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第19話 強くなりたい

 それから1週間、ひいちゃんは大学に出てこなかった。さすがに気になりメールをしてみたが、返事も来ない。

「どうしたんだろうね、ひいちゃん」

「…。寮に行ってみたほうがいいですよね」

 講義が終わった後、かっちゃんとばったりキャンパスで会い、そんな話をした。


「霊に憑りつかれてこないよう気を付けてよ、凪ちゃん」

「はい。いざとなったら、おばあちゃんに来てもらうから大丈夫です」

「おばあちゃん?伊豆から呼ぶの?」

「はい。呼べばすぐに来てくれます」


「ふうん」

 あ、そっか。おばあちゃんの魂が来てくれるっていうのをかっちゃんは知らなかったっけ。まあ、いいや。その辺は話さないでも。


「じゃ、俺はバイトあるから店に行くけど、なんかあったら店に顔出して」

「はい」

 かっちゃんと大学を出たところで別れて、私は寮に向かった。


 時間は4時半。空はまだまだ明るい。今日はけっこう暑かった。でも、寮に入った途端寒気を感じ、廊下がすごく暗く感じた。

 足早に2階にあがり、ひいちゃんの部屋のドアをノックした。


「はい?」

 あ、ひいちゃん、いる!

「私、凪だけど」

 そう言うと、ひいちゃんは何も答えず、ドアも開けてくれない。

「開けるよ、ひいちゃん」


 私は勝手にドアを開けてみた。すると中から冷たい空気が出てきて私にまとわりついた。

 おばあちゃん!!!心の中で叫んだ。ほんわりとあたたかい空気を感じ、目をつむるとおばあちゃんの笑顔が見えた。良かった。来てくれている。


「ひいちゃん、具合悪いの?」

 部屋の中に入るとひいちゃんはベッドに横になっていた。

「ちょっとだるいし、気分悪いから大学は休んでた」

「大丈夫?顔色も悪いね」


 これって、もしや霊の仕業なのかな。

「大丈夫」

 ひいちゃんは私の顔も見ずそう答え、くるっと壁側を向いてしまった。


「ひいちゃん、一回この部屋出ない?寮も出て、どっか行かない?」

「またあれ?幽霊でもいるっていうの?」

 背中を向けたままひいちゃんが聞いてきた。


「う、うん。多分いる。すごい寒気と、頭痛がする」

 おばあちゃんが守ってくれているのはわかる。それでもまだ、寒気や頭痛がする。それって、かなりやばい霊がいるってことなのかもしれない。


「いいよ。私には見えないし」

「ひいちゃん。いいから出よう」

 ひいちゃんの肩をゆすった。ひいちゃんの体は冷えていた。

「ほら、こんなに体が冷えてる。ね?出ようよ」


 外は汗ばむくらいなのに、この部屋は寒すぎる…。

「ほおっておいて」

「ひいちゃん?」

 どうしよう。こっちまでもっと体が冷えていく。


「帰って。どうせ凪ちゃんには私のことなんてわかるわけないんだから」

 そう言ってバシンと私の手を、ひいちゃんは思い切り振り払った。

 頭痛だけじゃなく、吐き気までしてきた。おばあちゃんのオーラも、今はまったく感じられない。


「私、また来るからね」

 それだけ言い残し、私は部屋を出た。廊下も寒いし、一階に行ってもまだ吐き気がおさまらず、慌てて私は寮を出た。


 ふらつきながら、なんとかバイト先まで行った。

「凪ちゃん?」

「かっちゃん…」

「顔、真っ青だよ。大丈夫?」


「気持ち悪い」

「とにかく、奥の席で休んで」

「うん」

 店長さんも心配して出てきてくれた。


「気分悪いの?真っ青だ」

「すみません。ちょっとだけ休んでもいいですか?」

「いいよ。お客さん、今少ないし」

「すみません」


 一番奥のテーブルで、ぐったりと私は休んだ。結局ひいちゃんを連れ出すことはできなかった。

 なんだか、ひいちゃん、おかしかった。それに痩せていた。


「どうだった?」

 水を持ってきたかっちゃんが、小声で私に聞いてきた。

「ひいちゃん、連れ出せませんでした」

「寮にはいたんだ」


「はい。具合悪そうだった。部屋も寒かったし、あのままじゃ、ひいちゃん、やばいのに」

「凪ちゃんでもダメか。どうしたらいいんだろうね」

 そう呟き、かっちゃんはキッチンの奥に戻って行った。


 どうしよう。寒いし、頭痛がさっきからおさまらない。時計を見ると、まだ5時を回ったところ。空君は塾かな。

 ああ、ダメだ。気分がよくならない。誰か、助けて。


 空君!!!


 ふわ。空君のオーラ?

 一瞬にして体があったまる。


 そのあと、おばあちゃんのオーラも感じた。空君のオーラはもう感じられないけど、今はおばあちゃんのオーラに包まれ、体があったかくなった。

 頭痛もおさまり、吐き気もなくなった。


「はあ」

 安どのため息をつくと、

「これ飲んであったまりな」

と、かっちゃんがホットミルクを持って来てくれた。


「ありがとう」

「店長からのサービス。あ、でも、さっきより顔色よくなったね」

「うん。もう大丈夫」

「そう、よかった」

 かっちゃんもほっとした顔になり、キッチンにまた戻って行った。


 ホットミルクを飲んだ。ああ、癒される。店長、ありがとう。心配かけちゃったよね。

 30分ほど休んでから、

「ご馳走様でした」

と、キッチンに挨拶に行き、私はアパートに帰った。


 夜10時半、かっちゃんが電話をしてきた。

「今、家に帰ってきた。凪ちゃん、具合どう?」

「はい。もうすっかり大丈夫です」

「…おばあちゃん、呼ぶとか言っていたけど、あれって何?伊豆からわざわざ来てくれるの?今、来てんの?」


「あの、おばあちゃんっていっても、魂なんです」

「は?」

「死んだひいおばあちゃんの魂で、幽霊とは違って、何かあると助けに来てくれて…」

「えっと。凪ちゃんにはおばあちゃんの魂が見えるわけ?」


「見えないですけど、感じられます。空君はおばあちゃん、見ること出来るんですけど」

「へえ。なんかすごいね」

「空君も魂飛ばして来てくれるから」

「は?空君はまだ生きているよね?」


「幽体離脱っていうのができるんです」

 私はなんとなくかっちゃんには、そんな話をしてみてもいい気がした。

「幽体離脱?そんなことできんの?」

「はい。それで、空君が来ると、そのオーラ感じてあったかくなって…。さっきも、一瞬だけど、お店に来てくれて、それで私、元気になれたんです」


「憑いている霊を消してくれるわけ?」

「いえ。空君が消してくれるんじゃなくて、空君のことを感じると、一気に私が光を出すみたいで。あ、おばあちゃんの場合は、おばあちゃんの光で霊を消しちゃってくれるみたいだけど」


「よくわかんないけど、とりあえず、空君が本体だろうが、魂だろうが来てくれたら、凪ちゃんが光を出せるってわけね」

「はい」

「ふうん」


 しばらく、かっちゃんは黙り込んだ。

「心配かけてすみません」

「いや。俺はいいけどさ、今後どうする?ひいちゃんのこと」

「……どうしよう」


「あのさ、こんなこと言うのもなんなんだけど。でも、今の話を聞いてて、俺なりに感じたんだけどさ」

「はい?」

「凪ちゃんって、空君がいないと、ダメなわけ?」

「え?」


「空君がいると光出して、なんとか霊を消せるんだろうけど、空君がいないと、光も出せないで、霊に憑りつかれたまんまになっちゃうわけ?それって、これから先、空君がいなくなったらどうなっちゃうの?」

「い、いなくなるなんてそんなこと!」


「今だってさ、離れているからなかなか会えないわけじゃん?幽体離脱って言ったって、空君だって生活あるんだから、そうそうしょっちゅう来れないわけでしょ?」

「はい」

「これからだって、空君が仕事始めたり、もし、もっと離れて暮らすようになったら、そんときはどうすんの?」


 そんなこと考えたこともなかった。だって、空君とは今年1年離れるけど、来年の春からはずっと一緒にいられると思っていたし。それに今だって、すぐに飛んできてくれるから大丈夫って。


「凪ちゃんさあ、一人でも大丈夫にならないと、今後やばいんじゃないの?」

「やばいって?」

「憑りつかれやすいんでしょ?」

「……そうですけど」


「何とか一人でも、霊を消せるようになっておかないとさ」

 いつでも、光が出せたらいいってことだよね。一人でいたって…。

「気持ちが落ちるとやばいんだっけ?」

「はい」


「じゃあ、あれだね。もっとメンタル部分を鍛えないとならないってことだ」

「鍛える?」

「強くならないとね」

「…強く?どうやってですか?」


「さあ?俺もわかんないけどさ」

「………」

「まあ、まずは自信を持つこと…とか?」

「自信…」


「あんまり悩まないこととか?」

「……」

「ごめん。こんなこと言っておいて俺もよくわかってないけど。ああ、そうだ。もっとさ、楽天的になるとか。そういうのも必要かもね」


 ああ、確かに。パパや碧が能天気で楽天家だから、霊も寄ってこないのかもしれないよね。

 電話を切ってから、私はお風呂に入った。その間もおばあちゃんのオーラを感じ、ほっとしていた。


 お風呂から出て、髪を乾かしていると、空君からの電話が鳴った。

「空君!」

「凪?大丈夫だった?」

「うん。一回来てくれたよね?」


「塾の講義があって、一瞬しか行けなかった。ばあちゃんにそのあとは頼んだけど。なんか、すごい霊の集まっているところに行ったんだって?ばあちゃんの光も、消えちゃうくらい冷気が漂ってて、凪ちゃんが大変って、そう俺のところに言いに来たんだ」

「おばあちゃんが?」


「どこにいたの?凪」

「ひいちゃんの部屋」

「え?ひちゃんさんのところ、そんなにやばいの?」

「ひいちゃん、大学も休んでいるの。どうしたらいいかな?」


「……それで凪も憑りつかれたんだ」

「うん」

「そっか。俺も一緒なら大丈夫なんだろうけどなあ」

 寮は男子禁制だし。それに、空君がひいちゃんに会いに来たら、私が嫉妬しちゃいそうだ。


 ああ、これだ。こんなことくらいで、嫉妬したりもやもやしなければ、私も光を出したままでいられるのに。結局、かっちゃんが言うように、私がもっと強くならないとダメなんだ。


 でも、どうやって?


 空君がいないでも、いつでも光が出せるようになって、もう、霊に憑りつかれないようになることってできるのかな。




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