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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
番外編 占い娘サイド
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第26.5話 貧乳巨乳戦争エピローグ さよなら過去

  ☆


 私は、占い娘として成し遂げた仕事を誇りに思います。


 真夏の青い空の下、やかましいセミの声の中。


 私たちは、未来のエネルギーで修復された和井喜々学園に居ました。


 みんな、それぞれの学校の制服を着て集まってくれて、まるで正式行事のようでした。


 私はもう感動です。


 皆が見守る中、私は、体育館脇にある花壇の前に座り込みました。ちょうど、私の師匠がやって来た時にできた時空の裂け目のある辺りです。


「水晶玉ちゃんたち、私は帰りますけど、あなたたちのことは忘れませんからね」


 私は二学期の開始を待たず、夏休み中に未来へ帰ることになったのですが、壊れてしまった二代目と三代目のお墓を、この過去の時代に建てることにしました。


 私のもといた未来には、お墓なんて文化はありませんでしたが、(ごう)に入りては郷に従えというやつです。


 学園の隅っこ。花壇のこんもりと盛られた土の下に二つの水晶玉が眠っていることがわかるように、木の棒を立てました。


「犠牲は、あまりにも大きいものでした。しかし、あなたたちのおかげで貧乳は守られたのですよ。どうか天国でそれを誇りに思って下さい」


 私はそう言って立ち上がり、さらに続けて、


「いつか、必ずお墓参りに来ますからね」


 水晶玉に誰にも聞こえないような小さな声で、最後の挨拶をしました。


 そんな時、背後からナツキちゃんの声がしました。


「占い娘ちゃん、これ」


 振り向くと、何か四角い厚紙を渡してきました。


 その厚紙にはカラフルな文字が書かれていましたが、それが一体何なのかわからない私は、首を傾げました。しかし、踊る文字たちを注意深く読んでみたとき、私は言葉にならないくらいに感動で、人生最大の涙が出てきました。


 嬉し涙って、本当に出るもんなんですね。


 それは寄せ書きというものでした。


 色紙には一様に「未来でも元気で」というようなことが書かれていました。


 特に気の利いたことが書いてあるわけでもないのです。でも、びっしりと刻まれた文字の数々が、ナツキちゃんや篠原や小川ちゃんやアキラくんだけではなく、クラスメイト全員からのメッセージだったのです。


 これを、夏休み中にも関わらず、色んな人の家を回って集めてきたのだと思うと、次々と流れてくる涙が止まりません。


「あ、ありがとうございますナツキちゃん、ありがとう……」


「元気でね、占い娘ちゃん」


「はい、元気にします」


 そして、私は止まらない涙はもう仕方ないのでそのままにして、顔を上げました。


「それでは、私は帰ります」


 皆さんに見送られて、師匠がやってきた時に発生した花壇上にある時空の裂け目から未来へと帰ります。


 なお、師匠と天海ガルテリオと猫さんは、先にこの世界を去り、実を言うと元々未来の人だったアキラくんは和井喜々学園に残ることになりました。


 そのままにしていても過激な巨乳信仰団体をつくってしまうこともなくなったので、平和な未来が約束されています。不都合な記憶は改変しますが、完全に消去などしなくとも安全と判断されています。


 ちなみに、巨乳派である天海ガルテリオと猫さんは罪を償うために、帰った先の世界でボランティア活動をすることになりました。貧乳や貧乳派に袋叩きにされても文句は言えないような悪行を重ねてきた彼らですが、結局はそういう、ある程度平和的な処置をとることになりました。


 好史さんも言うように、貧乳は平和を愛するものなのです。


 異空間に閉じ込めようとか、巨乳の絵を踏ませようとか、死刑にしようとか、一日中貧乳画像及び動画を見せて貧乳好きにさせようとか、危険な鉱山で過酷な強制労働させようとか、色々と過激な案は出たのですが、最終的には、緩やかな教育刑に落ち着いた形です。


 とにかく、しっかり反省して更生していただきたいと心から思います。


 ……さぁ、それでは私は貧乳だからといって(さげす)まれることのなくなった未来に帰ります。


 どんな素敵な未来になっているか楽しみです。


「ナツキちゃん、篠原、小川ちゃん、アキラくん、好史さん、氷雨さん。皆さんと出会えて、私は幸せ過ぎです。皆さんのことは、一生忘れません」


 私が泣きながら笑って言うと、皆が別れの言葉をくれました。


「元気でね」もう一度、とても寂しそうに今山夏姫は言いました。


「また相談に乗ってください、占い娘先輩」篠原こやの。


「わたしたちは貧乳で繋がってるからね」小川リオ。


「やっぱり、おれは巨乳が好きだけど、貧乳のことも好きになれると思う」天海アキラ。


「達者でな。何か困ったことあったらまた来いよ」比入氷雨。


「いい貧乳だな、占い娘ちゃん。大事にしろよ、その身体を」相変わらずの大平野好史。


 私は皆さんの言葉に微笑みで返すと、涙を拭って踵を返し、時空の裂け目と向き合いました。


 この裂け目をくぐれば、今までの未来と違った、明るい未来があるはずです。


 もし未来でうまくいかなくても、いざとなれば……。


 あ、そうだ。一つ忘れてはいけないことが。


 私は未来へ帰る前に、好史さんに一つだけプレゼントしようと思っていたんでした。


 なかなか言い出せないまま、お別れの時を迎えてしまいました。


 私は彼に駆け寄って、「記念品です」と言って、未来道具を一つ、手渡しました。


「これは……?」


「撃った人を()()()()()銃です。好史さんにあげます」


「いいのか? こんなもん渡して、俺なんかを信じちまって。乱射しちまうかもしれんぞ」


「ひみつですよ? これは……いつか、私が……」


「ん?」


「……いえ、何でもないです」


 私は言って、我慢できずに、すぐさま黒ローブのフードを深くかぶりました。


「もう使う機会はないと思うが、ありがとうな」


 その言葉に、私は顔を上げ、ニコッと笑ってやりました。


 さあ、気を取り直して、行きましょう。


 この裂け目を抜ければ、未来があります。


 皆さんにとっては、普通に見える場所。


 でも、私たち貧乳にとって眩しいくらいに明るい未来が。


「皆さん、また会う日まで、さようなら!」


 私はそんな言葉を残して、色紙と水晶玉を抱いて、時空の裂け目に飛び込みました。


 時空の狭間のその中で、私の意識はぐるぐると回転を始めました。やがて光が差してきて、その光の中に飛び込むと、そこはもう未来でした。


 私の周りには貧乳の皆さんが居て、拍手と歓声と共に迎えられ、わっしょいわっしょいと胴上げされました。


「貧乳を救ってくれてありがとう、占い娘ちゃん!」


 私を取り巻く貧乳たち――過去の世界に避難していた貧乳たち――で作る歓喜の輪の中には、私をイジメていた子もいて、彼女も実は貧乳だったと知りました。彼女も辛い思いをしていたんだと知って、胴上げとかされちゃって嬉しいはずなのに、何だか悲しくなって涙があふれてきました。


 でも、今ではもう堂々と貧乳だって言える世界になったから、きっとこれから皆で笑い合えます。そう思えたとき、悲しみなんか消え去って、安心の涙に変わりました。


 私は幸せな貧乳です。


 貧乳も巨乳も、これからは仲良くできます。


 もらった色紙は部屋に飾ります。殉職した三つの水晶玉ちゃんのために仏壇を用意します。皆さんとの想い出は四代目水晶玉ちゃんを使えばいつでも再生可能ですし、私の心の中にも焼きついています。


「今、私は、貧乳です。巨乳ではありません。ですが、貧乳だっていいじゃないですか」


 私は堂々と、今は小さな胸を張って言うのです。心から。


「――私も貧乳が好きです」




【占い娘 貧乳巨乳戦争 エピローグ 完】

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