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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
新世代篇 前編
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(貧)NEW GENERATION 第3話 比入ひのでの案内

 前玉うおるは、比入ひのでと二人きりになりたかった。話したいことがあったのだ。


「それより、比入ひのでさん、あたしに、学校の中を案内してもらえませんか? あたし、学校って、はじめてで」


 不安げな言葉に、比入ひのでは、うれしそうに何度か深く頷いて見せた。ポニーテールがぶんぶん揺れた。


「あーね、確かに、この学校、無駄に広いからね。……それじゃ部長。さき戻っててください。うち、うおるを案内してから、部室に戻るんで」


「頼んだわよ。その貧乳部員、逃がさないようにね」


「了解っす、貧乳部長!」


「また(あお)ってぇ! あとで、おぼえてなさいよ!」


 そうして部長の板橋まなまと別れたところで、うおるとひのでは二人きりになった。


「和井喜々学園って広いよねぇ。うちさ、中等部から入ったんだけどぉ、最初のほうとか、めっちゃ迷ってさ、部室に辿り着けなくて、涙目でぇ、よく部長に迎えに来てもらったりしてたよ」


 前玉うおるは、その話には、あまり興味がなかった。人間らしい器用さなど未だ持ち合わせ切れていない彼女は、単刀直入に切り出す。


比入(ひのいり)先輩。大平野カクシコという人をご存知ですか?」


 ひのでは、特に不快に思う様子もなく、突然の質問に答えてくれた。


「うん? 知ってるけど」


「本当ですか?」


「なに、カクシコ先輩とも知り合いなの?」


「いいえ、こちらが一方的に、顔と名前を知っているだけです」


「……ストーカー?」


「いいえ。任務です」


「んー、何かのスパイってこと?」


「ハカセから頼まれて」


「ハカセ? なんそれ?」


「…………」


 急に黙り込んだ前玉うおる。けれども、ひのではやはり大きくは気にせずに、


「まあいっか。てかさ、カクシコ先輩のことなら、うちより、まなま部長にきいたらいいっしょ。昔は仲良かったみたいだから」


「昔は。というと、今は仲悪いんですか?」


 比入ひのでは、廊下の天井を見上げながら遠い目をして、


「ほんとさあ、くっだらないことで争ってんの。仲良くしろよなって、うちは思ってるけど……でもね。二人の戦いも、なんか見ててオモロイから、やっぱ放っておこうかなって」


「実は、比入ひのでが真の支配者というわけですね」


「ないないない。うちは、そんなんじゃない。そういうのは、むしろ、うおるの方が合ってそうだよ」


 いきなりの名前呼びに馴れ馴れしい人だと思いながらも、うおるはなぜだか彼女に負けたくなかった。


「ひので、あなたが支配者よ」


 うおるは、彼女の名前を呼び捨てた。そして敬語を忘却したかのように取っ払った。


 ひのでは、いきなりの距離詰めにビックリした顔を見せたが、どうやら後輩の決断を嬉しく思ったらしい。


 顔をほころばせながら、「じゃ、そういうことにしとこ」と声を弾ませ、続けて、


「よろしくね、うおる」


 伸ばされた手を、うおるが掴んだ。


  ★


 胸囲育成部の部室には、窓がなかった。倉庫のような無機質な部屋だった。部員二人が足を踏み入れてすぐ、豆乳コーヒーを吸っていた部長に、前玉うおるは声をかけた。


 とにかく、大平野カクシコの動向が気になっていたのだ。


「部長、大平野カクシコという人を知ってる?」


「カクシコ? 知ってるも何も……あいつは私の――」


 不意に、引き戸が勢いよく開いた。


「あーら、呼んだかしら?」


 裏返った声とともに扉を開けたのは、噂の大平野カクシコであった。



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