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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
番外編 占い娘サイド
38/80

第26.5話 和井喜々学園の日常3 ふれあい

 さて七月も終わりに近づいた、超暑いある日のこと。


 私は、突然に告白されました。


「我慢できなかったんです。我慢なんてどうあっても無理だったんです。どうしても、もうダメだったんです。自分は、どうしても触ってしまいたかったんです。たとえそれが貧乳でも、いやむしろ無乳だったけれど、触らずにはいられなかったんです。最初は下着の留め金を外してみようと思っていました。いわゆるブラ狩りというやつです。


だけど、信じられないことにその人はブラなんてしてなかったんです。気付いたらもう、ナデナデしちゃってました。でもすぐに、自分のやってしまった蛮行に気付いて逃げ出したんです。自分は生涯、あの人の胸を撫でたこの手を洗いたくないんです。でも洗わないと嫌われてしまうかもしれなくて。ああもう、自分は、どうしたらいいんでしょうか」


 占い娘である私に向かって早口で浴びせてきたのは、アキラくんでもなければ、ナツキちゃんでもなく、大平野好史さんでもなければ、氷雨さんでもなく、小川ちゃんなどではあるはずもなく、じゃあ誰なのかと言われれば、篠原です。


 本名を篠原こやのといい、小川ちゃんの卓球部の後輩にして、女子高で真剣校内恋愛を求めている一年生女子です。


 女子高であるからには、篠原が恋するのは女子ということになります。そしてアキラくんのような特殊なケースを除けば、周囲はみんな女子なわけです。そこで生徒同士が恋愛するというのは、かなりの高確率で同性愛であるわけです。


 最近は珍しくもないと聞きますが、未来から来た私の感覚では、一体どうなっちゃってんのソレといったところです。


 そして、その篠原こやのが目をつけたのが、天海アキラだったのです。あれ、よくよく考えたら、それって、ある意味正常な気もしますね。


 ある七月の日、激しい日差しの中を登校したアキラくんが自らの下駄箱で発見したのは、何とラブレターでした。その差出人こそが篠原こやのでした。


 ちょうどラブレターを手に取った時、一緒に登校していたナツキちゃんが横に立ってたことも話をややこしくしたんじゃないかと私は思います。


「あれ、アキラー。何それー」


 ナツキちゃんは棒読みで言いながら、アキラくんが下駄箱から取り出したラブレターを当たり前のように奪い取り、ガサガサと開きます。


 ナツキちゃんはそれがラブレターであることを確信していました。そういった恋愛関連の何かは、ナツキちゃんにとって最大限の監視対象であったことは言うまでもありません。


 手紙の内容は、次の通りでした。


『天海晶先輩へ…………好きですと、いきなり言ったら天海先輩は驚くでしょうか。でも、自分は天海先輩にこの気持ちを伝えずにはいられませんでした。好きです、天海先輩のことが、誰よりも好きです。七月という中途半端な時期に、下駄箱に投函という中途半端な方法で思いを伝えることしかできない自分をどうかお許しください。天海先輩は、自分にとって神様のようなものです。世界は天海先輩を中心に回転していると言っても過言ではないと思います。天動説なんて嘘に決まっています。ああ、天海先輩、天海先輩。よかったら返事をください。…………篠原こやの』


 アキラくんより先に読み終えたナツキちゃんは、不機嫌を隠してアハハと乾いた作り笑いをしました。


「あんたのこと好きだってさ、女同士なのにねぇ」


 当のアキラくんは、溜息まじりに、


「どうなってんのかしら、この学校。貧乳しかいないし、女から女にラブレターくれるし」


 そう呟いてはみたものの、愛の手紙をもらって嬉しくなかったわけではありません。何度も言うように、彼は男なのです。ここは女子高なので、必然的にラブレターをくれたのは女子ということになるのです。


 さらにさらに、この学園は貧乳ばかりとはいっても貧乳特待生という、どうかと思う制度があることによって、容姿端麗な女子が非常に多く、アキラくんの顔が綻んでしまうのも無理ないことだったでしょう。


 そんな風にうきうきしているアキラくんを見ることは、ナツキちゃんにとっては面白くありません。何となく手に持っていた上履きで引っ叩きました。


「うぃっ、痛いわね、何するのよ」


 と女口調のアキラくんが困った顔で憤りを表現します。学校ではいかに周囲にナツキちゃんしか居ないように思えても、女の口調で返すことにしているのです。


 私やナツキちゃんなんかは、アキラくんが男の子であることを知っているので、何だか笑えてくるのですが、この時のナツキちゃんは笑ってる余裕はない様子でした。


 ナツキちゃんが、なんとか自分に振り向かせられないものかと考え込んでいると、不意に、「ひゃぁ」というアキラくんの悲鳴が耳に届きました。


 突如として現れたショートカットでメガネの一年生女子に背中をさすられたからでした。


 さらに次の瞬間には、背後から接近していたその女の子がハァハァと荒い息遣いを抑えきれず、アキラくんに後ろから抱きつき、アキラくんの胸のあたりをナデナデしました。


「な、何だ? 誰、誰だ? あ、いやぁ。な、何? やめて、やめてぇ」


 突然のことに驚き、膝をつくアキラくん。一年生女子は、しばらく後ろから抱きしめる形のままアキラくんの背中および無乳おっぱいの感触を堪能していましたが、やがて自らの勢い任せの蛮行(ばんこう)に気付いて、はっとした表情になり、そして、


「ごめんなさいぃぃぃ!」


 謝罪の言葉を叫びながら上履きのまま校庭方面へと走り去っていきました。


 この一年生女子こそ、ラブレターの主、篠原こやのでした。


 ナツキちゃんが口を開きます。


「あ、あれは、わが校に伝わる伝統芸能『貧乳ナデナデ&アウェイ』じゃん。私以上の才能かもしれない。まだ粗さがあるけど、一年生にしてあの技術をあそこまで身につけているとは、末恐ろしい……」


 いやもう、そんなもんが伝統になってるとか、貧乳学園な上にセクハラ学園って感じですよね。


 えっ、好史さん、そのワザを知ってるって?


 はあ変態ですね。


 やらないでくださいよ、捕まりますからね。


 さて、下駄箱の前に座りながら胸を押さえて涙目なアキラくんでしたが、ついでにナツキちゃんもアキラくんの平たい胸をナデナデしました。


「きゃぁああ」


 仲良しですねとでも言っておきましょう。激しすぎるセクハラですけども。


  ☆


 で、その篠原が少々ズレたメガネを整えながら校庭に居た私のところに相談しに来たのは、アキラくんの胸をナデナデした直後のことでした。まるでザンゲをするようにして私の前で告白を始めたのですが、おかげで私は教室に行くのが遅れて、遅刻あつかいでしたよ。最悪です。


「自分は、最低のことをしてしまいました。占い娘先輩なら、相談に乗ってくれると思ったんです。自分は、この気持ちを一体、どうしたら良いのでしょう。天海先輩と自分が女同士であることはわかっています。


だけど、止まらないのです。嗚呼、自分は最低のことをしてしまいました。天海先輩に『貧乳ナデナデ&アウェイ』をしてしまうなんて、自分でもどうかしていると思います。でも、どうしても止まらなかったのです。我慢できなかったんです。我慢なんてどうあっても――以下略」


 正直、どうだって良かったですけど、私はポムポムと彼女の肩を叩いて、ウィンクしながら親指を立ててあげました。


「ありがとうございます、占い娘先輩! 自分、頑張ってみます」


 何を頑張るつもりか知りませんが、勝手に頑張ってくれって感じです。


 でも、ちょっと迷惑な後輩だなとは思いましたけど、悪い気はしませんでしたね。


 篠原こやのは、小川ちゃんに比べると運動神経がやや劣ります。しかしながら、努力で技を磨き上げることにかけては並じゃない集中力を発揮するのです。


 ただ、その磨き上げる技というのが、背後から気付かれないように接近して対象の胸をモミモミあるいはナデナデするという最悪のセクハラ技である辺りが、道を踏み外しちゃってるポイントです。


 好史さんと同類の変態だからでしょうか。


 篠原こやのについて、語っておかねならないことは、もう一つあります。この子はかなりの金持ち家庭のお嬢様です。たまに優秀な執事が車で迎えに来てたりします。


 このあたりのことは、好史さんもご存知ですよね。


 これが、アキラくんと篠原との出会いでした。


 顔を合わせたわけではないので、出会いと言っていいのかは、ちょっと微妙ですけどね。


  ☆


 ある日のこと。アキラくんが、休み時間に居眠りをしていました。


 そこで私は、どんな夢をみているんだろうと気になり、水晶玉でのぞき見ることにしました。


 私にしか見えない映像が、机の上に映し出されます。


 家具の少ない和室にて、強面の男が、なにやらブラジャーと胸パッドという巨乳セットをアキラくんに向かって差し出している風景がありました。


「女とは、胸が大きいものだ」


「それは偏見っていうんだぜ親父」


 今ならわかりますね。これは、アキラくんとガルテリオさんです。


 屈強そうな男が言います。


「お前の母さんは巨乳だった。だからその娘であるお前も巨乳だ」


「ちょっと待て、娘じゃねぇだろ。何を自然に嘘こいてんだよ」


「何だその言葉遣いは! お父さんはお前をそんな娘に育てた記憶はないぞ!」


「娘じゃねぇ! 息子だよ!」


「アキラ? 何を寝ぼけたことを言っている?」


「お前だろ寝ぼけてんのは!」


 そこで、天海アキラくんは「はっ」と声を上げて目覚めました。


 父親に巨乳に見えるように胸パッドを強要されていた場面を夢に見てしまったのですが、実際に、こういうやりとりをしてそうですよね。


 取り出したハンカチで口元を拭き、指先で目蓋(まぶた)のあたりをこすりました。


 さて、その日の昼休みのこと。今山夏姫はお弁当を広げながら言いました。


「アキラはさあ、部活とか入んないの?」


「え、部活?」


 あっという間に昼ゴハンを食べ終えたアキラくんは、ナツキちゃんがお弁当食べてる様子を見つめながら聞き返しました。


「そう、部活。あたし華道部だけど、アキラは華道とか興味ある?」


 アキラくんは少しだけ華道をやったことがあります。父親に「花嫁修業ダァ」とか言われてやらされました。ただ無理矢理やらされたものだから華道の印象は最悪なので、


「いえ、やめときますわ」


「そっか……」


 そこで私が、今こそ出番だと感じ、二人に近づいてこう言いました。


「転入生さん、今こそ占い部を一緒に立ち上げませんか?」


「えっと、全く興味ないわ」


 一蹴されてしまいました。


 良いんです。何の問題もありません。


「じゃあ、運動部とか? 後で体育館でも見に行ってみる?」とナツキちゃん。


「そうね、放課後にでも行ってみるわ」とアキラくん。


  ☆


 あっという間に放課後。体育館にやって来ました。


 上履きから体育館履きに履き替え、館内に足を踏み入れました。


 するとそこには、卓球台にネットを取り付けている小川理央ちゃんの姿がありました。タンクトップに短パンでした。


 露出した肩がまぶしく、短パンから伸びる足も、しなやかで美しいものでした。


 アキラくんは、ドキドキしながら、後姿を見つめていました。


 小川ちゃんを発見した今山夏姫ちゃんは、ニヤリと悪い笑いを浮かべたと思ったら気配を消して小川ちゃんに接近しました。次の瞬間、ポニーテール少女の背中に襲い掛かり、抱きつき、小川ちゃんの貧乳をナデナデしました。


「わぁぁっ!?」


 いきなりの出来事に慌てながら顔を真っ赤にして抵抗を試みます。しかし『貧乳ナデナデ&アウェイ』という名の最悪セクハラ奥義を極めたナツキちゃんのいやらしい手つきによって、可愛らしい悲鳴と共に力が抜け、体育館の床にぐったりと横たわってしまいました。


 その隙にナツキちゃんは小川ちゃんに姿を見られることなく逃亡を果たしました。『貧乳ナデナデ&アウェイ』という破廉恥技は、貧乳をナデナデする技術と同じくらいにアウェイの部分が大事なのです。犯人だと特定されないように、姿を見られないように逃げるのは、かなりの難易度です。


「何なの、もう」


 呟きつつムクリと起き上がり、着衣を整えながら立ち上がった小川ちゃんは周囲をキョロキョロと見回しました。しかし、犯人らしき人は見当たりません。


 天海アキラの姿を見つけましたが、小川ちゃんは彼が犯人であるはずがないと思いました。当然です、プロ級の『貧乳ナデナデ&アウェイ』を転入したてのアキラくんが繰り出せるわけがないのですから。


 そんな時、体育館に、軽い挨拶が響きました。


「ちわーす」


 メガネ女子、篠原こやのが入ってきたのです。


「シノぉ~。キミだね、わたしに『貧乳ナデナデ&アウェイ』を仕掛けたのは~」


 小川ちゃんは無実の後輩に、大いなる怒りを向けました。


「せ、先輩? 何のことですか? 自分はまだ何も――」


「わたし、ウソつきは嫌いだかんね!」


 小川ちゃんは怒りを篠原にぶつけるがごとくショートカットの黒い頭を引っ叩きました。


 ちなみにこの時、小川ちゃんの「ウソつき嫌い」というワードに良心を最も痛めたのはアキラくんでした。


 これでアキラくんは小川ちゃんに嫌われることを恐れて、ウソをウソだと言い出せない状況に追い込まれてしまったのでした。まぁ同情とかできませんけど。


「自分じゃないです、自分は確かに『貧乳ナデナデ&アウェイ』できますけど、自分がそれをやったのは小川先輩にではなく、天海先輩にです」


「え? 天海さんに……?」


「あっ」


 口が滑った、といった調子で篠原が口元を押さえました。


 小川ちゃんの視線が、体育館の隅っこで突っ立っている天海アキラに向きました。そのタイミングで、今山夏姫が体育館に戻ってきて再び小川理央の背後に忍び寄り、


「だーれだ」


 とか言いながら小川ちゃんの貧乳をすっぽり包み込むように押さえました。


「わぁああっ」


 再びのハラスメントを受けた小川ちゃんは上半身を弓なりに反らしました。そして犯人の名前を呼んで、


「こらぁ、やめなさい今山さん!」


 腕を掴んだ。


「何だよぅ、女同士だからいいじゃんリオちん」


 いいえ、女同士だからといって何をしてもいいというわけではありません。


 セクハラはいけません。


「でも、皆してわたしの胸に触るってことは、少し大きくなったのかな」


 いいえ、絶対に違います。何なんですか、その考え方。大きくなったら触られるものというのは誤ったイメージだと言わざるをえません。そもそも、小川ちゃんの胸は私と同じくらいで、かわいそうなくらいに貧乳のままです。少しも大きくなっていません。


 ついでに言っておくと皆して触ったわけではなくナツキちゃんが二回触っただけです。


 ふと、メガネの篠原がアキラくんの姿に気付いて「あ、あ、あ、天海先輩っ!」などと頬を紅色に染めながら慌てた調子で叫びました。


「あ、そういえば、シノ。キミさっき『貧乳ナデナデ&アウェイ』を天海さんにも仕掛けたとか何とか言ってなかった?」


 小川ちゃんが篠原に向かってジト目で追及します。


「い、いえ、その、自分は……」


 歯切れ悪く言いかけたその時、ナツキちゃんは「あぁ、今朝の下駄箱でアキラに抱きついたのはリオちんの後輩かぁ」などと呟きました。


 その呟きを小川ちゃんの耳は見事に拾い上げ、篠原に険しい視線を向けました。


「キミは先輩の胸を手当たり次第に狙っているの?」


 笑みを浮かべつつ軽い口調で言いながらも拳を握って大いなる怒りを表現していました。先輩相手に『貧乳ナデナデ&アウェイ』を仕掛けるなどというのは、卓球部の恥であると言わんばかりです。


「いいえ、ちがいますよ、自分、篠原こやのが狙ってるのは天海先輩だけっす!」


 堂々とした変態告白は昼休みの体育館に響き渡りました。当然、その場にいた天海アキラ本人の耳にも届いたわけで、当然アキラくんは驚いていました。


 残念だ、貧乳じゃなければな、とか思ってそうな表情にも見えましたね。


 女の子に好かれているというのに、貧乳だという理由で『残念』とか考えちゃうアキラちゃんを見ていると私としては何だかイライラしますね。


 似たような人がここにもいますけども。ああいえ、聞き流してください。誰も貧乳好きのアロハさんのことだとは言ってませんからね。


 話を戻しましょう。


 小川ちゃんは、混乱します。


「えっと、シノ。天海さんのこと好きって、どういうことなの」


「愛です!」


「お、女の子同士で?」


「女だからという理由で、自分を止めることができたら苦労しませんよ。愛は止まらないんですよ先輩!」


「だってさ、どう思う? アキラ」とナツキちゃん。


「いや、その、ごめんなさい」


「そんな……」


 篠原は体育館の床に両膝と両手をついて、打ちひしがれていました。


 そんなこんなで、アキラくんは卓球部に入部することになりました。とは言っても、入部するだけして幽霊部員になっちゃったんですけどね。





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