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気のせいだと思うようにしていた【ユリウス視点】

 

「えっと……」

「大聖堂と王城の教会の中は見たことある?」

「大聖堂は一度だけ」

「王城の教会はないか。見てみないと判断できないよね。レンツィの仕事が終わったら、教会を覗いてみない?それからレッカーに行こう。一緒に」

「 あ、うん。分かった」

「今日はレッカーに行く予定じゃなかった?」

「ううん。行く予定だったよ。どうして?」


 ほんの僅か、微かにレンツィの返答が遅かった。

 それほど思案するような質問ではなかったのに。

 都合が悪かったかレッカーに行く予定ではないのに、俺がレッカーに行くこと前提で話したから迷ったのかと思ったが、違うようだ。


 薄々気がついていて、気のせいだと思うようにしていたけど、そう思えば思うほど気になってきた。


 レンツィは結婚式の話になると反応が鈍い。


 レンツィが俺のことを想ってくれているのは分かっている。

 だって、……ほら。

 こうして微笑んでじっと見つめただけで頬を染めて目を逸らしてしまう。

 その後も見つめ続けていたら、チラッと見てくるのにまた耐えられなくなって目を逸らすんだ。


 だけど、レンツィと俺では想いの深さが全然違うのだろう。

 二回目に視線を合わせた時は上目遣いで見てくるから、俺は抱き締めたい欲を抑えるのが大変なのに。

 レンツィは、「見すぎ」と言って背まで向けてしまう。

 想いに差があるのは仕方がないし、照れて可愛いなぁと思う反面、少し寂しい。


 俺は早くレンツィを俺だけのものにしたくて、俺だけのものになるのだと思うと嬉しくて結婚を急いでいる自覚がある。

 レンツィにとってみれば、レッカーのサイラスと俺が同じ人だと知ったのもひと月ほど前のことだし、元々第三王子との結婚に前向きではなかったのも知っているし、結婚式に対しての熱量が俺とは違うのも仕方がないことだろう。


 それでも、同じように想って欲しい、同じくらい深く愛してほしいと考えるのは強欲すぎるのか――


 ◇


「レンツィ、こっち」

「ここの教会って勝手に入って大丈夫なの?」

「勿論。王城に勤めている者は自由に入って良いって知らなかった?」

「そうなんだ。知らなかった」

「この時間帯はもう開放していないけど。一応司祭に言ってあるから大丈夫だよ。どう?」

「ん?」

「大聖堂とこっち。似たような感じだけどレンツィはどっちが好き?」

「んー……こっち?かな」

「なんで?」

「大聖堂よりは小さいし」

「なるほど」


 小さいから王城の教会が良いか。

 あまり目立つことが好きではなさそうなレンツィらしい理由といえば理由だが。

 大聖堂との二択なら、という注釈がつきそうな答え方だったな。


「レンツィは結婚式でなにかやりたいことはないの?」

「ないよ。なんで?」

「結婚式はふたりのこれからの生活のために挙げるものだろ。女の子って結婚式に憧れたりするんじゃないの?」

「憧れたことはあるけど……ユリウスと結婚するからにはしきたりとか遵守しなければいけないことも多いでしょう?」

「だからって遠慮しないで意見くらい言って欲しいよ」

「決まりがあるのに叶わないことを言われても困るでしょ?」


 ドレスのデザインひとつとっても、今流行りのデザインにはできないし、招待客も自由にならない……縛りだらけなのは確かだ。

 その事を理解して無駄なことは言わないレンツィのそういう頭の良さ、思慮分別のあるところが好きなのに、少しくらい我儘を言って欲しいと感じてしまうなんて。

 我儘なのは俺か……。


「あ、そうだ。今日の休憩時間に言っていたギースベルト家の夜会なんだけど」

「うん」

「その日は別の家に招かれていて、俺はそっちに顔を出さなければいけなかったんだ。公務みたいなものだから、変更できなかった。さっきは日にちを確認せずに言ってしまって、ごめん」

「そうなんだ。大丈夫、気にしないで」

「レンツィは一人でも行くの?」

「行くなら一人で行くよ。昔馴染みの家だし、ギースベルト家なら一人で行けるから」

「そうか。夜会に一人で行かせるなんて……本当にごめん」

「大丈夫だよ。それにまだ行くと決めたわけではないし」

「せめてドレスを贈らせて」

「いい、いい。いいよ。そんな気を遣わないで。日にちもないし。衣装部に頼むんだよね?結婚式のドレスも制作中なのに皆に負担をかけたくないし、大丈夫だよ」


 頻繁にドレスを強請ってくるような女性は嫌だけど、『いい、いい。いいよ』と三回もいいと言われると、それはそれで微妙な気分になるんだな……。

 そんなに俺の贈るドレスは着たくないのか?と思ってしまいそうになる。

 レンツィのことだから遠慮しているか、恋人からドレスを贈られたい願望がないだけだろうというのはわかるけど――――


 やっぱり少し寂しいな。

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