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第10話 サークル

 夜ご飯は、結局シチュー。

「ごめんね、空君」

「なんで?」

「ワンパターンなものしか作れなくて」


「え?俺、凪のシチューは初めて食べた。前に碧の作ったものなら食べたけど」

「これから、頑張ってレパートリー増やすね」

「…うん。じゃあ、俺も、なんか作れるようにならないとね」

「え?」


「1年後には、一緒に住むんだし」

 ドキン。

 私が照れると、空君までが顔を赤くした。


「シチュー、味、薄かったね」

「大丈夫、うまいよ」

 空君はそう言いながら、バクバクとシチューを食べてくれた。


 夕飯を食べ終わり、一緒に後片付けをした。そして、

「じゃあ、俺、そろそろ」

と、空君はカバンを持った。


「え?もう?」

 時計を見ると、8時半。

「あ、そうだよね。遅くなっちゃうよね」

「泊まっていくっていう手もあるんだけど」


「え?!」

「なんてね」

 びっくりした。でも、泊まっていってほしいような気もする。


「…一応、歯ブラシと着替えはあるんだけど」

 空君は鼻の横を掻きながら、ぼそっとそう言った。

「え?!」

 歯ブラシと着替え?


「置いていっていい?いつか、泊まる日が本当に来るかもしれないし」

「う、う、うん。いいよ」

 ドキドキ。びっくりした。今日、泊まっていくのかと思った。


 空君がカバンから出した歯ブラシを、洗面所に持って行った。そのあと、空君のパジャマやTシャツをしまおうとして、パジャマの間からパンツがポロリと落ちてきて、思わずびっくりしてしまった。

「あ!」


 チェック柄の可愛いパンツだ。床にひらりと落ちたものを、拾うかどうか躊躇してしまった。

「俺がしまうよ」

 空君はそのパンツをさっと拾い上げた。

「ご、ごめんね」


 顔が勝手に熱くなる。一緒に暮らしたら空君のパンツだって、私が洗ってあげるんだよね。ひゃあ。


「じゃあ、俺、帰るね。あ、もう外暗いし、見送りはいいから」

「うん」

 いきなり寂しくなった。


「じゃあ」

「空君、来週は私が伊豆に行くね」

「うん」

 玄関で空君は、私に優しくキスをして、そして出て行った。


 ドアの前で、空君の唇の感触をずっとかみしめた。

 空く~~~ん。やっぱり、泊まって行って。って、我儘言えばよかったかな。でも、明日空君、学校だもんね…。


 部屋に入ると、一気に寂しくなった。し~~んと静まり返っているから、慌ててテレビをつけた。お笑いタレントが画面の中ではしゃいでいる。それをぼけっと観ながら、ため息をついた。


 ああ。早く一緒に暮らせたらいいのに…。


 お風呂に入った。大学に行く準備をして、布団に入った。まだ11時にもなっていない。

「は~~~あ」

 ゴロンと横になって、また空君を思い出した。

「空く~~~ん」

 さっき別れたばかりなのに、もう恋しい…。


 遠恋ってやっぱり、寂しい。


 翌日、大学に行くとひいちゃんに、

「凪ちゃん、空君とのなれそめとか、いろいろ教えて」

と質問攻めにあった。


「えっと」

 出会ったのは赤ちゃんの時。もの心ついた頃からずっと好きだった…ようなことを話すと、

「え~~~~、それって、本当に好きなの?恋なの?兄弟みたいなもんじゃん」

と言われてしまった。


「だから、空君は男として見ていないんじゃないの?」

「そんなことないよ」

 空君と話せなかった時期のこととか、ひいちゃんに言っても、

「え~~、でもさあ」

と、納得してもらえない。


「凪ちゃんも、男の人苦手って言うから、彼氏なんていないと思ってた。かなりショック」

 そんなに?

「空君のことは、本当に嫌じゃないの?」

「うん」


「ふうん」

 1日、空君のことを聞かれた。

「凪ちゃんが平気なら、私も平気なのかな」

「え?」


「空君」

 は?

「空君みたいな人」

 ああ、びっくりした。空君にそんなに興味持ったのかと思った。


「わかんないけど、きっとひいちゃんにも、ときめき感じるような人現れるかもね」

「え?赤ちゃんの頃から一緒にいる人に、ときめくの?」

「う、うん」

「へ~~~」

 

 そう言えば空君、ひいちゃんは霊を引き寄せやすいって言っていたな。同じ波動を持っているとかなんとか…。なんでかな。


「ねえ、ねえ。榎本さん」

「え?」

 最後の講義も終わり、カバンを持って帰ろうとしていると、私とひいちゃんのもとにクラスの子が声をかけてきた。


「榎本さんって、サークル入らないの?」

「うん。今のところ入る気ないなあ。バイトしようかと思っているし」

「バイト?そっかあ」

 その人はそれだけ聞いて、他の子にも同じ質問をしに行ってしまった。


「サークル、一緒に入りたかったのかな」

 ぽつりとその子の後姿を見ながら私は呟いた。そして、

「あ、ひいちゃんはサークル入らないの?」

と横にいるひいちゃんに聞いてみた。


 ブル…。あれ?なんか、寒気がしたかも。

「ひいちゃん?」

 ひいちゃんは、俯きながら黙り込んでいる。


「サークル、入るの?」

「私は…別に」

 なんか、声低い。それに、表情暗いかも。


「どうかした?ひいちゃん」

「あの子、私には声かけてこなかったなって思って」

「あれ?そうだった?私とひいちゃんに声かけて来たんじゃないの?」

「凪ちゃんの名前しか言わなかった」


「そうだったっけ?」

「私って、やっぱり声かけづらいかな」

「そんなことないよ。私、ひいちゃんに声かけてもらえて嬉しかったよ」

「凪ちゃんは、なんとなく…。ほわわんとしていて、声かけやすいし」


 そうなの?

「あ、そっか。だからさっきの人も、私には声かけやすかったのかな?」

 そう言うと、ひいちゃんは一瞬納得した。でもまた、暗い顔をして、

「ダメだなあ、私って」

と落ち込んでしまった。


 あれあれ?

 

 声をかけてくれた時は、見た目と違い明るい子だなって思ったんだけどな。話してみたらけっこうおしゃべりだし、楽しい子だなって。

「大学来て、性格変えようと思ったのにな」

 そうため息交じりにひいちゃんは言った。


 帰りに、構内のカフェに行き、私はひいちゃんから高校時代の話を聞かせてもらった。ひいちゃんは特に部活をすることもなく、友達も数人いるだけで、みんなでどこかに遊びに行くようなこともなかったらしい。家が旅館をしていることもあって、手伝いもしないとならなかったようだ。


 大学に入ったら、明るく振舞おうと思って、話しかけやすい私に勇気を出して話しかけたらしい。知らなかったなあ。そんな勇気を出してくれていたとは。


「男の人ほどじゃないんだけど、女の子も、派手目な人とか苦手なんだ」

「私も、ちょっと苦手かも、そういう人」

 千鶴はそっちの部類に入るかな?だけど、千鶴だけかも。他の派手目な子は苦手だった。


「空君って、ちょっと髪茶色いよね。あれって地毛?それとも染めてるの?服装も派手ってわけじゃないけど、大人しめってわけでもなさそうだし」

「空君はサーフィンしているから、それで髪がああいう色なの。家がサーフィンショップで、服はたいていそのお店で買ってる。ちょっとカラフルな服を好んで着ているけど、似合うでしょ?お洒落なんだよね」


「あ、ああいうのをお洒落っていうのか」

 ぼそっとひいちゃんはそう言った。

「なんか、冷たいイメージもあったんだけど」

「空君?う~~ん。クールな感じもあるけど、でも、優しいよ」


「顔はいいと思う。イケメンだって思うけど、私、イケメンってダメなんだよね。性格悪いんじゃないかってつい思っちゃう」

 ひいちゃんはアイスティを飲みながら、そんなことを言った。


 じゃ、碧やパパに会ったら、引きそうだな。会わせないほうがいいかな。


「彼氏とデートとか、してみたいなって思うこともあるんだけどさあ」

「え、そうなの?」

 まったく男の人と付き合いたいって思っていないのかと思った。

「だけど、男性が苦手だからしょうがないよね」


「前に付き合ったっていう先輩みたいな男ばかりじゃないと思うよ。きっと、ひいちゃんを大事にしてくれる男性、現れると思うよ?」

「空君はそうなの?」

「うん」

 にこっと笑いながら頷くと、ひいちゃんはただ「ふうん」と相槌を打っただけだった。


 その後、だんだんと私は、他の子たちとも話す機会が増えて行った。サークルには入らないと言ったが、

「週1だけしか集まらないし、もし忙しかったら出なくても全然大丈夫だから」

と、強引に連れて行かれて、テニスサークルに入ってしまった。


 それも、行ってみたら、

「あ!凪ちゃんだ~~!」

と、そこにはかっちゃんがいた。あ~~~。関わりたくなかったのに。


「かっちゃん先輩と榎本さん、知り合いなの?」

 連れてきたクラスメイトの土田さんが聞いてきた。

「アパートのお隣さんなんだ。凪ちゃんと一緒なんて、テンションあがるなあ!」

 私は思い切り下がったけど。


「…あれ?あの時の友達は一緒じゃないの?」

「ひいちゃん?」

「うん」

「テニスしたことないからって…。でも、私も全然できないんだけど」


「なんだ。テニスできなくたって、大丈夫なのに。手取り足取り教えてあげるしさあ」

 それじゃ、絶対にひいちゃん入らないだろうな。

「ひいちゃんって子も連れてきて。たまに参加するだけでもいいし。あ、そうだ。凪ちゃん、バイトの面接いつがいい?」


 まだ言ってる。

「え?かっちゃん先輩と同じファミレスでバイトするの?」

 土田さんがまた聞いてきた。

「ツッチーもうちの店でバイトしない?コンビニ辞めてさあ」


「え~~~、そうしたいけど、人足りないし辞められないんだよねえ」

 ツッチーって呼ばれているのか。かっちゃんとは仲よさそうだな。

 と思ったら、かっちゃんは、他の女の子たちとも仲が良かった。後輩先輩関係なく、みんなが「かっちゃん」と呼んで慕っている。


「新入生もサークルに入ってくれたし、今週の金曜は歓迎会するよ。みんな絶対に来て」

 サークルの部長さんがそう挨拶をした。サークルは総勢35人いるらしいが、どうやらそのほとんどが、来たり来なかったり。かなり適当なサークルらしい。


 その日も集まったのは、たったの15人。その中で1年生は6人。

「たった6人だけ。もっともっと、勧誘しようよ。部長」

 かっちゃんがそう言うと、

「じゃ、かっちゃん、連れてきて。ノルマ達成してないよ。一人最低、一人は連れてこないと」

と、部長に言われていた。


「連れてきた。ね?凪ちゃん」

「凪ちゃんは、ツッチーが連れてきたんでしょ。えらいよねえ、ツッチー。入って間もないのに、勧誘に成功して!」

「えらいでしょ?」


「凪ちゃん、今度ひいちゃんに声かけに行くから。そこでノルマ達成するぞ」

 かっちゃんの意気込みはすごい。鼻息も荒くしているけれど、はたしてひいちゃんが入るのかなあ。


「勧誘成功すると、ポイントがもらえるんだよ」

 サークルの帰り道、ツッチーが教えてくれた。

「ポイントって?」

「貯まるとね、いろんな特典を受けられるの」


「特典って?」

「例えば、飲み会一回タダ券とか、ボーリングのゲーム一回タダ券とか」

 なんじゃ、それは。


「一人勧誘したら、ポイント2個。あと、お花見の場所いいところ確保できたら、ポイント5個とか、サークル活動10回でたら、ポイント3個とか」

「…そうなんだ。でも、私、別にいらないかな、ポイント」

 飲み会もボーリングも行く気ないし。


「え~~、けっこう楽しそうだよ。ここで彼氏もゲットした先輩多いらしいし。かっちゃん先輩は今フリーだから、ねらい目みたいなんだよね」

 まったく興味ないない。どうでもいいや。


「榎本さん、彼氏いないでしょ?」

「え?そ、そう見える?」

「うん。いないように見えるよ」

「……いるんだけど、な」


「え?!そうなの?同じ大学?」

「ううん。地元にいる」

「じゃ、遠恋?」

「遠恋ってほど遠くないけど」


「……悪いこと言わないから、別れて近くに彼氏作りなよ」

「え?!」

「そっちのほうが楽しいよ、絶対。私だって、高校卒業と同時に、同じ高校の子と別れたから」

「え?」


「彼の方が東京行っちゃったし。私はこの大学で彼氏見つけるつもりだし」

「……」

 千鶴も、結局別れたみたいだしなあ。そういう人も多いのかな。

 だけど、私は空君と別れたりしないもん!


 心の中でそう叫んだ。来年には一緒に暮らすんだし。1年は長いかもしれない。だけど、あっという間に過ぎるのかもしれない。この先の1年はどんなふうになるのか、見当もつかないけど、でもきっと、空君とは今迄通りだよね?


 サークル活動は適当に出よう。それから、そろそろバイトでも見つけようかな。なんて、呑気なことをその頃は考えていた。

 


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