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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
新世代篇 前編
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(貧)NEW GENERATION 第15話 篠原栄華の入りびたり

 篠原は、なんと翌日も胸囲育成部の活動に顔を出した。


「だって、自己紹介が中途半端だったなと思いまして。私のことは知ってもらえたのに、先輩がたの人柄とか全然伝わってこなかったんですもん。腕を引かれて連れて来られて、何もわからないうちにサヨナラだけが残るなんて、スッキリしません。私も先輩がたのことをそれなりに知って、それなりに理解と幻滅をして、先輩がたの胸のように、スッキリとした気持ちになった上で、あらためて入部をお断りしたいのです」


 この声に大喜びで手を叩いたのは、比入ひのでだった。


「ばちばちに煽ってくるじゃん。うおるに続いて、有望な後輩すぎっしょ」


「あなたは、副部長の比入ひので先輩ですね。ひとつ教えてもらいたいのですが、あなたにとって貧乳とは何ですか?」


「それね。まあ、ひとことで言うと、家族の絆、かな」


「んー、どういうことですか。わかるように教えてください」


「ウチの親は、貧乳好きの父。そして貧乳の母。そこから産まれたウチは、やっぱ貧乳だった。貧乳英才教育を受けて歪まなかったウチを、どうか褒め称えてよ」


「いや歪んでんじゃないっすか? そうじゃなかったら、こんな部で副部長なったりしないでしょう」


 ひのでは「たっは、言い返せねえ」と言って大笑いした。


 篠原栄華の矛先は、今度は前玉うおるに向いた。


 篠原は、うおるに向けて、ひのでにしたのと同じ質問をぶつけた。


「あなたにとって貧乳とは?」


「誇り。あたしは世界最高の貧乳。そしてあたしは、人間ではないわ」


「それと、あれですよね。学園内では大流行している同人漫画で『王子』って言われてるキャラのモデルなんですよね。女をオトしまくる左目の魔眼を持つっていう」


「事実と違う。左目は、貧乳を見抜くための瞳。篠原栄華も、この特別な目に見出された」


「見抜くも何も、まったく隠してないし。てか、私、貧乳なこと、まったく全然、これっぽっちも気にしてないんですけど」


「そう。なら、ひのでと同じね。誇れるところまで来られれば、あたしと同レベル」


「……この部って、『胸囲育成部』なんですよね?」


「うん」ひので。

「そう」うおる


「全然育成する気なくないですか? 一人は貧乳にコンプレックス無くて、一人は誇ってさえいる。こんなんでいいんですか、部長!」


 豆乳を片手に、耳を傾けていた板橋まなまは、「ん」と声を漏らしながら振り返り、


「たしかに、わたしの場合、貧乳はコンプレックスだけどさ、わたしを部長と呼ぶということは、この部に入るということでいいか?」


「なっ、そんなわけないです!」


 篠原が興奮気味に言い放った時、部室の扉が開いた。


 室内にいた四人は、やかましい大平野カクシコの声を覚悟した。


 しかし、優しく開いた扉の向こうにいたのは、『ないちち賞賛部』の副部長、虚乳を胸に重ね盛った天海ミユルというポッチャリ女だった。


 ふくよかな身体を反転させ、ドアノブを握って静かに扉を閉めた。そして四人に向き直り、微笑みながら声をかけた。


「こんにちは。相変わらず薄暗くて小汚い部屋だこと」


 確かに、ないちち賞賛部も不法占拠だが、あちらは明るくて綺麗な部屋であるので、誰も異を唱えなかった。


 誰も何も言わなかったので、部長が口を開く。


「ミユルじゃねえか。どうしたんだ。そっちから来るなんて」


「まなま先輩に相談があってね」


「わたしに? 何だよ、珍しいな」


「カクシコ先輩がね、最近元気ないなって思って。ミユルには心当たりがないから、こっちの部で何かあったんだろうなって」


「何か……ねえ……」


 まなま部長は呟きながら部屋を見渡すと、たしかに普段とは違う人物が一人いることが気になった。


「そういや、そこの新入部員の勧誘に失敗してたな。それが原因じゃん?」


「新入部員? 中学生? あなただあれ?」


「あなたこそ誰なんですか。みたところ、この部の人ではなさそうですけど」


「ミユルは、天海ミユル。カクシコ先輩と、後輩のハルキくんと一緒に、『ないちち賞賛部』で活動してる」


「ないちち賞賛部……。想像するに、貧乳を褒め称える活動内容でしょうけど。そんな変な部活をやってるってことは、あなたも貧乳にうるさい人なんですかね。あなたにとって貧乳って何ですか?」


 篠原は、ひので・うおるにした質問をミユルにもぶつけてみたのだが、ミユルは明らかに不快感をもって言葉を返した。


「そういうのは、人に聞く前に、まずは自分がどう思ってるか言うべき」


 篠原は、なるほどと頷き、立ち上がり、胸に手を当てて答えた。


「私は中等部三年、篠原栄華(しのはらえいか)。私にとって貧乳なんて、どうだっていいものです。気にする必要ないです。まだ中学生ですし」


「ふーん……。栄華(えいか)ってことは、『えかぷん』だね」


「は?」


「だからぁ、あだ名。『えかぷん』でいいよね」


「いや、ちょ、そ、その呼び方はやめてほしいです」


「なんで? えかぷん、えかぷ……。あ、もしや『Aカップ』って言われてるみたいで嫌だから、とかかな?」


「そうですよ。失礼じゃありません? なんで初対面で、Aカップとか言われなきゃならないんですか!」


「なるほどぉ。あれ、でもさあ、貧乳を気にしてないなら、どうしてAカップて言われるのが嫌なのかな?」


「そ、それは……」


「なんで、なのかな」


「先輩のような巨乳にはわかりませんよ」


 そこで、板橋まなま部長が口を挟む。


「こいつの乳はカクシコと同じで、偽乳だけどな」


「なに? 横からペチャペチャと(うるさ)いわね、部長なら、もっとドッシリ構えたらどう?」


「ああん? そんなこと言ったら、ミユルなんか、ポチャポチャだろーが。ドッシリしすぎなんだよ、お(めえ)はよ」


「はあ? あんたが太れって言ったんじゃん!」


「またそうやって昔のこと蒸し返す。今さっきも中学生を(いじ)めて楽しんで。性格悪いったらないね」


「別に虐めてない。あだ名つけようとしただけ」


「揚げ足とって追い詰めてたろ? おとなげねえ」


「えかぷんが挑発してきたのが悪いんじゃん。ね、えかぷん?」


 笑いかけてくる柔らかい顔とは裏腹に、どす黒いものを感じた後輩は、思わず数歩、後ずさった。


 そして、しばらくの沈黙の後、覚悟を決めた篠原栄華は言うのだ。


「そ、そうですよ。私だって巨乳になりたいですよぉ!」


 その魂の叫びに頷いた部長は、鞄から未開封の豆乳パックを取り出して、彼女に手渡した。


「……これは?」


「育てよう。その胸を」


「私にできますかね? 母がド貧乳なんですけど」


「できるかできないかじゃない。やるかやらないか、なのよ」


「……やります、部長」


 篠原栄華が仲間になった。


「でも、やっぱり変な名前の部活には入りません」


 そんな栄華の言葉に、ミユルが反応した。


「たとえば、どんな名前だったらいいのかな?」


「そんなの、んと……『おっぱい部』……とか?」


 板橋まなま部長は、「センスないわね」と鼻で笑った。


 天海ミユルは、「中学生っぽくて素晴らしくない?」と皮肉った。


 比入ひのでは、「絶対に認可下りないっしょそれ」と笑いをこらえながら。


 前玉うおるは、冷静に「25点」と赤点を与えた。


「なっ、『胸囲育成部』だの『ないちち賞賛部』だのと名乗ってる人たちに言われたくないんですけど!」


 まったくもってその通りである。




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