第82話 貧民街の夜祭【2】
前回あらすじ)貧民街の夜祭で女達はひそかにゼノスへの告白権を争うことにした
貧民街の夜祭りでは、ゼノスへの告白権をめぐり、女達の水面下での戦いが幕を開けていた。
最初にゼノス一家と亜人の首領達がやってきたのはリザードマンのブースだ。
「ちょっと弓を貸してくれるかい?」
スタッフのリザードマンに、ゾフィアが声をかけた。
ゲーム内容は射的。
小さな弓矢で的を狙い、中心に近いほど点数が高くなる。
3回撃って合計点を競うようだ。
「え、お頭もやるんですかい?」
「ああ、ちょっと負けられない事情があってね」
ゾフィアは矢をつがえると、狙いすましてそれを放つ。
三本ともが見事に的の中心に突き刺さり、小さな歓声が周囲で上がった。
「はっ、ざっとこんなもんさ」
「くっ、リンガは負けない」
続いたのはリンガ。
しかし、二本は中心に当てるが、一本は中心を外してしまう。
リンガはがっくりと膝をついた。
「くっ……!」
「はっはっは、残念だったな、リンガ。次は我だな」
ずいと前に出たレーヴェが弓を引くが、力が強すぎて弦が切れてしまう。
「ぬっ、なんてことだ……!」
「あらら、残念だねぇ、レーヴェ。弦が切れたら矢は撃てないねぇ」
「ぷくく。レーヴェは0点。リンガとは随分差がついた」
「なんのぉぉっ!」
レーヴェは矢を直接握って、的に向かって投げた。
轟音とともに、二本が中心をまっすぐ貫く。
その剛腕に周囲からは驚きの声が上がった。
「くっ、しぶとい女だね。でもあたしがリードだっ!」
「慌てるな。まだ勝負はついていないとリンガは思う」
「ああ、すぐに逆転してやるぞ」
ガッツポーズをするゾフィアと、悔しそうに歯ぎしりするリンガとレーヴェ。
「あいつら、なんでこんな必死になってるんだ……?」
「くくく……なんでじゃろうのぅ」
後ろで腕組みしているゼノスとカーミラの横で、リリが緊張しながら歩み出る。
「リ、リリだって」
しかし、思い切り弓を引いても、矢が的まで届かない。
「むむぅっ……!」
リリは両の拳を握りしめ、悔しさを露わにする。
「リリ、別にお前まで無理する必要はないんじゃないか?」
「絶対に負けられない戦いがそこにある……」
「おーい、聞いてる?」
「……空よ、大地よ、風の声を聴け……あまねく大気の粒子達よ……」
リリはぶつぶつと何かを唱えだした。
それに伴って、周囲の大気が小さく渦を巻く。
「ほう、風魔法か。さすが生まれながら膨大な魔力を持つと言われるエルフよのう。くくく、白熱してきたではないか」
「これ、単なる祭りのゲームだよな……?」
にやりと笑うカーミラにゼノスが突っ込む。
リリの「【突風】(ウィンド)」の詠唱とともに放たれた矢は、風に乗り、的の中心を射抜いた。
「しゃっ!」
「え、リリ?」
「ふぅん……やるじゃないかい、リリ」
「……なるほど。リリはリンガ達の話を聞いていたのかも」
「ふっ、だとしたら我らのライバルだな」
三人の亜人と一人のエルフは、観衆の注目の中、肩で風を切って次のゲームブースへと向かう。
「悪いけど、優勝するのはあたしだよ」
「笑止。ゼノス殿はリンガに勝って欲しいに決まっている」
「はっ、面白くなってきたではないか」
「リリは負けぬ……」
「リリ、言葉遣いがおかしいぞ?」
取り残されたゼノスの横で、カーミラがくすくすと笑う。
「くくく……匂う。匂うぞ。ラブコメの香りじゃ」
「……いや、何の話……?」




