(貧)NEW GENERATION 第14話 大平野カクシコの横槍
「ちょっとまったぁ!」
倉庫のような部室にずかずかと入って来たのは、大平野カクシコだった。
まるでいつもの光景だ。いつもと違うのは、そこに勧誘中の篠原栄華がいることくらいか。
「まなま! ひので! うおる! あんたたちの思い通りにはさせない! その素晴らしい貧乳は、あたしが前から目をつけていた貧乳よ! あたしの『ないちち賞賛部』にこそ相応しいんだから!」
まなま部長も、立ち上がって応戦する。
「何言ってんだ。健康的な感じだし、わたしたち胸囲育成部のほうが似合う!」
前玉うおるは状況を分析する。
――なぜこの一人の貧乳をめぐって争いが起きようとしているのだろうか。
――それは。彼女が理事長の娘だからだ。
――この重要人物を引き入れれば、きっと特例で部活として認められて、相手よりも先に部を成立させられると、二人は思っている。
両部長の思考回路がだいたい同じなのだった
「この貧乳に相応しいのは、あたし」カクシコ。
「いいや、この貧乳はわたしのだね!」まなま。
バチバチにやり合う二人だったが、渦中の篠原はそれよりも、さきほどから頭上を飛び交っているワードに強い引っ掛かりをおぼえていた。
「あのー、すみませんけど、貧乳貧乳って、中学生にむかって何言ってんすか先輩がた。若き女子の胸は、可能性に満ち溢れてんすよ」
しかしカクシコは後輩の目を見つめ、力強く言葉を返す。
「いいえ、あなたのお胸様は、今のままだと残念ながら育ちそうにない」
「はあ?」
「あなたの胸部からは、つつましい貧乳の波動しか感じないの」
「ちょっと。あんまりじゃないっすか? 暴言っすよ」
「でも大丈夫。あたしたち『ないちち賞賛部』は、あなたのために胸をたちどころに育て切る隠しアイテムを用意できる」
「エッ、そうなんすか? 隠しアイテムってことは、なんかレアなやつですかね」
しかしそこで、鋭い横やりが入った。板橋まなまだ。
「だまされちゃダメ。こいつについていくと、偽チチをつかまされて悪の道を走ることになる」
「あー、パッドとか、そういう詰め物系のなにかっすか? 偽チチには興味ないっすね。私、この身体気に入ってるし」
その声を耳にして、板橋まなまは勢いづいた。
「そんなあなたに! 胸囲育成部! 独自のメソッドであなたのバストが自然に成長しまくるのをサポートするわ!」
「実績あるんすか? みたところ、部長さんペチャってますけど」
カクシコは思わず噴き出した。
「プププ、脂肪が薄くて痛いところを疲れたわね、まなま」
「何よ、カクシコだって、寄せて上げて差し込んだだけで貧乳のくせに!」
「貧乳言うな。この胸が目に入らぬか!」
「相ッ変わらず堂々としてんなあ、見掛け倒しの偽チチぶら下げやがって」
「いいから手を引きなさいよ、まなま。この子に目をつけたのは、こっちが先なのよ」
「けど、先に声を掛けたのは、こっちだもんね」
「まなまさあ、あんた、理事長の娘を味方につければ勝てるとでも思ってんでしょうけど、残念でした。ペチャパイ部長は信用がないのよ」
「はあ? んなこと言ったら、偽チチぶら下げてる大嘘つきはもっと信用できないでしょうが!」
「そんなことない。『おっきな胸が欲しい』そんな正直な願いを胸に抱いたからこそ、今、あたしは胸を張って生きているのよ! 夢のぶんだけこっちが巨乳よ!」
「てかさ、カクシコ。あんたこそさ、理事長の娘だからって理由で仲間にしようとしてんでしょ? ねえ、シノハラさん。だまされちゃダメ。わたしの仲間になれば、この偽乳から、あなたを守ってあげられる」
「さっきから何なのよ! 権力目当てって、そっちでしょうに! シノハラはあたしのだって言ってんでしょ!」
「ちーがーう! わたしの!」
「ふん、いくら言い合っても平たい平行線だわ。だったらもう、本人に決めてもらおうじゃないの」
「望むところよ。きっとシノハラは、こっちを選ぶわ。一緒に胸囲を育成しましょ」
「いいえ、当然、大平野組の『ないちち賞賛部』を選ぶわよね、シノハラちゃん!」
そして篠原栄華は冷たい声で即答する。
「母に言いつけて、変な活動してる部活モドキを両方つぶしてもらおうと思います」
二人は慌てて声を揃えた。
「ごめん待って! つぶさないで!」
前玉うおるはその光景をみてフフフと笑ってみせた。
「先輩がたの胸、今日もつぶすところ無いみたいだけど?」
「ちょっと、うおる!?」と板橋まなま。
比入ひのでも、話をまとめにかかって、
「ははぁ、これが、『微乳が貧乳を嘲笑う』ってやつっすね」
そんな慣用句は無い。
大平野カクシコは、ぐぬぬとでも言いたげな表情を見せた。
板橋まなま部長は、天井に向かって嘆くしかなかった。
「あんたたち何なの! どっちの味方よ!」
先輩いじりが楽しくてやめられない。それが胸囲育成部の現在地なのであった。
平和で平等で何よりだと部員たちは思った。




