第718話 √7-51 『ユウジ・マイ視点』『十一月七日』
十一月七日
二日間日程の文化祭が終わり、あとのイベント生徒自主参加のみの後夜祭だけになる。
週明けの月曜日は日曜の振り替え休日として、火曜日は丸一日かけて文化祭の片づけなど行ってからようやく水曜日通常授業に戻るのだった。
そんな後夜祭は、学校OB・OGや保護者会の出店で余った食べものなどがタダ同然で振舞われる。
後夜祭を場合によっては一人で孤独にグルメして楽しむ者も、一致団結したクラスメイトで打ち上げのごとく楽しむ者、そして――
「なんか惜しかったねー」
「だなー」
俺とユキは後夜祭の為だけにわざわざ木材を積み上げて作ったキャンプファイヤーを遠目に眺めるようにして、二人並んで話していた。
一応この文化祭では、各出し物について売り上げ部門と来場者部門と人気部門でランキングが出るのだった。
売り上げは最終的な売り上げ金額で出店系のみの出し物が対象、来場者は主にステージやお化け屋敷などのアトラクションの入場者数が対象、そして来場者に任意でアンケートを書いてもらいその集計結果。
「まぁでも平均的にランキング上位なのは褒められていいんじゃないか?」
「だねー、がんばったがんばった」
一年二組は売り上げ部門と人気部門では同じく三位と好成績を残した。
メニューの中でレトルトなどを用いたカレーを扱う店も少しはあったが、シーフードカレーのみに絞ったとはいえ本格的な作りのカレー専門は我がクラスだけだったことや、そもそも平均値の高い女子クラスメイトの店員などが評価された要因かもしれない。
売り上げ部門では『サークル・センター』などという謎の同人誌サークルが文化祭限定同人誌をさながら自動販売機のような高速回転で売り切ったということで一位……たまにクラスから委員長とユイが居なくなってたのは関係ないはず。
来場者部門ではクランナ・アイシアのクラスの『(幕末転生)ロミジュリ』の演劇が一位、初日の評判と展開の意外性が拡散した結果二日目は大入りとなったとのこと。
人気部門では飲食の出し物『小料理屋』が優勝、売り上げ部門でも二位と他を大きく引き離した出し物は――姉貴のクラスということで察してほしい。
ともあれ一般人参加の文化祭は幕を閉じて、一部帰路に着いた生徒以外は後夜祭に残って各々が楽しんでいる――その中には俺とユキもいたのだった。
「十辛達成者は結局お客さんだと雨澄さんだけだったんだねえ」
「……ユキは食べられるのか」
「もち! ……でも、一杯で舌がダメになっちゃうかな」
それはもう人間が食べられる料理でないのでは、と思ってしまうが雨澄は人間なので”凄い人間”が食べられる代物なのだろう。
それでも雨澄一食食べては並び直しての十辛ループしてたが、雨澄の舌と胃袋はどうなってるのか。
ちなみに二日目の残り物でユキ監修範囲の辛さのそこそこヤバい辛さのカレーに挑戦したが、そこそこじゃなくて普通にヤバかった。
それがユキ担当のカレー鍋だったということもあり、頑張って一食は完食したがしばらく舌の感覚がお亡くなりになった……がうまかった、実際辛いけど超うまいのだった。
「俺も七辛が限界だったわ」
「頑張って食べてくれたもんね、ありがとねユウジ」
そうしてやさしく撫でてくれるユキ、なんだか妙に嬉しい……。
「ユキ……」
「これから鍛えていこ?」
ヒェェ……! 辛党彼女による彼氏の味覚調教が始まろうとしていた。
そんなユキはというと燃え盛るキャンプファイヤーの周りを踊るカップルに意識が向いたようだった。
「せっかくだから踊っちゃおうよ!」
「踊りはよくわからん」
「私もよくわからん!」
「じゃあテキトーでいいか」
「テキトーでいいんだよ」
そうして二人手を繋いでキャンプファイヤーに向かっていく、テレビで見たのなんとなく再現しようとしたり、周りの見よう見真似だったり。
傍から見ればポンコツ風味なカップルかもしれないが、二人後夜祭にキャンプファイヤーの周りを踊るという非日常感は正直悪くなかったのだった。
* *
「…………」
私は二人の”友人”が楽しく踊る姿を遠目に見ていました。
ああ、二人とも幸せそうだなぁと見ていて思うのです。
私、姫城マイは昨日好きな男性に振られてしまいました。
……でも、振られるというのは、なんとなくではありますが分かっていたことなのです。
実際以前からその男性がとある人と付き合っていそうなのは雰囲気で分かっていたことでした。
そしてきっと私の二人の”友人”は、私が彼女と友人になる前から付き合っていたかもしれないのですから。
それでも、知っていても、振られると分かっていても告白してしまったのは何故でしょうか。
この恋を諦める為でしょうか、友人だからと譲った結果でしょうか、それとも私は恋に恋する自分が好きだっただけでしょうか。
違います、それらは違います。
「きっと」
きっと、来年は分からない。
再来年はもっと分からない。
もしかしたら、いえきっと私にもチャンスはあるかもしれないと思ってしまうのです。
それは決して二人の破局を願っているわけではなくて、むしろ――私もその二人に混ぜてもらえる、そんな予感でした。
私は四月初め、それはもう濃密な”夢”を何度も見たのです。
私が彼と仲良くなっていく夢、彼と結ばれる夢、彼に自分の秘密を打ち明ける夢。
それは点と点が線で繋がっていて、一つの物語のように連続性を持っていました。
夢にしては鮮明すぎて、現実にしたらちょっと夢見がちのような、曖昧なもので……見た夢すべてを今も私は覚えています。
そんな夢は不思議なことに”一年分”で途切れているのです。
じゃあその続きはどうなのでしょう、私たちの関係は続くのでしょうか。
いえ、続くはずです。
そのあとも私たちは恋人同士として幸せに過ごしているに違いないのです。
だから、本当になんとなく。
もしかしたら、きっと――また”夢”のように彼と結ばれる時が来るのかもと思ってしまうのです。
もっとも、予感的には私だけの独り占めは無理そうなのですが。
「それまでは――お幸せに」
二人の友人、ユキとユウジ様に聞こえるはずもない宣戦布告を以て。
私は後夜祭を一人去っていくのでした。
同日同場所付近のベンチにてアイシアとクランナの二人が座わっています。
アイシア「これ持ってこれ持って」
クランナ「? なんですの」
アイシアはクランナにスケッチブックと鉛筆を手渡します。
アイシア「で、描いてる風に……うんうん」
クランナ「アイシアこれに何の意味が」
アイシア「金髪っ子だけにエターナルスペンサー幼馴染っぽくなりそうだったけど……胸が違う」
クランナ「なんだかよく分かりませんが限りなく失礼なことをされている気がしますわ」
ユキは加○恵扱いですか。
とりあえずアイシア、滑り台はあちらですよ。




