(貧)NEW GENERATION 第8話 二人は王子さま
他人の視線が気になる。
前玉うおるは、落ち着かない心を不快に思っていた。
特に、今山ハルヒメと二人でいる時に、廊下を歩いているだけで黄色い声が上がるなど、他の女子からの視線を浴び続け、うんざりしていた。
「原因はわかってる。この学園に、変な女が多いから」
イライラを隠そうともせず、前玉うおるは吐き捨てた。
「そういう言い方は良くないっす」
隣を歩いていた今山ハルヒメがなだめても、前玉うおるの目つきは悪いままだ。
その時、廊下にいた女子の一人が、「怒ってる顔も素敵」と呟いた。
うおるは溜息を吐いた。
「最悪。きもちわるい」
「いやー、もうちょっとオブラートに包んだほうがいいっすよ、うおる」
「我慢できるほど、人間じゃない」
今山ハルヒメ、前玉うおる。二人は、学年を問わず、女子からの人気が高い。
高等部に入学してすぐに女子たちの間で話題になり、数日のうちにハルキ派とうおる派が形成され、人気をほぼ真っ二つに分けることとなった。
そして、それぞれがライバル関係の自称部活の両グループに入ったことによって、有志たちの創作活動が非常に捗ることとなった。
「まあ自分も、女の子たちからハルキって呼ばれるのは、あまり好きではないっすけどね」
「アレの影響でしょ。困ったものね」
「やっぱり、アレっすかね」
アレとは、和井喜々学園の女子の間でのみ流行し出したオリジナルコンテンツだ。簡単に言えば、二人を主役にした漫画である。
有志の手によるもので、二人の王子が何度となく対決するさまを描いたものである。
その漫画の中の内容について、うおるには大いに不満があった。
「なにあれ。あたしが魔界の王子で、暴君だった前時代の魔王の魂が入っていて、嫁探しをしているとかいう設定。気に入った娘を普段は隠れている左目の魔眼で魅了して、カベドンしまくって、手当たり次第に抱き締めまくって、夜な夜なハーレムを開いてるとか」
「そっすね。そして、そのことに気付いたもう一人の王子、ハルキが、『前玉うおるの中から出て行け!』と言って、戦いを挑み続けるんすよ」
「あまりにめちゃくちゃ。あたしのデータベースによれば、ひどい中二病と診断される」
「でも、うおる。あの漫画で一番かわいそうなのは、先輩たちじゃないっすか」
「それはある。手下扱いだし」
「ひどいもんっすよね。まなま先輩とひので先輩は、暴君うおるの手下だし、カクシコ先輩やミユル先輩も、自分の従者っすよ」
その今山ハルヒメの声に、少しだけ嬉しそうな空気があると前玉うおるは感じた。
「まんざらでもないのね」
ハルヒメの隠し切れない前向きな空気は、漫画の設定において、先輩たちよりも上に立っているからではない。
どんな形であれ、前玉うおると並ぶ存在とされていること。そこによろこびを見出していたのだ。
「わかるんすね。バレちゃあしょうがないっす。自分、うおるの貧乳好きっすから」
唐突な胸への告白だった。
うおるは、思考停止して黙り込み、この数十秒間の記憶を消去することにした。




