(貧)NEW GENERATION 第11話 前玉うおるの冗談
またある日の放課後。
うおるは、胸囲育成部の部室を隙間から覗き込んでいる不審者を見つけた。
いつもの大平野カクシコだった。
倉庫のような部室の中には、すでにまなま部長とひので副部長がいて、雑談に興じているようだった。
声をかけるまえに、カクシコはうおるを険しい目つきで見据えた。
「何。カクシコ先輩。そんなに睨んで」
「あんたは敵よ。当然でしょ」
前玉うおるは溜息を吐いた。
「敵対する理由は、特にないと思うのだけれど。ただでさえ貧乳なのに、そんな険しい顔ばかりしていたら、モテませんよ?」
「なっ、モテっ……モテモテだしぃ! 巨乳になってから男子たちに告白されまくってるしぃ! てか、あんたこそ、そんな貧乳なんだから、どうせ男性経験なんか一切ないんでしょ!」
しかし、前玉うおるの肉体には、確かな記憶が刻まれていた。
「あたし、ベッドで胸を揉まれるまでは、されたことある」
「エっ」
「はじめてあたしを揉んだのは、あなたのお父さんだったわ」
「えっ、ちょっ、何言って……」
突然のカミングアウトに戸惑っていた。だが、これは紛れもない事実なのだった。
前玉うおるが、真剣な瞳でカクシコを見ていると、カクシコは目を泳がせた。
「え、がちぃ?」
「…………」
無言で肯定を示すと、「あー用事を思い出した」と言い残して逃亡した。
撃退に成功したところで、部室内から盗み聞きしていた比入ひのでと板橋まなまが出てきて、声をかけてくる。
「うちら、聞いちゃいけないこと聞いちゃったかも」と比入ひので。
「求ム、記憶を消すアイテム」と板橋まなま。
「知られたところで別に問題ないわ。恥ずかしくなんかない。だって、あたしは人間じゃないから」
二人は揃って、「えっ」と声を漏らし、顔を見合わせた。
「ま、またまたぁ、そんなんで、ウチを笑かそうったって、そうはいかないっしょ」
「ほんとね。うおるの冗談は高度過ぎよ」
「まっ、そこそこおもろかったけど」
二人に楽しんでもらえたことで気分がよかったのだろうか、前玉うおるは頷くと、微笑みながら言い放つ。
「まあ、好史おじさんに激しく撫で回されたのは、あたしがまだ命をもらう前だけどね」
そこで、すかさず板橋まなまは、
「続けなくていいから! 何その設定! しかも、今より若いって、犯罪じゃんよぉ、コージィ……」
「てかコージって誰だし。うちのパパと同じ名前で嫌なん――って、あれ……ん? さっきカクシコ先輩のパパって……。てことは……それつまり……えっ……?」
ひのでは混乱にフタをするように目を閉じた。
うおるは、ひのでの様子を気にすることなく、口を開いてしまう。
「押し入れに長らく放置されるプレイは、さすがに変態だなって思ったものね」
「や、もう走りすぎよ。どう返したらいいのかわかんないって」
板橋まなまは肩をすくめてみせた。うおるも、真似をするように肩をすくめて、
「そうね。ここらへんにしておくわ。思い出したくもないことだったしね」
考え込んでいた比入ひのでは、やがて、うおるのカミングアウトを整理して、結論を出し、目を開いた。
「要するにさ、うおる。うちのパパと……えっと、やっちゃったの?」
「は? どゆこと?」という戸惑う板橋のかぶせ気味の問いには答えなかった。
前玉うおるは、先輩である比入ひのでの目をまっすぐに、澄んだ瞳で見つめて答える。
「胸、さわられただけよ」
「なんそれ」
「ごめんなさいね。やっちゃってはいないわ。三日三晩、胸を触られ続けたところで愛は芽生えなかったの。だから、ひのでの新しいママにはなってあげられないわね」
「冗談……だよね? 冗談って言って?」
「……もちろん。……冗談、よ」
「今の間はなにっ? うあー、なんかもやもやするぅ!」
「うふふ」
先輩をいじめて遊ぶ快楽にめざめた前玉うおるであった。
「何の話してんだ。二人だけで通じ合うな」
「いや、なんでもないっす。気にしないでください」




