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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
巨乳篇
23/80

第23話 貧乳巨乳戦争5 話し合い

「何ということですか……」


 ついに、三代目水晶玉も限界を迎えて死んでしまった。


 砕け死んだ。


 一代目は俺の頭にぶつけてヒビ割れ、二代目は麗しの長身師匠の光の弾でヒビ割れ、そして三代目は猫の激突によって既に地面に落ちてヒビ割れていたのだ。


 水晶玉が無傷の形だった時間は、とても少ない。


 俺の部屋で未来の映像を見せてくれた時や、アイテムクリエーションで世界一の貧乳人形を生み出した時は、ヒビ一つない完全体だったけど、それ以外は、ほとんどいつもヒビ割れだ。


「あぁぁぁ……」


 失望の声を漏らしながら座り込み、無残にも破片となった水晶玉を集める彼女。見ている俺たちも悲しくなってしまう。


 これは、追い詰められているのではないか。占い娘が未来テクノロジーとやらを全く使えないとなれば、巨乳派に後れを取ってしまうかもしれない。


 さらに間の悪いことに、敵の黒猫が姿を見せた。


 黒猫は、「フハハハ」と勝ち誇ったように笑っていた。下卑た笑いをこらえる気もないようだ。


 重要アイテムの喪失。敵の登場。


 窮地にあって、俺は絶望しかけていた。


 だって、もう氷雨の貧乳を元に戻すことができなくなったってことだろう?


 しかし、まだ折れていない仲間がいた。


 占い娘は諦めていなかった。不屈の精神で、ゆらりと立ち上がり、背筋を伸ばして、猫を見据えた。


 この絶望的展開に、その場に倒れこむこともなければ、両手と両膝をつくこともない。


「何がおかしいんですか! 猫さん!」


 占い娘は涙を飛ばしながら叫んだ。世界を切り裂くような大声で。


 この声をうけて、猫は笑いを止めた。


 それだけではない。貧乳派が、ついにまとまりを見せ始めたのだ。氷雨も俺を睨みつけている状況じゃないと気付いたようだ。小川リオもただならぬ事態であると認識して、空を見るのをやめた。


 こうなれば、チームになっていないバラバラの巨乳派の連中には勝てそうな気がしてくる。アキラをめぐって今山と篠原が争っていたり、敵のリーダーっぽい猫との絆だって、そもそも存在していないのだから。


 占い娘は、しっかりとした口調で言う。


「猫さん、何を勝ち誇っていたのですか。水晶玉が割れたくらいで、負けたことになどならないのです」


「なにぃ」


 占い娘は、熱い口調で語っていく。


「私の水晶玉を砕くことが目的だったのなら、私は確かに敗北です。でも、そんな玉割り競技をしているわけではないのです。世界中を巨乳にすることがあなたがたの目的ならば、猫さんの勝利宣言は、むしろただの負け惜しみに他なりません! だって、もう巨乳になってしまった人たちは、私たちの手によって、ほとんど元に戻っているのですから!」


「うぐっ、たしかに!」


 猫はたじろいだ。


「小川ちゃんは、ビキニの篠原を捕まえて下さい!」


 占い娘から、ポニテ娘に指示が与えられた。アキラの左腕を引っ張っている篠原を捕まえるように。すると小川ちゃんは、


「よくわかんなけど、シノはまた練習サボってたから確かに捕まえないとね。夢の中だからって、逃がさないんだから」


 猫の横を卓球で鍛えられた軽快なステップですり抜けると、水着姿の後輩へ向かって一直線。


 さらに占い娘は未だ巨乳のままである氷雨さんにも指示を与える。


「氷雨さんは夏姫ちゃんを捕らえて下さい!」


「おう」


 氷雨は駆け出し、天海アキラの右腕を引っ張っている夏姫に向かって行く。


 阻止しようと、黒猫が慌てて進路妨害しようと氷雨の肩にしがみついたが、野生の巨大イノシシのごとき氷雨の突進だ。小動物程度の重みで止まるはずがない。


 二人はそれぞれ標的に向かって行って、いとも容易(たやす)く捕らえた。


 篠原こやのは、組み伏せられながら、


「ジャマしないで下さい小川先輩! 自分は天海先輩を手に入れたり、天海先輩に手を入れたりする正念場を迎えているんです!」


「何言ってんのバカ! 女同士で!」


 そして、今山夏姫も、


「ひっ、氷雨先輩?」


「おとなしくしろ」


 肩に猫を乗せた女に、万力のごとき力でもって腕を掴まれて、にらまれて、完全に黙らされた。


 そして天海アキラは二人の巨乳から解放されると、大きく息を吐きつつ引っ張られていた腕のストレッチをした。


 あれだけ長い間、思いっきり引っ張られていればな。幸せながらも痛かったに違いない。


 かくして占い娘の指示のもと、貧乳派は結束し、巨乳派を分断することに成功した。


 あとは二人を俺の光線銃の餌食にすれば、もとの素晴らしい胸に戻る!


 しかし、その時だ。「あっ」と気付いた声を出した男がいた。それは、夏服姿が眩しい女装男の天海アキラだった。


 何に気付いたかと言えば、すでに貧乳に戻ってしまった小川理央の姿に、である。視線が彼女を射抜くや否や走り出し、俺の三メートルほど手前で立ち止まった。そして、怒りをあらわにして叫ぶのだ。


「よくも小川さんを貧乳にしたなぁ!」


 まるで、元から巨乳だったような言い様だが、ひどく間違っている。


 リオちゃんは、元々学園を代表するほどの引き締まった素晴らしいスポーティ貧乳だった。


 俺は、これ以上ないほどに呆れてしまって、すぐに言葉を返せなかった。


 もう今のアキラに対しては、呆れと怒り以外の感情は持てない。


 だって、そうだろう?


 世界すべての女性を巨乳化させたいと願ったのは、天海アキラだ。


 そんな大それた世界改悪をしといて、反省どころか逆ギレなど、到底許されることではない!


「いいか、巨乳好きのそこのお前、よく聞けよ。貧乳は素晴らしいものだ。誰も貧乳じゃなくなった世界なんて、俺が滅ぼしてやるとか考えたくらいだ。常識的に考えて、巨乳化を願うなんて、世界を乱す最悪行為だ!」


「その通りです、好史さん!」


 占い娘がテンション高く合いの手をくれた。


 俺は雄弁に力説する。


「貧乳は美しいものだ。世界で最も美しいのは貧乳だとさえ思う。貧乳は世界を救う。貧乳は俺たちを救う。雄大な大平野、なだらかな起伏、絶壁も素晴らしい。そしてパッドの盛られた嘘っぱちの胸すらも。


その中でも氷雨のは最高だった! そんな貧乳を、お前は巨乳ハーレムに身を置きたいがために消そうとした! 心の底から俺はお前を憎んでいる! 貧乳を世界から消そうとしたお前を!」


 しかし、天海アキラも退かない。自分勝手な反論を展開させた。


「でも、おれは巨乳が好きなんだ。考えてもみてくれ。おれは巨乳が好きなのに、学園で巨乳とは一度も触れ合えなかった。巨乳と同じ空気を吸うこともできなかった。巨乳を渇望したってしかたないでしょう?」


「女装するあまり誇りまで捨てたか!」


「男とか女とか関係ないでしょう!」


 この天海アキラのシャウトに、篠原が嬉しそうな顔をしたが、それはどうでも良いとして。


 とにかく、俺は貧乳派として、巨乳派を説き伏せねばならん。平和的に。占い娘が守ろうとしている貧乳の未来のために!


「考えてみれば、なるほど、たしかにこの俺が、巨乳に囲まれた学園生活をしていたら、周囲を貧乳にしたいと思ってしまうかもしれない。だが、それを実現までしたら、もう悪だ! だってそうだろう? 他人の意思を無視して、不自然に肉体を改変するなんて、もしも自分がされたら嫌だろ? たとえば今夜にでもUFOにさらわれて体のあちこちに変なチップ埋め込まれたりしたら、どうだ?」


「そりゃ嫌です」


「アキラ、お前はな、やり過ぎたんだ。百万歩譲って貧乳を巨乳にしてもいい場合があるとして、それは選んだ誰か一人が、自分から望んだ場合に限られるだろう。お前の勝手な考えで他人の身体をどうにかしようなんて、傲慢(ごうまん)にも程がある! 人の道に反する大いなる過ちなんだよ!」


「その通りです!」


 また合いの手を入れてきた占い娘。


 その場の勢いに呑まれて考えなしに同調しているような気がする。


 賛否両論ありそうなことも言った気がするから、本当にその通りなのかは微妙なところだが、それはさて置き、これで我々の優位は決定的なものとなった。


 黒ローブの占い娘を一瞥(いちべつ)したアキラは、まだ自分の過ちを認めたくないようだ。


「いや、でもっ――」


 俺はアキラの言葉を遮って、


「過ちを認めないなら! 俺はこの光線銃を用いて、世界中の巨乳を貧乳に変えてやる準備がある」


「きたあ!」と占い娘が高い声を出した。「さすがです! ここで全ての巨乳を人質にとる辺りが、さすが好史さんです!」


 妙なテンションの占い娘の声を受け、俺も最高潮。


「さあ謝罪しろ、天海アキラ! 全ての貧乳と貧乳好きに頭を下げるがいい!」


「くっ……」


 悔しそうに声を絞り出したアキラ。


 しかし、その時、氷雨の肩から黒猫が飛び降りてみせた。


「待つでござる!」


 選手交代ということらしい。ここでアキラは舞台から降り、かわりに猫が、俺たちの前に立ちはだかる。


 猫はしぶい声で語り出す。


「さきほどまでは何から何まで計画通り、うまくいっていたというに、時間を止めて『世界巨乳化計画』を阻むとはな。止まった世界の中で一乳(いちにゅう)ずつ地道に修正するとは、並みの精神力ではできぬこと。脱帽(だつぼう)でござるよ。だが、こちらも世界を背負っているでござる。世界を巨乳にせねば激しい争いが起きる……。拙者、そのような未来を変えに来たでござる」


「まーたござる口調で的外れなことを言い出しましたね!」


 こちらもバトンタッチ。占い娘ちゃんが俺の前に歩み出た。


 今度は黒猫と黒ローブ娘の舌戦(ぜっせん)が始まる。


「まったく、この猫は思想もいかれている上に、喋り方まで変だなんて、救いようがないですね」


「これは拙者の世界での標準語でござる。何もおかしくないでござる」


「どこの田舎未来から来た猫なんだか」


「なぬ、今の侮辱は取り消すでござる!」


「そっちこそ、さっきの汚い笑い声を取り消してください!」


 黒猫は、ふぅと一つ嘆息した。


「魔女よ、おぬしは何もわかっておらぬ! 皆が巨乳になれば、争いなんて起きないのでござる」


「間違った認識です!」


「なぜ」


「あなたは、大きな見落としをしています。世界中の女性たちを巨乳にしたからといって、争いが無くなるわけないのです! 貧乳という攻撃対象を失った者たちが新たに標的にするのは、巨乳の中でも小さいサイズの人たちです。今度は巨乳どうしの中で争いが生まれることになります。


あなたがた巨乳派も、争いをなくすために動いているつもりかもしれません。でも、その方法は、貧乳と貧乳派を根絶やしにするという、剥き出しの暴力でしょう?」


「そうせねば、争いはなくならないでござろう! 悪は駆逐(くちく)せねば!」


「いいえ、大事なのは、認め合うことです。貧乳が争いの種だから消し去ろうだなんて、実に子供っぽい発想です! 私はそのような暴挙(ぼうきょ)を黙って見ていられるほど、世界を諦めていません! 貧乳の存在を認めない人がいるという世界の不自然は、過去と現在と未来に対する大いなる裏切りに他ならないのです!」


 そこで俺、貧乳大好き代表の大平野好史も、彼女に加勢しようと高らかに断言する。


「そうだ! だって俺は貧乳が好きだ! 貧乳を愛してる! 貧乳がなくなったら生きていけない!」


 占い娘は、俺の方を向いて、落ち着かせるように頷いてみせた。


 ふたたび猫に向き直る。


「猫さん、あなたになら、わかるでしょう? あなたたちが巨乳を愛するように貧乳をこよなく愛する人たちだって、ちゃんと存在しているんですよ!」


「しかし、我々の中にも貧乳派の暴力に巻き込まれて命を落とした者が居るでござる」


「それ、もとはといえば巨乳派が貧乳派を弾圧したからでしょう。圧力をかけたからって、もう引っ込むところもないのに!」


「弾圧ゥ? そういった記録は残っておらぬし、その時代に拙者は生きておらぬので知らないでござる!」


「まぁ何という卑怯な猫ですか!」


 そして占い娘は、怒りに満ちた瞳で、俺を見た。


 存分に思いを吐き出して良いというサインだと受け取った俺は、思いの丈を叫ぶ。


 時が止まった灰色の空に向かって、全力で叫ぶ。


「そんな過去だの未来だのって話はどうだっていいんだよ! いいからさっさと氷雨の貧乳を元に戻せよ! 限界なんだ。貧乳オーラなのに貧乳じゃない氷雨を見ているだけで、俺はストレスで死んじまうところまで来てるんだよ! もはや俺は氷雨さんの貧乳が無いと生きて行けない! 愛する氷雨の貧乳という名の生命の水をくれ!」


「それで死ぬとかどんだけですか。こないだ貧乳以外も愛せるって気付いたとか言ってたばっかなのにブレブレすぎでしょ、と言いたいところですが、私としても貧乳に愛着がないわけではありません。貧乳だったおかげで、仲良くなれた人もいたんです。だから、ここは好史さんに賛成です! さあ、比入氷雨にかけたバスト固定を解除しなさい!」


 しかし猫は、そっぽを向いた。


「お断りでござる。この娘、巨乳の方が素晴らしく似合ってるでござる!」


「違う! 貧乳の氷雨の方が素晴らしい! そこは一歩も引けない!」


「わからぬか? 巨乳には愛が詰まっておるのじゃ。目をそらさず、そこに居る比入氷雨を見るが良い、愛がはちきれんばかりでござろう?」


「違う!」


 俺は氷雨に視線を向けず、猫をにらんだまま、氷雨の膨張した双丘を指差し、続けて言う。


「こんなものは愛ではない! 氷雨の本来の姿は貧乳だ。あまりにも貧乳だ! 貧乳の中の貧乳、ベストオブ貧乳だ! だから、今、いまここにいる俺が大事に守ってる氷雨に対する真実の愛は、あいつが貧乳じゃないと満たすことができないんだよォ!」


 占い娘はコツコツとレンガの道を歩きながら、


「貧乳は貧乳に。巨乳は巨乳に。私は巨乳をこの世から消そうというわけではありません。そこに妥協点を見出せませんか?」


 猫の前でしゃがみこんだ。


 不意に、小川リオちゃんに封じ込められていた水着姿の篠原が横から叫んだ。


「違います占い娘先輩! 自分、最初から巨乳でした!」


 どう考えても嘘だ。今山夏姫も、


「そ、そうだ。あたしも最初から巨乳だった! アキラの好きな巨乳だったんだぁ!」


 などと往生際が悪い。


「二人とも、天海アキラが好きなのはわかります。でも目を覚ましてください。あなたたちは二人とも……とても貧乳でした!」


「違うよ! 自然にあたしの力で巨乳になったんだよ、な? 篠原」


「そうです、今山先輩の言うとおりです。自分たちは天然です」


 しかし、そんな大嘘を認めてやることなんて出来るはずもない。


 夏姫も、篠原も、素晴らしい貧乳だ。俺が太鼓判を押すほどの、どこに出しても恥ずかしくないほどの貧乳だ。


 占い娘は力強く説得する。


「二人にとって貧乳は誇れるものではないかもしれない。むしろ大いなるコンプレックスなのかもしれない。それでも、あなたたちのようなとても可愛い貧乳娘が『巨乳になりたい』などと言い出したら、悲しむ人が大勢居るんです!」


「その通りだ!」


 占い娘は、俺に視線を送り、二人の貧乳に向けて銃を構えるジェスチャーをして狙撃を促す。


「好史さん。撃ってください!」


 そして、俺は引き金を――


「――待て!」


 低い野太い、とても力強い声。突然響いた上空からの男らしい声に、俺はびくりと肩を弾ませた。



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