第9話
アレクサンドリア近郊で行われた作戦会議は、それなりどころではない時間が必要だったが。
最終的には磯野員昌の作戦原案に基本的に従い、アゾフ周辺からモスクワを急襲することになった。
勿論、具体的な内容を詰めるとなると、作戦原案が数倍の厚みを持った代物になるのは、会議の参加者全員が分かり切ったことで、更に話し合いを何度か進めることになった。
そして、幾ら行程途中の物資調達を掠奪に基本的に頼るとはいえ、やはり替え馬等のための予備の馬が進軍には必要であるという声がそれなり以上に挙がったことから、アゾフ周辺に全部で約3万頭の馬を集めて出発することになった。
とはいえ、そこまで馬を集めるとなると馬のための飼料も当然に必要になる。
事前に甲賀者が集めた情報に従い、それなりに飼料が確保できて、進軍が容易な路を進軍するということになったが、そうは言っても約1万人の軍勢に約3万頭の馬となるとかなり大規模な軍勢となり、進軍の際に補給の困難が生じるのは当然の話になってくる。
そういった事情が更に指摘されたことから、会議に出席していた者の間で様々な意見が出て、それに対する反対意見が出て、のやり取りが続き、出席者の多くがそれなりに疲れ切った頃。
前田慶次は思わず呟いた(とはいえ、地声の大きい慶次にしてみれば、叫びに近かった)。
「いっそのこと金をばらまいて、食糧や馬の飼料を集める訳にはいかんのか。どうせ花嫁をさらいに行くようなものだ。花嫁のための持参金をバラまいたと考えて、金で食糧や馬の飼料を進軍の途中で集めればいいではないか」
「おい、何をバカなことを」
佐々成政がすかさず反論しかけたが、慶次の言う言葉も一理ある、というのが頭の中でよぎったことから考え込んでしまった。
他の者も相次いで慶次の言葉に単に反論せずに考え込みだした。
実際、全く荒唐無稽とは言い難い話だった。
どちらにしても、モスクワ大公国の皇女3人を連れ出すつもりなのだ。
失礼極まりない言い方だが、それなりの重荷になってしまう。
そのための練習の一環と考えて、それなりの金を積んでおき、途中でその金をバラまいて、食糧や馬の飼料を買い込んで、というのをやって悪い訳が無かった。
それにこういった金をばらまくやり方をすれば、経路の途中の住民の反発や抵抗も低くなる。
この作戦はモスクワへの一撃離脱を大前提として立てられている作戦であり、更にモスクワ大公国の皇女3人を解放して、エジプトに連れてくるのが第一目的であることからすれば。
そして、基本的に今回しか行わない作戦ということを考えれば、それなりに合理的な作戦と言える。
暫く時間が経った後、会議に参加しているメンバーの中で最初に口を開いたのは宮部継潤だった。
「うむ。悪くは無い。金をばらまいて食糧等を買えば、住民の抵抗はそう起きないだろう。だが、金がかかることになるぞ」
だが、沈黙の間に、慶次なりの反論の言葉が出来ていて、慶次は早速、反論した。
「浅井長政殿もケチなことは言われないでしょう。何しろ、(東)ローマ帝国の継承者であるモスクワ大公国の皇女をエジプトにお迎えして、息子の亮政殿の嫁にしようというのです。それなりどころではない金がかかって当然の話ではないですか」
その言葉を聞いた磯野員昌が笑いながら言った。
「うむ。帝国の姫君を嫁として迎え入れる以上、それなりの金が要るのは当然だな。儂から婿殿がケチと相手に言われないように金が必要です。と言って、浅井の殿に説明してみよう」
磯野員昌の言葉をきっかけに、笑いの輪が参加者の間に広まって口々に同意の言葉を吐いた。
「確かにそうだな」
「結婚には大金がかかるのは当然だからな」
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