第83話 貧民街の夜祭【3】
前回のあらすじ)ゼノスへの告白権を賭けた女達のゲーム大会は互角のまま第二ステージに突入するのだった
水面下でゼノスへの告白権を争う女達が、次に向かったのはオークが運営するブースだ。
「お、お頭もやるんですかっ?」
「うむ。どうしても負けられないんでな」
先頭に立ったのはレーヴェだ。
首をゆっくりとまわすオークの女首領の前には、一抱えもあるような岩が置いてある。
「ちなみに、オークのゲームはなんなんだい?」
「はっ、見ればわかるだろう。ゾフィア」
レーヴェは指をこきこきと鳴らしながら当然のように言った。
「この岩を手刀で何回で割れるかを競うゲームだ」
「はあっ? なんだい、それ?」
「そんなの簡単にできるかっ、とリンガは思う」
「そ、そんな……」
残るゾフィアとリンガとリリはうろたえた表情を浮かべる。
「ほう、この程度の岩割りもできないのか? 乙女のたしなみであろう」
「どんな乙女だ……!?」
思わず突っ込むゼノスの前で、レーヴェは右手をゆっくりと振り上げた。
はあっ!という掛け声とともに手刀を縦に一閃。
激しい衝撃音が響き渡り、岩は粉々に砕け散る。
「ははははっ、我の女子力を見たかぁぁっ!」
「そんな女子力があるかいっ。くっ、この馬鹿力っ」
「絶対嫁にしたくないタイプだとリンガは思う」
「ぬ、ぬうっ……」
「最後の呻き声はリリか……?」
新たに運ばれてきた岩の前に立ったのはゾフィア。
二、三度息を吐くと、小さく呟いた。
「<<鱗硬化>>」
次の瞬間、掲げた右腕が逆立った鱗に覆われる。
降り降ろした拳で、岩が弾け飛んだ。だが、幾つかの塊が残ってしまう。
結局、全て破壊するまでにもう二撃必要だった。
「ちっ。奥義まで出したってのに……」
「ふう、少し驚いたぞ。だが、このゲームでは我が一番だな」
「リンガを忘れてもらっては困る」
ずいと前に進み出たリンガは、両手に斧を持って思い切り振り被る。
「って、ちょっと待てぇぇっ、斧使うのは反則だっ、リンガ」
「この手斧はリンガの身体の一部。爪が変形してこうなった」
「そんな屁理屈が通用するかいっ」
レーヴェとゾフィアに手斧を没収されたリンガは、しぶしぶ鋭利な爪で岩を削る。
しかし、岩が形をなくすまでには、五回ほど手刀が必要だった。
「くっ……まだ勝負がついた訳じゃない」
「次はリリ」
悔しがるリンガの横で、足を進めたのはリリだ。
「いや……さすがにリリには無理じゃないかい?」
「やめといたほうがいいとリンガは思う」
「一応、子供用には風船を用意しているぞ。そっちを使うといい」
「ううん、みんなと同じ条件じゃないと意味がないもん」
亜人達が止めようとするが、リリは決意のまなざしで首を振る。
静かに腰を落とし、こほぉぉぉ、と息を吐いた。
冷気のような、張り詰めた空気が辺りに漂う。
誰かが、ごくり、と喉を鳴らした。
「しゃっ!!」
強烈な手刀が、風を切って振り降ろされ――
ぴたん。
「……」
わずかな間があって――
「いったーい!!!」
リリは右手を押さえて、うずくまった。
「まあ、そうなるよねぇ……」
「雰囲気だけは達人みたいだった」
「我は一瞬びびったぞ……」
「大丈夫か、リリっ」
ゼノスはリリに駆け寄り、赤くなった右手を確認する。
どうやら折れてはいないようでほっと息を吐く。
「うぅ、やっぱりリリには無理だった……」
肩を落とすリリだが、直後ぴしっ、と岩にひびが入った。
そして、ばりばりと縦に割れていく。
一同があっけに取られる中、リリは驚いた顔でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「……や、やった。愛の力……!」
「ま、まじかいっ?」
「意外なダークホースが現れた」
「エルフ、恐るべしっ」
かしましく騒ぎながら、女達は次のゲームブースに進む。
後ろに立ったゼノスは、半分閉じた瞼で横に顔を向けた。
「……なあ、カーミラ」
「……なんじゃ?」
「今の、お前が気配を消してやったんじゃないだろうな……?」
「なんとっ……! わらわがそんな無粋な真似をすると思うか!?」
「うん、思う」
「よくわかっておるでないか」
「やっぱりな……!」
カーミラはにやりと笑って言った。
「くくく……ワーウルフの手斧を密かに拾い、気配を消して縦割りにしてやったわ」
「それ……反則じゃないか?」
「馬鹿め。死霊王のわらわに反則などという概念が通用するか」
「まあ、存在自体が反則みたいなもんだからな」
「褒められてるのかけなされてるのかわからんぞ……」
「カーミラはリリの肩を持つってことか?」
「ふん、わらわはただ白熱したゲームが見たいだけじゃ」
ふよふよと浮かんだカーミラは得意げに腕を組む。
「だって、そのほうが面白かろうもん」
面白かろうもん…!
女達の茶番、次回クライマックス…!
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