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第29話 地下ギルドの噂【後】

「地下ギルド……」


 カーミラの発した単語を、リリが繰り返す。


「まあ、簡単に言うと非合法のギルドのことさ」


 横のゾフィアが言った。


 自分ではできない仕事を頼みたい場合、ギルドに依頼するのが一般的だ。最大の規模を誇るのは冒険者ギルドだが、それ以外にも鍛冶職人のギルドや建築職人のギルドなど多数のギルドが存在している。


 一般のギルドは国家公認の下、依頼内容や料金体系が一定のルールで運営されており、所属するにも認定試験をパスする必要がある。 


「だけど、地下ギルドには、そういうルールがない。後ろ暗い者達の集まりなのさ」

「あいつらは、金次第でどんなことでもやるからリンガは嫌いだ」

「うむ、積極的には関わりたくない奴らだな」


 亜人の首領達は嫌悪感をあらわにする。


「どんなことでもやる……?」

「ヤクの売買に、暗殺に、復讐代行。貴族の子供売買事件にも地下ギルドが絡んでいたっていう噂だけどねぇ」

「……」


 リリはぷるっと震えて、ゼノスの顔を見た。 


「じゃ、じゃあ、あのうるさいおじさんが地下ギルドに悪いお願いをしに行ってたら……」

「うるさいおじさんってアストンのことか」


 ゼノスはパンを口に運んで、少し考えた。


「どうかな。俺も貧民街にいたから、地下ギルドの話は聞いたことがあるけど、依頼には結構な金がいるはずだ」

「ふむ。わざわざ貧民街までゼノスを探しに来たということは、その男は相当困窮しておるのかもしれんの。つまりそれだけの元手はない」


 カーミラが腕を組んで言うと、リリは安堵の息を吐いた。


「そ、そうなんだ。それなら安心」


 しかし、ゾフィアは一人浮かない表情で、机をじっと見ていた。 


「ゾフィアさん……?」

「ああ、いや。地下ギルドってのは基本金がモノを言う世界だけど、最近金がなくとも条件次第で依頼を請け負う奴がいるって噂を思い出してさ」


 ゾフィアは、その名前を思い出そうとするように眉根を寄せ、やがてこう言った。


「確か——"案内人"と名乗る奴だ」


+++


 貧民街の奥の、そのまた奥。


 古い水路が蜘蛛の巣のように張り巡らされた薄暗い地下空間の一角で、二人の人物が向かい合っていた。


「ようこそ、依頼人かな。よくここがわかったね」


 そのうちの一人、灰色のローブを頭からすっぽりかぶった人物が言った。


「……」


 しかし、もう一人の声は、ぼそぼそと低く、言葉は暗闇に溶けていく。


 地下空間には、灰色のローブをまとった人物の、場違いに明るい声だけが反響していた。


「ああ。依頼金が足りなくて、ここを紹介された? そういう人は時々いるね」


「うん、いいよ。ボクはお金だけでやってる訳じゃないから」


「ボクのこと? そうだね、"案内人"と呼んでくれたらいい」


「それで、依頼内容は?」


「なるほど……簡単に言うと復讐代行だね。本人だけじゃなく取り巻きも気に食わないと」


「理由を教えてもらおうか?」 


「うん、必要だ。地下ギルドの他の連中は、金さえもらえれば理由は問わないみたいだけど、ボクは理由を大事にしているんだ」


「話す気がないなら、この依頼はなかったことに――」


「……ん? 話す気になった?」


「へえ……それは、相当に屈折した身勝手な理由だね。復讐というより単なる八つ当たりだ。キミ友達いないだろ?」


「うん? 駄目とは言っていないよ。むしろ、ボク好みの理由だ。いいだろう、手を貸そう」


 "案内人"と名乗った灰色のローブの人物は、懐から真っ黒な魔石を取り出した。


 それは周囲の闇すら吸い込むような、純なる漆黒をしている。


「ちょうど研究中でね。せっかくだから、これを使ってみようと思う」 


「ああ、心配はいらないよ。キミの依頼内容もちゃんと達成するから」


「ところで、キミの名前を教えてもらえる?」


 灰色のローブの奥で、口の端がにぃと引きあがった。  


「そうか、アストンって言うんだね」

そろそろ一章の後半に入っていきます。


気が向いたらブックマーク、評価★★★★★など頂けるとありがたいです……!

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― 新着の感想 ―
[一言] よくある魔人化とか魔物化とかのあれですかね?
[一言] さて、大丈夫かな?
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