表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/340

第79話 回想と日常

前回のあらすじ)王立治療院での仕事を終え、ゼノスは師匠のことを記したベッカーの手紙をもらった。

 貧民街の孤児院は劣悪な環境で知られている。


 そこでは子供は労働力であり、奴隷だ。


 世話を焼いてくれる大人はおらず、残飯のようなエサが一日一回与えられるだけ。


 子供達にはそれぞれ仕事が言い渡される。


 食事当番や孤児院の修繕はまだ当たりのほうで、物乞いや、出稼ぎの肉体労働、犯罪への加担など、およそ子供の健全な成長とは無縁なものばかりだった。中にはいつの間にかどこかに売られていく者もいたが、彼らが今どこで何をしているかは知る由もない。 


 そんな中、ゼノスが与えられた役割は、死体からの窃盗だった。

 

 貧民街には、多くの行き倒れが発生する。

 その行き倒れをいち早く見つけ、少しでも金になりそうなものを奪い取っていく。

 

 しかし、気乗りがしなかったので、いつも見つけた死体を勝手に埋めて戻って殴られていた。

 行き倒れの姿が、まるで明日の自分のように見えたから。

 

 だから、はじめは憐みのようなものだったのかもしれない。


 行き倒れるから奪われる。 

 ならば、生き返らせればいいんじゃないか――と。


 数多の行き倒れ、腐りかけの死体を観察し、あらゆる種族の体の構造を学んだ。その機能を想像した。孤児院の誰かが道端で拾ってきたボロボロの魔術本を、文字が読めなかったなりに穴が開くほど眺めた。


 そうして、蘇生を試みた。

 毎日毎日、生き返れと念じながら、行き倒れに魔術をかける。


 そのうち、少しずつ白い光が死体を包むようになった。


 そして、遂に今日はうまくいきそうだと思える日があった。

 光が弾け、鳴動し、死体の指が今にも動き出しそうな気がした。

 その瞬間、後ろから激しく頭を叩かれた。


 光は霧散し、消えた。


 振り返ると、汚れた身なりの、無精ひげを生やした男が物凄い形相で睨んでいる。

 男はこう言った。 


「その力は決して死者に使うな。生きている者に使うべきだ」


 それが、師匠との出会いだった。

 

 ――……


「ゼノス?」


 リリに呼ばれ、ゼノスは顔を上げた。


「ぼうっとしてどうしたの?」

「ぼうっとしてたか?」

「してたよぅ、ベッカーさんからの手紙、また見てるの?」

「ああ、まあな」


 廃墟街の治療院。

 ゼノスは診察机に腰かけ、王立治療院から去る際にベッカーからもらった手紙を眺めていた。


 師匠のことを綴った手紙。

 しかし、親しかったはずのベッカーですら、もう師匠の顔も名前も思い出せないらしい。

 それは、おそらく呪いのせいではないかとベッカーは言う。


 師匠が禁呪である蘇生魔法に手を出した代償だと――


「……」 


 行き倒れに蘇生魔法をかけようとした自分を殴った時の、師匠の鬼のような形相が思い浮かぶ。


 ゼノスはまだ師匠のことを覚えている。


 呪いが発動した時点で、まだ師匠と知り合っていなかったからだろうか。

 ベッカーの手紙には、詳しく知りたければ、師匠の手記を探せと書かれている。


「手記、か……」


 ゼノスがつぶやくと、リリが手紙を覗き込んできた。


「ふーん、ゼノスはベッカーさんと友達なんだ」

「え、そうなのか?」

「ほら、ここに書いてあるよ」


 ベッカーの手紙の末尾には、こう記されている。

 

 治癒師ゼノスの行く道に、幸多からんことを願います。

 友人として――


「確かに書いてあるな。そうか、友人なのか、なるほど……」

「なるほどって……」

「友人なんてあんまりいたことないから、わからないんだよ」


 アストン達はパーティメンバーだったが友人ではない。

 ゾフィア達亜人は仲良くはしているが、患者でもある。

 師匠は師匠だし、ウミンやクレソンも友人という関係とは異なる。 


「そっか、ゼノスは友達がいないんだね」

「憐みの目……!? いや、まったくいなかった訳じゃないが……」 


 薄暗い孤児院で、腹をすかせて、身を寄せ合った記憶。

 だが、もう――

 

 すると、リリがじっとゼノスの顔を見て言った。


「ねえ、リリはゼノスのなんなのかな」

「ん? そうだなぁ……リリは……家族みたいなもんかな」

「えっ!!」

「って、まあ家族もいたことないからよくわからないけど」


 腕を組むゼノスに、リリが顔を赤くして迫ってくる。

 

「か、家族って、つまりお嫁さんってことだよね!!」

「え、そうなのか?」

「うん、そうなんだよ、ゼノス。リリはゼノスのお嫁さんなんだよ!!」

「くくく……相変わらず飛躍しとるのぅ、リリ」


 二階からカーミラが姿を現し、真顔で迫るリリをさとす。

 リリはむぅと唸って、ふと口を開いた。


「ちなみにカーミラさんは?」

「えーっと……守護霊?」

「た、たわけぇっ! この死霊王を守護霊とはなんたる言い草っ!」

「冗談だよ、カーミラも家族みたいなもんだ」

「な、ばっ……がっ……」


 カーミラは戸惑ったように口ごもると、ふよふよと二階へ消えた。


「……なんだったんだ、あいつ?」

「きっと照れてるんだよ、カーミラさん」


「なになに、面白い話かい?」

「リンガも混ぜて欲しい」

「我を忘れてもらっては困るぞ」

「いや、なんでお前ら一緒に来るの?」


 亜人の女首領達が、当然のように治療院に入ってくる。


 王立治療院での臨時休業を経て、いつもの日常がゼノスの治療院に戻りつつあった。 


三章ぼちぼちはじめてまいります。

(なるべく定期で更新予定ですが、諸事情により時々不定期になるかもしれません)


そして、闇ヒーラー書籍版1巻の発売が近づいてきました。

10月14日頃にGAノベル様より発売予定です。

1万字超の加筆や書き下ろし短編、だぶ竜先生の素晴らしい挿絵の数々が楽しめますので是非に!


挿絵(By みてみん)


そして、今回は口絵を一部紹介します。

ゼノスの話題で盛り上がる女子会の様子。

楽しそうなカーミラがいいですね。


挿絵(By みてみん)


引き続き口絵や、コミカライズ情報などもお知らせしていく予定です。

どうぞ宜しくお願いします…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ツンデレレイスという新しいポジション⁉ww
[一言] 口絵、ええですなあ
2022/01/26 07:42 退会済み
管理
[一言] 守護霊可愛いよ守護霊
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ