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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
新世代篇 前編
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(貧)NEW GENERATION 第23話 親と子と

「……私が悪いんです。カクシコちゃん。あなたは、別の世界の好史さんとの子供です」


 大平野好史の言っていたことは真実だった。


 まだ別の時空を渡り歩ける能力を持っていた頃に、まだ小さな占い娘だった頃に、占い女はやらかしていたのだ。


「私の欲望が暴走した結果です。つぐなうためなら、何でもします」


 小さくなって泣いている母に、カクシコは語り掛ける。


「うおるを傷つけようとしたのは? どうして?」


「うおるちゃんは、そもそも人間じゃないんです。あなたを見守るために改造された機械仕掛けの人形なんです。好史さんを襲った機械人形と同じです。私の指示をきいていればよかったんです。それが、自分の意思で動き出そうとするから……。思い通りになってくれませんでした」


 泣きやまない占い女の手を掴み、好史は彼女を立ち上がらせようとする。


 しかし、それも彼女は拒絶した。


 立ち上がる資格さえないと、そう彼女は思っているのだろう。


 大平野好史は、かなしげな瞳で彼女を見つめた。


「もういい。全部、俺が悪いんだ」


「そんなわけ、ないでしょう」


「いいや、俺の弱さが、占い娘を傷つけたんだ」


「でも、だとしても、この時空の好史さんは、本当に何も悪くないです。本当に、ごめんなさい」


「どの時空の俺も俺に違いない。だから、何もかも俺のせいだ」


「相変わらず、おかしい人ですね。わからずやさんです」


「俺のせいなんだ。おまえが傷ついたのも、おまえが監視用の人間を送り込まないと落ち着かないくらいに追い詰められたのも、カクシコが今はまだ小さな胸を悩ませているのも、ひのでが寂しがっているのも、氷雨が出て行ったのも、俺が激よわな人間だからだ」


 違う、と占い女は言おうとした。けれども、涙を散らしながら顔を上げた時、腕組をした当事者の顔が視界に入り、また何も言えなくなった。


「その通りだな」


 比入氷雨だった。ひのでの母だ。


 かつては好史と最も強い絆で結ばれていた。断ち切ったのは大平野カクシコの訪問だった。


 比入氷雨は、それでも占い女を恨んでなどいない。


 氷雨は、占い女に歩み寄り、彼女の黒い肩に手を置いた。


「好史が悪いだろ。あいつがいつまでも大人になれないから」


 相変らずの最高の貧乳だなという言葉を、大平野好史はグッと飲み込んだ。


 それを言ったところで、別に関係が変わるわけではないのだが、大平野好史も場を読むようになっていたようだ。


 いつのまにか、家族を囲むように関係者が増えていた。比入・大平野一家、それから占い女と貧乳人形はもちろんのこと、まなま、今山ハルヒメ、篠原など、馴染みのある面々がSOSメールを受けて終結していた。


 占い女は、勇気を振り絞り、涙をこらえて声を出す。


「こんなこと言う資格はないと思うんです。でも、言わせてください」


「大丈夫だ。何でも言っていいんだぞ」と好史。


「好史さんと、幸せになってほしいんです。もう一度、好史さんとひのでちゃんと、家族に戻ってくれませんか」


 好史は言葉を返せなかった。思考停止だ。


 きまずい沈黙をすぐさま斬り裂いたのは、事情をよく知る当事者、氷雨の、大きな溜息だった。


 氷雨は続けて、「本当に、言う資格ないね」と言い放った。


「ごめんなさい……」


「あーいいって。最後まできいて。あたしはさ、今回のコトが起きて、案外悪くないなって思えた。近すぎると、わけわかんなくなることって、あるじゃん? 自分の気持ちをさ、あらためて振り返る機会も、カクシコちゃんの訪問がなければ得られなかった」


 その言葉に、ひのでは目を輝かせた。


「ママ、それって、戻ってきてくれるってこと?」


「別に、いつも一緒に暮らし続けるばかりが幸せじゃないだろ。ひのでが皆と仲良しで、あたしと好史がイイ感じの距離に落ち着いて、カクシコちゃんがいて、みんなで仲良くできりゃあ、それがいい」


 娘の比入ひのでは首を傾げた。


「どういうこと?」


「ひのでと好史はもちろんだけどさ、占い娘も、カクシコちゃんも、あたしの家族がいいってこと」


 ひのでは思考が追いついていないようだった。父親ゆずりの柔軟性のなさである。


 そんな中、歩み出る者がいた。


「あたしも入れてもらっていい?」


「えと、あなた誰?」


「ハカセの娘です」


 それは、前玉うおるだった。

 占い女は、また涙が止まらない。


「まだ、私の娘だなんて、言ってくれるの? あなたを消そうとしたのに」


「それでも、ハカセが命をくれなかったら、あたしは誰とも出会えなかった。ひのでも、まなま部長も、カクシコも、ミユルも、篠原も、遠い遠いままだった。ただ大平野好史に胸を揉まれた世界最高の貧乳ドールとして役目を終えて捨てられるだけだった。努力の結晶を駆使して、あたしに意志を宿してくれたことには、感謝しかない。これからも感謝し続ける」


 氷雨は眉間にしわを寄せて、「要するに何?」


「あたしは、前玉うおるは、母が好きで、ひのでが好きで、自分のことも好き」


「よくわからんけどさ、そういうことなら、よし、うおるちゃんも家族だな」


 そして、ハカセ(占い女)と前玉うおるは、声を揃えて、言うのだ。


「ありがとう」


 片方はハッキリと。もう片方は、涙まじりのかすれた声だった。



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