第26.5話 和井喜々学園の日常5 夏祭り
☆
夏祭りがあった時の話をしましょう。
楽しい時が過ぎていき、八月になりました。
この頃は、好史さんと氷雨さんが大喧嘩のあとで仲直りして、雨降って地固まるって感じでしたね。
好史さんが嬉しそうに殴り飛ばされる日々が帰ってきた頃です。
え、好史さんがお祭りに誘われてないって?
そりゃあそうですよ、好史さんの愛する氷雨さんとの時間を奪い取るなんてヤボなこと、私たちにはできませんし。
そういえば、この頃、占い娘である私は未来にいる上司というか師匠と呼ぶべき人から時々連絡を受け取っていたんですよね。
古めの携帯電話に、メールという形で指令や雑談メールやらが送られてくるのですが、あのとき緊急任務連絡のアラームがうるさすぎで無視した挙句電源をオフっちゃいました。
ええ最悪でしたね。仕事できないクソガキですみません。
今思えば、あの緊急任務を受け取り、こなしていれば、世界中の女性が巨乳になってしまうなどという致命的で過酷な事態にはならなかったのではと思います。
何を思ったところで、もはや遅いですけど。
でも、だって、仕方ないじゃないですか。私は「貧乳といえば着物だよねっ」とかナツキちゃんに言われて子供用の浴衣を着て夏祭りに繰り出したのですから。うきうきで仕方なかったんです!
お祭りの雰囲気に酔っちゃって「仕事なんかやってらんないですよ。私は今すぐ仕事をやめて、占いの屋台を出します」とか考えていたのですから!
お祭りじゃ仕方ないですよね。
きっと皆も、そう言ってくれるはずです。
言ってくれますよね?
それに、後になって確認した任務の内容も「この猫にエサをあげること。高級マグロ限定」とかいう文章が黒猫の写真添付で送られてきてて、ちょっと意味がわからず説明不足だったので、酔っ払った師匠のイタズラメールに違いないとか思って無視しちゃったんです。
仕方ないですよね。
だからほら、好史さん。私に責任はないって言ってください。「占い娘ちゃんに一切の責任はないよね」という情報をインターネットとかで拡散してくれたら、きっと師匠に説教されずに済みます。
まあ後に敵としてあらわれる黒猫さんにエサをあげていれば、という後悔は尽きませんが、世界中の女性はもう元通り、何も無かったのと一緒ですよね。もう過ぎた話ですよ。
って、また話が明後日の方向にいってしまいました。
今はその話じゃなくて夏祭りがあったという話でした。
素敵なマンションにあるナツキちゃんの家で、安物の浴衣を着せてもらって、クセのある髪もアップにしてもらって、何だか私はうれしくて「エヘヘ」って笑ったのです。ナツキちゃんもつられるように笑った後、溜息を吐き、
「はぁ、でもアキラは来ないんだよなぁ」
などと恋する乙女な発言をしつつ、また一つ溜息を吐いたのです。
この時、アキラくんは夏休みを利用して父親の実家に里帰り中で、帰ってくるのはお祭り当日の深夜くらいになるとのことでした。なので一緒にお祭りエンジョイを夢見たナツキちゃんとしてはガッカリだったのです。
それでもナツキちゃんは気を取り直し、いつもの二つ結びな髪を解いて私とおそろいのアップにしました。
といった感じで、お祭り会場である神社へと移動しました。まず、私は食べ歩きました。そして、買ったばかりのお面を転んだ拍子に割ってしまいました。涙目になったところ頭にタオル巻いたオジサンが新しいお面をタダでくれました。金魚をゲットして跳びはねたりもしました。
とにかくお祭りを堪能していたのですが、あまりに遊びに夢中になってはしゃぎ回っていたところ、ナツキちゃんとはぐれました。
しかし、はぐれちゃっても大丈夫!
私の水晶玉は色々なものを映し出すのです。それはナツキちゃんの足取りでも例外ではなく、ひとたび私が水晶玉を取り出して念じれば――
と思ったのですが、映し出されませんでした。
「へい、へい、どうしたんだい水晶玉ちゃん!」
私はボロボロの水晶玉ちゃんに語りかけます。水晶玉ちゃんはポワンポワンと二回ほどほのかに光ったかと思ったら、もう完全に沈黙してしまい、それから二度と光ることも何かを映し出すこともなくなってしまいました。
緩やかにして穏やかな、水晶玉ちゃんの最期でした。
「あああああああああ! 水晶玉ちゃぁああん!」
私はタコ焼き屋台の前でテープまみれのボロボロの水晶玉に向かって叫びましたが、何度水晶玉ちゃんに語りかけても、目を覚ますことはありませんでした。
通行人の視線を浴びつつ、水晶玉ちゃんを起動しようと試みます。
苦しんで死んだわけではないのでしょう。しかし、私は「ごめんなさい、ごめん」と何度も謝りました。水晶玉ちゃんの命を奪ってしまったのは、他ならぬ私なのです。
私が、とある五月の日に貧乳好きの変態に水晶玉アタックを仕掛けるような乱暴な使い方をしなければ、水晶玉ちゃんが最期を迎えることはなかったかもしれないのです。
あと好史さんも共犯です。
好史さんの頭がもっと柔らかければ、水晶玉ちゃんが傷つかずに済んだと思います。
私は大勢の人に囲まれた中で、水晶玉ちゃんを抱きしめることしかできませんでした。
☆
ところで、私が水晶玉を抱きしめながら奇異なものを見るような視線を向けられていた時、ナツキちゃんなど他の皆さんが何をしていたかというと、何とファミレスに居ました。
せっかくのお祭りに何をしてるんですかと言いたいところですが、ナツキちゃんが神社から居なくなったのには大きな理由があったのです。
簡単に言うと、アキラくんから連絡が入ったからでした。
アキラくんは予定より早く帰省から戻ってくることになったのです。
そこで、ナツキちゃんからお祭りに誘われていたのを思い出し、ナツキちゃんの携帯にメールしたのでした。
その時のナツキちゃんは、とにかく自分の浴衣姿を見せたいと思っていました。なので、
『いつものファミレスで待っていておくれやす』
という内容のメールを送って、ファミレスへと駆けたのでした。
そして、ファミレスの窓の外からガラス越しに衝撃的な光景を目にしてしまったのです。
なんと、すでにファミレス内にはアキラくんがいました。そこまではいいのです。問題は、向かいに、もう一人座っていたことです。
白いワンピースなんぞを着ている女装男子のアキラくんは、後輩である変態メガネ一年生の篠原こやのと一緒に居ました。
しかも篠原の格好はどう見ても高価そうな、派手な赤色の夏用振袖。完全なヒロイン衣装です。高級金魚のような篠原の可憐な姿に、ナツキちゃんは完全に負けたと思いました。自分の安物浴衣の胸辺りを悲しそうに掴んでみたりします。
帰ってしまおうかという考えも、頭の中をよぎりました。
それでも、不本意ながらも自分自身にとって篠原がライバルであることを認め、ファミレスに足を踏み入れました。
「いらっしゃいませー」
朗らかな笑顔で挨拶するいつもの店員ちゃんの横を素通りして、篠原とアキラくんの居る席へと向かいます。
「アキラ、お待たせ」
などと露骨に篠原の存在を無視して話しかけるナツキちゃん。
「お、おう夏姫。よく来てくれた。助かったよ」
はっきり言うと、アキラくんは困ってました。その時、篠原にあるお願いをされていたからです。
それは篠原は天海アキラに対し、お揃いの色違いの夏用振袖を着せて、豪華ペアルック作戦を仕掛けようとしていました。
お揃いのものを着て一緒に歩けば、誰から見ても恋人に見えてしまうはず。まして夏振袖などという目立つ格好をすれば尚更。そんな風に篠原は考えておりました。
姉妹かお友達だと思われるに決まっていますね。どう考えても恋人には見えないでしょう。篠原は少しおかしいのです。
とはいえ、豪華ペアルック作戦などというものは、アキラくんが了承すればの話で、着替え時に男だとバレる可能性が高いものを差し出されて彼が首を縦に振るはずがありません。
篠原は、「ねぇ、天海先輩、いいでしょ? 一生のお願ぁいっ」と甘えた声を出し、アキラくんの手をそこはかとなくいやらしい手つきでそっと触ります。
ナツキちゃんは、「あぁっ何してんのよクソ後輩、あたしのアキラの手を気安く触るなんて!」とか心の中で地団駄を踏んだことでしょう。アキラくんはナツキちゃんのもんではないんですけどね。ナツキちゃんも、けっこうおかしいのです。
「いや、遠慮しとく」アキラくん。
「何でですか」軽くキレかけの篠原。
険悪な空気になりかけた時、ナツキちゃんの携帯電話がロックな着信音を鳴らしたので、彼女は携帯を耳に当てました。
「もしもし?」
『あ、今山さん? こんばんは、ちょっと訊きたいことがあるんだけど』
ナツキちゃんはその声を聞いて、すぐに小川ちゃんの顔を思い浮かべました。
「どしたの? リオちん」
『うちの後輩の篠原見なかった?』
「ファミレスだね」
『え?』
「前にほら、一緒にゴハン食べたファミレスあるでしょ。あそこに居る」
『シノが? 本当に? 何でそんなところに?』
「アキラが居るからでしょ」
『そっか。よくわかんないけど、そこに居るのがわかったからいっか。ちょっとお願いなんだけどさ、シノを捕まえといてくんない?』
「いいけど」
『じゃ、すぐ行くから』
そして通話が終了しました。
ナツキちゃんは篠原を四人掛け座席の奥の方に押し込めると、蓋をするように通路側に座りました。
ややあって、店員が「おまたせしましたー」などと言いながら、クラブハウスサンドを運んで来ました。アキラくんが頼んでいたものなので、彼の前に置かれます。
「ご注文、以上でお揃いですね。ごゆっくりどうぞー」
定型句と伝票を発して厨房へと消えていった店員さん。
これに気に入らなかったのは、ナツキちゃんでした。
「アキラ、何でこんなの頼んでんのよ」
「そりゃだって、ファミレス入って何も注文しないわけにはいかないわよ」
「でも、あたしお祭りに行きたいって言ったじゃん! したら、一緒にヤキソバとかタコ焼きとかなんか甘いやつとか、わけのわかんない柔らかいお煎餅とか、バナナにチョコレートをコーティングした謎の物体とかを食べ歩くって想像つくでしょ? 何でサンドイッチなんてジャパニーズフェスティバルっぽくないもん食べようとしてんのよ!」
すかさず後輩篠原が、「今山先輩っ、仕方ないです。天海先輩はフランスに居たんですから。ね?」とフォローした。
アキラくんは目を泳がせつつ、
「え、えーと……そうだわねぇ……」
「何なの! 後輩の言うこときいてデレデレしちゃって!」
「今山先輩、今のは取り消して下さい! 天海先輩は一度だって自分の言うことを聞き入れてくれたことはないですし、自分は今山先輩のように命令や強要をしたことはありません。今山先輩なんかと同じようなことをしてると思われるのは心外です!」
「何ですってぇ?」
その時アキラくんが「ねぇ、落ち着きなよ二人とも……」と仲裁を試みますが、
ナツキちゃんは、「うるさいっ!」と叫び、
篠原は、「先輩は黙っててくださいっす!」と一歩も引かない様子でした。
黙らされたアキラくんは、テーブルの木目をぼんやりと眺めることしかできませんでした。
そんなタイミングで、ファミレスの扉が開いて、鈴の音が鳴り響きました。
「お待たせー。待った?」
などと言いつつ体操服ポニーテール少女がやって来ました。小川リオちゃんです。
なんかもうわけのわかんないキレ方をしているナツキちゃんは「何しに来たのよ、リオちん!」と叫びました。
アキラくんはとりあえずクラブハウスサンドに手を伸ばしましたが、
「食うなっつってんだろ!」
バシッと手を叩きました。
「何で怒ってるの? 今山さん」
小川ちゃんが不思議そうに訊ねます。するとナツキちゃんは、
「リオちんには関係ないっしょ。てか、リオちんは一体何の用?」
などと攻撃的に返しました。
しかし小川ちゃんは特に気にする様子もなく、右のてのひらを左の拳でポムンと叩いて、
「そうそう、あのね、シノを連れ戻しに来たんだった」
すっとぼける篠原は、「何でですか、小川先輩」などと言って平然としていた。
「あのね、合宿中で、外出禁止ってことくらい分かってるよね」
この時、卓球部は大会に向けて強化合宿中だったのです。
合宿は学校内の宿泊施設を利用して行われており、金持ちお嬢様学校なのでその施設は大変な豪華壮麗さを誇っています。篠原はそんな場所を抜け出してファミレスに夏振袖姿で居るわけです。
卓球部の先輩にして副部長である小川ちゃんはそれを連れ戻しに来たのでした。
そのとき、隙ありとばかりに再びアキラくんがクラブハウスサンドに手を伸ばします。が、
「食うなっての!」
斜め向かいに座るナツキちゃんが、またしても身を乗り出して阻止しました。
小川ちゃんは「ほら、帰るよシノ」と言いながらもアキラくんの隣に座りましたが、その時、篠原はメガネを整えながらこう言いました。
「自分は、卓球部の合宿において天海先輩の居ない部屋に泊まるのを拒否します!」
「いい加減にしなさいこの変態!」
「自分は正常です!」
なるほど、実はアキラくんは男なので、とても正常なのかもしれません。
さらに、小川ちゃんはあることに気付いてクラブハウスサンドを勝手に口に運びながらこう言いました。
「ていうかさ、天海さんも卓球部なのに、何でこんなところでサボってんの?」
天海アキラは当然、ビックリします。確かに卓球部に入りました。入部届けは受理されています。ただし、まだ一度も卓球部に顔を出したことがないという超がつくレベルの幽霊部員ですけども。
しかし小川ちゃんは今、アキラくんをも連れ戻さねばならないという思考に辿り着いてしまったのです。
そして、ついにアキラくんはクラブハウスサンドを手に取り、口に運びました。
「だーかーらー、食ーうーなー」
モグモグしながらもゆっさゆっさと揺すられるアキラくん。
「天海先輩。さっさと自分と一緒に振袖を着て下さいよ。話はそれからです」
差し出される夏振袖。
「さっさと学校に戻るよ、天海さんも」
掴まれる、アキラくんの腕。
小川ちゃんは、アキラくんを合宿に連れて行けば、篠原もついてくると考えたようです。確かにその通りなのですが、それをすると今度は、ナツキちゃんが黙っていません。
戦いの中でアキラくんは、小川ちゃんとの触れ合いをちょっと喜んだりしましたが、そのうち、ナツキちゃんも、篠原も、小川ちゃんも……三人ともアキラくんに対してある程度の怒りを抱いていることに気付きました。
やがて三人は口々に「それで、誰を選ぶんですか? 天海先輩」だとか「卓球部なんだから合宿に来なよ天海さん」だとか「アキラは簡単に約束をやぶるの?」などと発した後、にらみ合うようにして黙りました。
アキラくんは困ってしまいました。
アキラくんに代わってその時の心境を五七五で表現するならば、
――三枚の、平たいパンに、はさまれる。
といったところでしょうか。クラブハウスサンドに挟まれるレタスのような気分だったに違いありません。緊張から喉も渇いたことでしょう。水分も吸われていくような雰囲気なのです。
結局、アキラくんはナツキちゃんの手を握りました。
夏祭りルートを選んだわけです。
当然です。どんなに小川ちゃんと一緒にいたくても、ナツキちゃんの言うことを聞かなければ男だということがバラされてしまうと思っているからです。
でも、ナツキちゃんはそういう風に脅すだけで、本当にバラしたりはしない子なんですけどね。
篠原は「くぅ! 先輩のいじわるっ!」などというわけのわからない捨て台詞を吐いて、下駄の音を残して出て行きました、
篠原を連れ戻すのが最大の目的である小川ちゃんも後輩を追って出て行きました。
選ばれたナツキちゃんは「へへへ」と照れくさそうに笑って、アキラくんと一緒にサンドイッチを食べた後、お祭りが行われている神社に行きました。
既にお祭りは終了していて、屋台はみんな後片付けの後半に差し掛かっていました。
「これが、後の祭りってやつだな」
などと呟いたアキラくんの頭を、ナツキちゃんは無表情で引っ叩きました。
その二日後に、世界中の女性が巨乳になることを、この時の愚かな私は全く予想できなかったのでした。
☆
貧乳学園での日常生活を話し終えたとき、好史さんはやっぱり怒っていました。貧乳に囲まれたアキラくんのハーレム生活を語ったのだから当然です。
その頃には、もう未来に帰らねばならない時間が迫っていました。
残り少ない時間を、まるで暇つぶしをするようにファミレスで話していたのは、下手に遠出してしまうと、可能性が低いとはいえ、せっかく平和になった未来が乱れる可能性がゼロではなかったからなのです。
師匠の命令でした。
すでに、帰るまでの時間を長いこと延ばしてもらっている以上、これ以上逆らうわけにはいきませんし、何より私の自分勝手な行動で未来をめちゃくちゃにするリスクのある選択はできません。
それでも、どんな場所でも、少しでも、一緒にいたかったのです。
帰るまでの数時間を、好史さんと二人で過ごしたかったのでした。
「好史さん、ありがとうございました」
「え、何が?」
「話をきいてくれて、うれしかったのです」
「何を大袈裟な。未来に帰るとはいっても、たまには遊びに来れるんだろう?」
「そうですねぇ」
私は曖昧な答えを返しました。
外に出た時、日差しのまぶしさに目がくらみ、思わずふらつきます。
「おっと、大丈夫か?」
「はい、ちょっと立ちくらみが……」
普段、太陽の光をあまり浴びない生活をしていたためか、どうも日光に弱いのです。
このとき、好史さんが支えてくれたのですが、よろめく私を抱きとめてくれた手に、思わず私は恐怖をおぼえてしまいました。
昨日の肥大化した好史さんの落ちてくる巨大な手が思い出されてしまったのです。
このままでは、いけません。
未来に帰るまえに、あの嫌なイメージを上書きしたいところです。
「好史さん」
「なんだ、占い娘」
「最後に、お願いをしていいですか?」
「何をだ?」
「私の頭を、なでてください」
すると彼は、私の頭を、今日もヤキソバみたいだなぁと言って笑いながら撫でてくれました。
「この頭にもしばらく触れなくなると思ったら、ちょっと残念だな。占い娘だけ、こっちに残るわけにはいかないのか?」
「いいえ、たくさんの友達が、未来で待っていますので」
私は、ひどい嘘をついて、嘘の笑いをしてやりました。
「占い娘。手でも繋ぐか?」
きっと、異性として意識しているわけではないのでしょう。ただ、私がさっき転びそうになったから、こういう優しいことを言ってきたのでしょう。
私だって未来に帰る前に、もっと触れ合いたかったけれど、それはできません。
そんなこと、絶対にやってはいけないんです。
「氷雨さんのこと、大事にしてください」
今日ばかりは、フードを被るのを我慢することにしているので、後ろめたくてもかぶりません。
乱れまくったヤキソバヘアーを整えると、私に青春をくれた学園に向かって、ゆっくりと歩き始めます。
水晶玉を光らせて、ペンギンみたいな歩き方で。




