第23話
結局、前田慶次にアンナ、それに皇女エウドキヤが、エジプトに上陸したのは6月中の話になった。
そして、速やかに慶次は浅井長政に対して、今回の遠征の結果を復命することになったが。
「真実では皇女2人を確保して、エジプトに連れてくることができましたが。表向きは妹の皇女エウドキヤのみをエジプトは確保したということにしていただきたく」
幾ら自由人で横紙破りの慶次といえど、浅井長政に対しては敬語を使い、真実を述べざるを得ない。
自分が、姉の皇女アンナに惚れこんでしまったこと。
そして、アンナも自分に惚れこんだこと。
更に帰りの途上で、契りまで交わしたこと。
又、アンナは皇女の地位を捨て、自分との結婚を希望しており、自分も同じ考えであること等々。
慶次は、自分らしくない、と内心で自嘲しながら、汗をかきつつ、浅井長政に復命したが。
「慶次が、そうしたいならばそうしろ」
慶次の復命を聞き終え、更に磯野員昌が添えた書状を読み終えた後、浅井長政は慶次の希望を認めた。
「えっ、よろしいので」
慶次が却って驚くてん末だった。
「いかぬ、と言ったら、アンナを連れて、子ども達を捨てて、エジプトから出奔するつもりだろうが」
浅井長政は、慶次の底意を見抜いているような目で、慶次を見ながら呟いた。
慶次は思わず無言で肯いていた。
「全く、そんなことをしたら、前田利家が嘆くことになるぞ。義理の甥が自分に子どもを押し付けて出奔したとな。まあ、あ奴も女のことに関しては、お前のことを責められる存在ではなく、惚れたら止まらない男、と儂は考えるがな」
浅井長政は、半ば独り言を言った。
実際に、前田利家の妻のまつは、利家から見れば実の従妹に当たる存在であり、それこそまつが物心ついた時から家庭の事情から利家と同居していたという、単なる血縁のある幼馴染以上の存在であるが。
更に言えば、まつが小学生の10歳の頃に、学年で言えば9学年、実年齢でも8歳年上の利家が、まつに求婚したという間柄でもあった。
(尚、実際に(この世界で)利家とまつが結婚したのは、利家が陸軍士官学校を卒業して、陸軍士官に任官した後、利家が22歳、まつが14歳になってからの話である)
これは(この世界のエジプトやその周辺では)公知の事実と言ってよく、今となっては利家が揶揄われる事案の一つになってはいる。
そして、利家とまつは、琴瑟相和す仲の良い夫婦にもなってはいるが。
浅井長政は、その案件を暗喩することで、アンナと慶次の結婚を認めるといったのだ。
それにしても、こんなに主が物分かりが良かったとは、と慶次が考えていると。
浅井長政は、更に独り言を紡いだ。
「実際、お前にも分かるだろうが。息子と結婚させるとなると、エウドキヤの方が年相応の話になるからな。かといって、アンナを誰に結婚させるか、となると本当に頭が痛い話になる。そうしたところに、お前からアンナと結婚したい、という申し入れがあった。更に皇女の地位を捨てて、表向きは侍女としてエウドキヤに随行したという形を、アンナは取りたいとも言っているとのこと。妻や竹中重治も、それならそれで良いのではというだろう。それにお前が皇帝等、真っ平ごめんというのは分かり切った話だ」
さしもの慶次も、主にここまで言われては、少し小さくならざるを得なかった。
「ともかく、お前とアンナの結婚は、アンナの本来の身分を秘密にするならば認める。その代わり、この件は完全に闇に葬る。アンナはあくまでも元は侍女として押し通せ」
「誠に有難く」
浅井長政の言葉に、らしくもなく慶次は平伏しながら答えることになった。
そして、6月中に、慶次とアンナは結婚式を無事に挙げることができた。
これで本編は事実上終わり、後2話、エピローグと余談を投稿して完結させます。
(尚、エピローグは前田利家夫妻視点、余談は「モスクワ大虐殺」です)
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