「くくく、面白くなってきたではないか。血がたぎるわっ」
「血流れてないだろ……」
盛り上がるカーミラと並んで、ゼノスは最後のゲームブースに足を運んだ。
注目の一戦は会場全体で話題になっているようで、大勢の観客が集まっている。
「ゾフィア姐さんっ、勝ってくだせえっ」
「優勝するのは、リンガのお頭に決まってんだろうっ」
「レーヴェ様ぁぁ、オークの気概を見せてくださぁぁい」
「リリちゃーん! 可愛いー!」
それぞれの応援団が、大歓声を上げる。
全方位からの声援を受けながら、女達が向かったのは最後となるワーウルフのブースのゲーム。
「さて、最後のゲームはなんだい?」
「ふっ。リンガ達の用意したのはこれだ」
リンガが指さした先には、五つのサイコロが置いてある。
それを同時に振って、出た目の合計が点数になるという。
そういえば、リンガ達ワーウルフは賭博場を運営していたことをゼノスは思い出す。
「へぇ、いいじゃないか。最後は一番運がいい奴が勝つってことだねぇ」
「わかりやすくて我好みだ」
「力のいらないゲームでよかった……」
ゾフィアとレーヴェとリリがそれぞれの思いを口にする。
「ということは最大30点ってことだね」
「そうだけど、一つ特例がある」
確認するようにゾフィアが言うと、リンガは看板に書かれたルール表を指さす。
「基本的には出た目の合計が点数になるけど、全部が1だった場合は特別ボーナスとして一万点がもらえる」
「はあっ? 一万点って、今までのゲームの意味がほとんどないじゃないかっ」
「リンガらしい無茶苦茶なルールだな」
「リリ、一万点欲しい……!」
とは言え、五つのサイコロ全てが1など滅多に出るものではないため、とりあえずは普通にゲームを開始する。
最初はゾフィア。
「頼むよっ……」
念じるように言って、五つのサイコロを投げ上げる。
地面に落ちたそれらは6が四つに、5が一つだった。
「おおっしゃ!!」
ゾフィアはガッツポーズをする。
29点。かなりの高得点だ。
その強運に周囲がどよめく。
「やるなゾフィア。だが、我の運の太さを舐めてもらっては困る」
続いたのはレーヴェ。
天高く投げ上げたサイコロの目は同じく6が四つに、5が一つ。
「はーはっはっは! 見たかぁぁ!」
「ちっ。同点かい、しぶどい女だねぇ」
高笑いをするレーヴェに、苦々しく口を開くゾフィア。
次に前に出たのはリンガだ。手には赤いサイコロを五つ握っている。
「さて、リンガは特製のサイコロでやらせてもらう」
「って、ちょっと待てぇぇっ。それイカサマサイコロだろっ」
「なぜリンガだけ特製サイコロなのだっ」
「し、失敬な。リンガが不正行為を働くように見えるかっ」
「めちゃめちゃ見えるよっ」
「我らと同じサイコロを使えっ」
結局、ゾフィアとレーヴェに特製サイコロを没収されたリンガは大きく肩を落とし、地面に転がったサイコロを拾い上げた。
目を固くつむって、ポイと投げる。
出た目は6が四つに、5が一つ。
29点だ。
リンガは目を丸くした後、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「どうだっ。イカサマサイコロを使わなくてもリンガはこのくらいの実力はあるのだっ」
「こいつ、思い切りイカサマサイコロ認めたね……」
「むむ、三者同点とはっ……」
白熱した展開に観客達から咆哮のような声が上がる。
「くくく、さすが亜人の頭領になるだけあって強運の持ち主揃いではないか。面白かろうてっ。さあ、勝負の行方はどうなるっ」
「お前、めちゃめちゃ楽しそうだな!?」
興奮気味のカーミラに、ゼノスが突っ込む。
最後はリリ。
緊張した面持ちでサイコロを拾った。
ゼノスに一瞬視線を向け、何度か深呼吸を繰り返す。
「……大丈夫。きっと大丈夫……!」
えいっ、という掛け声とともに握ったサイコロを空中に放つ。
ゼノスの足元にコロコロと転がったサイコロのうち四つは、6を上に向ける。
最後の一つは何度か地面で跳ね、ゼノスの目の前で止まった。
6。
わっ、と歓声が上がった。
「30点っ! 合計156点で、優勝はリリぃぃぃっ!!」
「え、わ、わ、わわわ、こんなことって……」
ゾンデの実況に、驚いた様子のリリは声にならない声をあげる。
亜人の女達はその状況を呆然と見つめた。
「まさかリリが優勝を持っていくなんてねぇ」
「ぐぐぐ、リンガは悔しい」
「ゼノスへの告白権はリリが獲得か……」
「告白権ってなんのことだ?」
「え、いや、それはっ……」
首をひねるゼノスに、リリは顔を真っ赤にして手を振った。
ゼノスの隣にいたカーミラが腰を曲げて、転がったサイコロを拾い上げる。
「くくく……リリ。熱い戦いを見せてもらったぞ。わらわが手を貸すまでもなかったわ」
「カーミラさん……!」
カーミラは健闘を称えるように、拾ったサイコロを片付けようと、元の盆の中に投げ入れた。
「え……?」
「え……?」
「え……?」
「え……?」
全員の目が点になる。
転がった五つのサイコロは、全て一の目を上に向けていたのだ。
「は……?」
当のカーミラ自身も目を丸くする中、司会のゾンデが困惑したように告げた。
「えっと……あの、優勝はたった今、一万点を取った半透明のお姉さん……カーミラ」
溜め息ともつかない微妙な歓声が沸き起こる。
女達は大きく肩をすくめて、苦笑した。
「……ほら見ろ、リンガ。あんたが変なルール作るせいだよ」
「まさか実際に全部1を出す者がいるとは、リンガも思っていなかった」
「我らの白熱の戦いはなんだったんだ……」
「でも、リリ、まだ心の準備ができてないからよかったかも」
どこか安堵したリリの視線の先では、欲しい商品を聞かれたカーミラが「酒じゃあ、酒を持ってこんかぁっ」とヤケ気味に叫んでいたのだった――
結果オーライ……!?
闇ヒーラー、二巻準備中です。続報でればまた告知します。
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