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会いに来てくれない【フロレンツィア視点】

 

 ユリウスと喧嘩してしまった……。


 ユリウスとの結婚に前向きになれていないことが気づかれていたし、パヴェルとの間に実は婚約話があったと知られてしまった。

 私がパヴェルとの婚約話を隠していたと思われたに違いない。

 しかも、パヴェルと婚約したいと思われているみたいだし……。


 完全に誤解された。

 誤解を解きたいけど、『お互いに頭を冷やそう』と言われて、休憩時間のお茶もなくなってしまった。


 あの日、休憩時間に副所長室に行くべきか迷って、行って「何しに来たの?」と冷たくされたらと想像して躊躇した。

 ユリウスの機嫌が直っていれば迎えに来てくれるかもと期待して待っていたら、休憩時間が終わってしまった。

 最近は私が研究に没頭していて休憩時間に気づかないでいると直ぐに迎えに来てくれていたのに……。

 本格的に怒らせてしまったんだ。


 ◇


 正式に婚約してからは、副所長室でのお茶以外でも城内をふたりで歩くことも増えていた。

 だけど急に私たちが一緒にいるところを見なくなったから、皆が好き勝手に噂し始めている。

 ギースベルト家の夜会を端に発生した噂が、今では事実のように伝わっているし、婚約破棄間近と言われている。


 いつまで距離を置いたままなんだろう。

 頭を冷やすも何も、誤解を解かないと何も始まらないのに――――


 気がつけば一カ月以上、ユリウスとお茶をしていないし顔を見ていない。

 会ったら気まずいと思ってレッカーにも行かないでいたら、どんどん気まずくなってもっと行きにくくなってしまった。


 ユリウスとの婚約が夢だったかのように、屋敷と研究所の往復をする日々。

 お城を移動するときはコリーさんがついてきてくれるし、妃教育もなくならないからまだ婚約者なんだと分かるくらい。

 婚約者であるユリウスには会わないのに、淡々と妃教育だけ施されていく違和感。


 でも、そのおかげか、はっきりと気づいてしまった。

 どうしてそんなにユリウスとの結婚に前向きになれないかを。


 突如始まった妃教育で流されるまま来ていたけど、気持ちの面でもいっぱいいっぱいだった。

 パヴェルから少し労いの言葉を掛けられただけで、泣きそうになるほどに。


 前向きになれないから覚えが悪いし、だけどこれでも覚えることは少ないと言われて詰め込まれて。

 復習の時間はくれないから自分で復習して覚えるしかないのに、全然覚えられなくて。

 夜更かしもしていた。

 だけど、王族としての義務と役割については何度も繰り返されて、どんどん追い詰められていた。


 比例して自分には務まらないと自信がなくなっていく。


 私は王子妃になりたいわけではないのに、どうしてこんなことをしているんだろう……。ユリウスと会えず、気持ちがすれ違ったままで、いよいよ何の意味があるのか分からない……。と思ってしまった。


 言っても意味が無いことだけど、私が好きになったのはレッカーの常連仲間の気楽に話せるサイラスであって、王族のユリウス殿下ではない……。


 こうしてユリウスと会わなくなって再認識した。

 彼は意識的に会おうとしないと会えない存在なのだと。

 私には遠い存在の人で、元から釣り合ってなかったのだ。

 私が好きになったサイラスとユリウスが同一人物だと分かっているけど、王族と結婚しようなんて……好きな気持ちだけでどうにかなる問題じゃないのに。


 好きなのに、どうしたらいいのか、どうしたいのか、もうよく分からない。


「おや。フロウ」

「あ。お父様、おかえりなさい。帰ってくるなんて珍しい」

「はは……フロウに言われてから帰宅するようにしていたんだけどな。私が帰宅する日を増やしたけど、フロウは部屋にこもって勉強していたからね。全然会えなかっただけだよ」

「そうだったんだ」

「いいのかい?今日はもう勉強しなくて」

「……うん。いいの」

「疲れている?なんだか顔が暗いよ。そんなんじゃ幸せな花嫁になれないんじゃない」

「っ……こうなったのは誰のせいで!」

「どうしたんだ?落ち着いて」

「落ち着いてるよ。元々はお父様がパヴェルに婚約話を持ちかけてそれを黙っていたから、ユリウスに誤解されたんじゃない!」

「急に責められても困るけど……二人が喧嘩したのは私のせいだって言うのかい?違うよね。いい歳して人のせいにするんじゃない」

「だってお父様が私に黙っていたから!」

「二人が仲違いをしているのは、私のせいではない。二人がちゃんと話し合えば済む問題だったはずだ」

「話ができれば苦労しないよ。王族は自由に話ができる人じゃないじゃない」

「ユリウス殿下はフロレンツィアの前でいつも王族だったのかい?」


 そう言えば、ユリウスとレッカーのサイラスが同一人物だと分かってからは、ユリウスはユリウスだった。

 副所長室で二人やサイラス様と三人の時はレッカーにいる時と何も変わらなかった。


「二人はちゃんと話す努力をしたの?相手が歩み寄ってくるのを待っているだけじゃ何も解決しないよ」

「…………」

「まずはちゃんと話をするんだ。二人はきっとお互いに言葉が足りていない。結婚したらいいことばかりでは無いんだ。この程度のことで躓いていたら、やっていけないよ。言葉を尽くしきった上でも分かり合えないことはあるけど、二人はお互いに納得できるまで話し合っていないんじゃない?分かったつもりになってはいけないよ」


 お父様の言葉にはドキッとした。

 確かに、私たちは言葉が足りなくて、相手の言うことを勝手に解釈して納得しがちだ。

 レッカーで会ってるサイラスとユリウスの側近のサイラス様が同一人物だと思っていたし、ユリウスも私は理解していると思い込んでいた。


 ……話をしないと。


 でも、覚悟ができていないのに……。

 ユリウスには会いたいし好きだから一緒にいたい。

 だけど王子妃にはなる自信がないから結婚したくない。

 ううん。

 ユリウスとは結婚したいけど、王子妃にはなりたくない。なれると思えない。

 この矛盾をどうしたらいいんだろう。


 ユリウスの立場を考えると、結婚して王子妃になるか、別れるかの二択しかないけど……。

 自分の中で答えが出るまでは、会ってはいけない気がする。


 会いたい。

 会えない。

 会いたい。

 会いに来てくれない。


 今更会ってもとりかえしがつかないかもしれないと思うと怖くて、殊更研究に没頭した。




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