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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
新世代篇 前編
62/80

(貧)NEW GENERATION 第19話 大平野カクシコと比入ひので

 翌日の昼休み。


 下を向いて登校した大平野カクシコは、妹の教室をたずねた。


 母親は違っても、父親は同じ。何より、生まれてからずっと、好史の娘として一緒に暮らしていたのだ。


 いつも闇に紛れるような黒い服を着ていた母の行方については、まったく見当もつかないので、まずは父親と仲良くなろうと思った。


 とにかく気まずくて、全くうまく話せない。そんな現状を打ち破らない限り、両親が再会したところで重苦しい空気になるのは当然だと考えたのだ。


 こわいと思った。ひのでに拒絶されたらどうしようと思った。


 しかし、何とか自分を奮い立たせて、下級生の教室へと踏み込んでいく。


 クラスメイトの輪の中で楽しそうに談笑していた比入ひのでは、カクシコの接近に気付くと、少し身体をこわばらせた。


 それを見て、クラスメイトたちは、さりげなく距離をとっていった。


 ひのでは、首をかしげながら問いかける。


「どしたの、カクシコ先輩。あ、姉貴って言った方がいい?」


「ちょっ、やめなさい。人前で」


「なんでよ。いーじゃん別に。パイセンの胸と違って減るもんじゃないし」


「あんたねぇ」


「あははっ、うそうそ。それで、何の用なの?」


「いいから、ちょっと来なさい」


 そうして腕を引っ張っていき、早歩きで廊下に出た。


「お試し用の胸パッドの誘いなら、いらないっすよ?」


「そういうんじゃないわよ」


  ★


 屋上は立ち入り禁止だった。この二人には関係なかった。


 静かに話せる場所として、ちょうどよかった。


 たいてい無人の保健室も候補に挙がったが、行ってみたら後輩の今山ハルヒメがベッドで仮眠をとっていたので、エレベーターで屋上まで昇った。


 学園の屋上には、庭園がある。


 色とりどりの花が咲き乱れる、見事な庭だ。


 しかし、そこに足を踏み入れていい人間は限られている。


 偉い人のちょっとした関係者であれば――たとえば、中等部の生徒会長、篠原栄華と仲が良かったりすれば――踏み荒らしたりしない限りは、大した問題にはならないだろう。


「てか、ほんとに何の用なんすか、カクシコ先輩」


 きょろきょろと落ち着きのない様子のカクシコだった。色とりどりの花たちに次々に視線を送ってから、小さな声を吐き出した。


「あの……実はね」


「その巨大な胸パッド仕込むのをやめたい、とかですか?」


「えっ、なんでわかるのよ?」


「うっそ、まじ? テキトーに言ったんだけど。これも姉妹の絆ってやつぅ?」


「まだあなたを妹だなんて思えなくて、実感わかないわ。ごめんなさい」


「ちょ、冗談通じなさすぎじゃん。余裕みせてよ、姉貴」


「余裕なくなったから、こうして、あんたなんかに相談してんでしょ? 敵のあんたに」


「敵? やー、ウチは、カクシコせんぱ――いや姉貴のこと、敵だとか思ったことないけど? 家族だし」


「いっしょに住んでもないじゃないの。どこが家族よ」


「ふーん、それ言っちゃう? ウチは、パパと離れて暮らしてるわけだけど」


「…………」


 カクシコは言葉を失い、俯いた。足下には、捨てるためだろう、枯れた花たちがまとめて束ねられていた。


 あまりにも後ろめたいことだった。自分がひのでの両親の前に現れなければ、きっと崩壊はなかった。


 二人とも父親は大平野好史。しかしひのでの母親は比入氷雨であり、カクシコの母親は黒い服を着た占い師風の女


「どしたん? 今日まじで変だよ、カクシコ先輩。いつもみたいに煽ってこないんすか?」


「私、煽ったことなんてない」


「いやいや、煽らない日はないでしょ。『あーら、あなたたち今日も貧乳ね』とか言いながら部室に勝手に入ってくるじゃん」


「ただの挨拶よ、それ」


「えっ、うざ」


「今まで気付かなかったけど、私は、人と接するのが苦手みたいなの」


「今まで気付かなかったんすか?」


「ええ、そうよ。悪い?」


「おもしろ」


「あんたねぇ」


 怒って、拳を見せるカクシコに、比入ひのでは言うのだ。


「その感じ、パパに見せてやればいいんじゃない?」


「無理」


「てか、家でどんな感じなん? ちゃんとパパとコミュニケーションとれてるとこ想像できないんだけど」


「ご想像の通りかしらね。気まずいのよ、ずっと。会話が続かなくて……接し方がわからなくて……もしかしたら、こんな風に胸を盛るのを一切やめたら、パパとも打ち解けられるのかな、そうじゃないのかな、でも胸盛るのをやめたら、ミユルが裏切られたと思って、私を嫌ってしまうんじゃないかって。ていうか、今も、ひのでに恨まれてるんじゃないかって……」


「それで、いつも部屋でひとりぼっち。父とじゃなくて、自分の乳とばかり対話してんだね」


「真面目な話をしているのだけど?」


「カクシコ先輩は、どうしたいの?」


「お父さんと、ちゃんと話したい。お母さんを、さがしたい。どうすればいい? ひのでは、どう思う?」


 そのとき、ふと風が吹いて、屋上が花の香りに満たされた。


 比入ひのでは、にやりと笑う。


「簡単っしょ」


「えっ」


「ききにいこ。パパのとこに。先輩のお母さんの行方も、もしかしたら知ってるかもしれないし」


「え……」


「一緒に行こっ」


 ひのでは、カクシコの手を掴んだ。


「これまでパパと話せなかった分、いっぱい語らえばいいよ」




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