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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
巨乳篇
22/80

第22話 貧乳巨乳戦争4 直視できない氷雨の巨乳

  ★


 愛する氷雨の肉体を元に戻すため。


 一刻も早く貧乳学園に乗り込んで、巨乳派を倒さねばならない。


 残念ながら、占い娘の「飛んで火に入る夏の虫作戦」とやらは失敗していたわけで、こっちが慌てて敵の城に飛び込んでいく形になってしまっている。返り討ちに遭ったりしないかと心配にならざるをえない。


 氷雨の漕ぐママチャリ、高速未来自転車バイバイバイシクルは、青空の下、大海原を走る。


 俺は荷台に乗る形ではなく、後輪の車軸に足の裏を置いている。後ろに立つ形だ。氷雨の肩に掴まっている。見下ろせば、氷雨の後頭部の向こうに……巨乳が見えてしまう。


 少し顔を上げれば占い娘の後ろ頭があり、船首の飾りにでもなったかのようだ。前カゴにおさまって風を受けつつ、水晶玉に映し出される巨乳派の動きを観察していた。黒いフードとヤキソバヘアーが風になびいていた。


「何か作戦はあるのか、占い娘ちゃん」


「いま、少し考えたんですけど、人質作戦なんて、どうでしょう。小川ちゃんを人質にとるのです」


 占い娘の、心のどす黒さが垣間見えた。


 そこで正々堂々が信条の比入氷雨が、「卑怯じゃねぇか?」と難色を示した。


「いえ、そうですね。人質って言い方がよくなかったです。考えてもみてください。小川ちゃんは、貧乳です。だから、むしろこっち側の人間です。巨乳を嫌がり、元の貧乳な自分に戻れないかと願っているに違いありません。そう考えれば人質作戦というよりかは人質奪還作戦と言うべきでしょうか」


 まずは敵の切り札と思われる天海アキラに揺さぶりをかけるため、彼が並々ならぬ好意を寄せている小川リオを貧乳サイドに引き込む――いや、取り戻すというわけだ。


 作戦を話し合っているうちに、三人が乗った自転車は固まった海を進んでいき、やがて太平洋を渡り切った。


 暗い曇り空が支配する我が国に戻ってきた。


 さすが未来テクノロジーの詰まった高速ママチャリだ。とても速い。


 上陸し、風を切って空を駆け抜けた。まるで稲妻のように高速で電線を走り、やがて学園前のアスファルト地面でドリフト走行した。


 貧乳の聖地のはずが、巨乳派の本拠地となってしまった和井喜々(わいきき)学園の門前に到着した。


 すぐに占い娘が前カゴから飛び降りる。


 占い娘は、力強く言い放つ。


「さあ行きましょう二人とも! クライマックスです!」


 俺は緊張から唾を飲み込み、豪華な洋風の正門を見上げながら、


「おい、本当に、ここから入っていいのか?」


 占い娘は頷いた。


「私たちは平和のために巨乳派をこらしめるのです。正しいことをするのですから、正面から突っ込むのが当たり前です」


「くぅ、感無量だ。裏からこっそりじゃなくて、正門をくぐれる日が来るとは」


 氷雨は、サドルを降りて、未来自転車を道路隅に駐輪してから、遠い目をして門を見上げた。


「あたしも、またここに戻ってくるなんて、想像してなかったな」


「さあ、叩き潰してやりましょう!」


 小さな占い娘を先頭に、右に俺、左に氷雨という陣形で、俺たちは立派な門を通過した。


 敷地内には、蝋人形のごとき巨乳たちが所狭しと並べられていた。


「好史さん、お願いします」


 占い娘の声をうけて、大きく頷き、巨乳たちを次々と光線銃で撃ち抜いた。みるみるうちに貧乳へと修正されていった。


「それにしても、さすがだな。高質の貧乳オーラを持った子たちがゴロゴロいやがる」


「そうでしょう。私なんかこの学園では大したことない貧乳なんですよ」


「そんなことはないさ。占い娘ちゃんの貧乳も、今のところはまだ極上の見た目だぞ」


 俺はお世辞を言ってやった。そして付け加えて、


「だが、氷雨の元の胸の素晴らしさには劣るけどな」


 そう言って、つい氷雨さんの貧乳があるはずの胸に目をやった。しかし、視界に飛び込んできたのは、これでもかというほどの巨乳。忌まわしき巨乳だった。


 俺はうっかり現実を直視してしまい、「おオ……」と声を漏らして地面に膝と両手をついた。


「見た目だけで判断しちゃダメだってわかってるんだ。けどよ、やっぱり氷雨さんは、実際に貧乳じゃなきゃ嫌だ。おまえの貧乳を見たり触ったりしたいんだ」


「好史……」


 比入氷雨は、気の毒そうに俺を見つめた。


 そんな時、止まったはずの世界で、誰かの話し声が耳に届いた。


「どうよアキラー、あたし育ったと思わない?」


 これは今山夏姫の声だ。


「先輩、自分、巨乳になりました!」


 これは篠原こやのの声。


「うはっ」


 天海アキラの喜びに満ち溢れたような吐息。突然湧いた巨乳に囲まれてワクワクが止まらないのだろう。


 声は体育館の方からきこえてきた。


 なるべく音を立てないように、声のあるほうへ歩く。


 ドーム球場のような形をした非常に立派な体育館が見えてきた。


 かと思ったら前方から近付いてくる人影が。


「占い娘ちゃーん」


 恥ずべき立体的な胸をゆっさゆっさ揺らして走って来るのは、ターゲットである小川リオだった。


 彼女は慌てた様子で俺たち三人の前に立つと、なんだか緊張した様子で、


「あ、あ、えっと、そのぉ……」


 持ち前の人見知りを発揮して俯いた。


 どうやら話したことのない氷雨におびえているようだ。


 そして再び顔を上げた時、俺と目が合い、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 俺が、「よぉ、久しぶりだな、リオちゃん」と言った時、氷雨が怪しむ顔をして、「知り合いなの?」と険しい声を出した。


 リオちゃんが「お、お久しぶりです」と言った瞬間、氷雨は俺を鋭い目でにらみつけてきた。こわい。


 何もやましいことはしていないと思う。小川リオと出会ったのは、つい最近、この夏のことである。今山夏姫とプロ野球のナイターを見に行った時に、ビール売り子をしていた彼女がメガホンをぶつけられてしまったのだ。


 それに怒って立ち上がったところ、惚れられてしまった。


 素晴らしい貧乳なので、悪い気はしない。一緒にラーメンを食べたりしたこともあるし、彼女の駆るスポーティな自転車に撥ね飛ばされたこともあるし、こうして思い返してみると、そこそこ仲のいい女の子ではある。


 そんな彼女が巨乳になっている姿を見るのもまた、耐え難いものがあった。


 だがしかし、リオちゃんとは本当に、全然深い関係じゃないのだ。とても可愛い妹のような存在だと思っているのだ。


「氷雨よ、誤解するなよ。リオちゃんと出会ったのは、野球場で……」


「野球場? あたしの知らない間に、まーた女と会ってたのか!」


 怒ると自分のことしか考えられなくなるのは誰だってそうかもしれないが、氷雨の場合、簡単にキレすぎだ。本来の胸の標高も低ければ沸点も低いときてる。


 とはいえ、人のことは言えない。俺もあっという間に頭に血が上った。


「誤解だってんだよ!」


「何だい偉そうに!」


 氷雨の拳が俺の顔面に入った。視界で氷雨の胸がバインバインに揺れた。おぞましい。


「いいか氷雨、よく考えてみろ。俺は貧乳が好きなんだ。巨乳とデートしたがるわけないだろ。いや、その、リオちゃんは本来貧乳だけども……」


「何が言いたいんだよ。言いたいことハッキリ言ってみろよ」


「とにかく! 俺が一番好きなのは、貧乳の氷雨…………だった」


「だったぁ? だったって言ったな、今! 小声だったけど聞き逃さなかったぞ。過去形かこの野郎!」


「はぐぁ!」


 高く高く蹴り上げられる。


 空中で痛みに耐えている俺の耳に、「え、ひんにゅう……?」という、リオちゃんの戸惑いの声が入ってきた。なんだか元気のない声だ。ショックを受けているような。


 何とかフォローすべきなのかもしれない。でも、今はそれより、氷雨との話し合いだ。


 すぐに立ち上がって自分勝手な本音をぶつける。


「ああそうさ! そうだともさ! 氷雨さんが貧乳だったころは、貧乳の氷雨さんが好きだったさ。でも、氷雨さんが巨乳になってしまった今はどうだ! そんな余分なものをくっつけてる氷雨さんなんか、氷雨さんじゃない!」


「そんなの……あたしはあたしだ! 貧乳じゃなくなったから、何だってんだよ。あたしは、お前の恋人――」


「うるさい! やっぱ氷雨さんは貧乳じゃなくちゃヤダ!」


 俺は駄々をこねるクソガキの口調で叫んだ。


「ちゃんとこっちを見ろ! お前は貧乳以外も好きになれるって、洗脳から解けたって、そう言ってたろ? ほら、よく見ろ。巨乳のあたしだって、ちゃんとあたしだって認めろ」


 頭ではわかっている。そんな風に胸で人を判断してはいけないと。


 それでも俺は、彼女のほうを向かなかった。心を守るためだ。


 氷雨は沈黙した。


 きっと、困った顔をしていると思う。いつだったか、彼女の家庭の話を聞かされた時のような、困ったような、憐れむような、寂しい笑みを浮かべていることだろう。


 本当に申し訳なく思う。それでも巨乳の氷雨は見たくない。


 自分だけでは氷雨の虚乳を治せない無力な自分を思い知ってしまうから……。

 巨乳を憎むあまりに世界を呪いたくなってしまうような気がするから……。


 なおも、「おい、話は終わってねえぞ」と氷雨が俺を呼んだ。でも俺は氷雨の方を向かなかった。


 そうして目を背けた先で見たのは、曇り空を見上げる小川リオちゃんだった。はち切れんばかりの体操服姿のまま、「ウフフ」と不気味な笑い声をあげていた。


「どうしたってんだ、リオちゃんは」


 俺が小声で呟いたら、占い娘も小声で答えてくれた。


「わかりませんか? 小川ちゃんの中で好史さんは、ありえないくらい美化されていて、まさかその正体が、彼女もちの貧乳至上主義の変態野郎だとは思いもよらなかったのですよ」


「それで落ち込んだ胸をしているのか。まるで打ち上げ失敗して絶賛落下中のロケットみたいに垂れ下がってしまっている」


「そりゃそうです。好きな人がド変態で、しかも恋人が居たんです。心が砕け散ってしまうのも無理のなことです」


「俺は、どうすればいい」


「チャンスですよ。小川ちゃんを撃って下さい」


「なるほど」


 貧乳にする光線銃による一撃を見舞った。


 青白い光に貫かれたリオちゃんの胸は、みるみるうちに貧乳に戻ったが、リオちゃんの元気は戻らない。


「占い娘よ。どうしたことだ。胸は戻ったのに、リオちゃんの元気が戻らないぞ」


「そりゃそうです。好きな人がおかしい人なんですから」


 なかなか現実逃避から戻ってこられない。


 リオちゃんが貧乳に戻ったところで、ついに氷雨が俺の胸倉をつかんだ。


「おい好史、何なんだよ。ちゃんとあたしを見ろぉ!」


 怒っている。当たり前だ。完全に俺のせいだ。でも理屈じゃない。見たくない。


「いやだ!」


「もう頭きた。このバカ!」


「おいこら、貧乳だったら俺を罵ってもいいが、そんないやらしい巨乳が、俺に暴言を吐くんじゃねえ!」


「ふ、ふざけんな! いつも胸にこだわり過ぎなんだよ!」


「当たり前だろうが……」小声で言った。「当たり前だろうが!」二度目は叫んだ。


「胸がどうなっても、あたしはあたしだ!」自分の胸を掴みながら。


「俺はお前のちっちゃいおっぱいが大好きだった!」


「――っこの! しねぇ!」


「ぐはぁ!」


 氷雨の一撃は、俺の鎖骨を砕いた。なかなか治らない。


 俺の肉体は、精神状態によって傷の治り方が違うという。占い娘の師匠が言っていたことだ。


 もしも今ぼっこぼこにされたら、ついに病院送りになってしまうのではないか。それくらい、俺は参ってしまっている。


 氷雨のありえない巨乳を見るたびに、精神ダメージが蓄積されていく。


 できるだけ見ないようにしてきたが、このまま巨乳の氷雨を何度も見ることになったら、精神的な死に至るんじゃないかとさえ思う。


 何でこんなことになってるんだ。


 俺の愛する氷雨さんの貧乳を取り戻すには、どうすればいいんだっけ。


 ――ああそうだ。天海アキラたち巨乳派を何とかしないといけないのか。


「お二人とも、仲間割れしてる場合じゃないのに、何やってんですか」


 ちいさな占い娘の大いなる怒りの声が、氷雨をとがめる。


 氷雨は、「だって好史が……」などと俺のせいにしたがる。


 貧乳ポニテ娘の小川ちゃんは、目の前の暴力巨乳娘と貧乳愛好家の異次元なやり取りを見て、「やっぱコレ夢だ」と確信の呟き。


 四人の貧乳派パーティは勝手に混乱状態だった。


 しかし、敵の方をみれば、敵も女装のアキラを二人の巨乳女子が引っ張り合うという混乱状態に陥っている。


 占い娘は、今が策を練り直すチャンスと判断したようだ。水晶玉を操作した。


 ところがどうだ。何らかの計算をはじめた水晶玉は、ホワンホワンと二度ほど弱々しく光を放った。


 そして、緑がかった強い閃光を放ち、テープで補強していたにもかかわらず、バラバラに砕け散ってしまった……。



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