第646話 √d-25 わたあに。 『ユウジ視点』『↓』
「っ……わ、私がユウ兄を好きな気持ちを……だよ!」
…………。
「は!?」
「……なによ」
「なによじゃねーよ! どういうことだよ!?」
「それは……そのまんまの意味だけど」
…………えっと、何か。
額面通りに受け取ればその、ミユは俺に好意を抱いているということか。
いやまあ確かに今のミユの表情はギャルゲーの告白シーンみたいだし、さっき俺に好きな人聞いたか聞いたのも俺に意中の相手がいないか探る為だったらなんとなく分かるけども。
というか最近思い出した幼少期の結婚宣言が今も生きてるのか……?
いや、よく考えてもそのりくつはおかしい。
ミユがクラスメイトや幼馴染なら問題ない、だがミユは俺にとって――
「な、なるほどなー。ま、まぁ兄として妹に慕われるのは――」
「一人の女の子として好き、だよ」
え、えぇ……マジで言ってんの。
●妹とかだったらメガネの幼馴染に気持ち悪いよとか言われそうなんだけど。
「もしかして:最近ヨスガ○ソラがマイブーム」
「ヨス○ノソラ自体は好きだけど、ユウ兄が好きなのは前からだよ」
「なっ」
まさかミユがヨスガ○ソラを見ているなんて……それも好きだなんて!
「俺はカズハ派だぞ!」
「このおっぱい星人が! ソラちゃん一択だから」
…………。
いや、そうじゃないよな、うん。
向き合わないといけないよな、現実と。
「……俺たち兄妹だぞ」
「知ってるよ」
そうだ、赤の他人などではなく産まれて数か月差があるだけの兄妹であり同じ血の流れた家族なのだ。
「義理の関係なんてことはないぞ」
ラノベにありがちな両親から告げられる衝撃の事実、どちらかが連れ子だった――なんてことはない。
『はい。確かにDNA検査の結果、ミユと下之ユウジは血縁関係があり実の兄妹であることが証明されています』
そうして俺の言葉に何故か返ってくるミユ以外の声。
「ね、ユミジもそう言ってるし」
「今の誰だよ!? なんかPGPが喋ったんだが!?」
ミユが触れてもいないのに勝手に起動しバックライトを光らせたPGPのスピーカーから、突然女性の声が聞こえてきたのだ。
『申し遅れました。私は人工AIのユミジと申します』
「どうもこれはご丁寧に……じゃなくて!」
「この子が私の話し相手してくれてたんだ」
『ずっ友だょ』
「というかユミジって今プレイしてるゲームの主人公ネームじゃねーか!」
「偶然だよねー」
『偶然ですね』
なんだこの妹と人工AI……。
というか人工AIが妹の話し相手とか悲し過ぎる……あ、中学三年初期のぼっちな俺に言えたことじゃないですねはい。
「ともかく……兄妹で恋愛とか無いだろ」
「え!? ミナ姉とはキスまで行ったのに!?」
「バカっ! あれは神楽坂ミナだからノーカンだ!」
確かにあのキスのタイミングは姉貴に戻ったタイミングだからグレーだが――
「バカってなによ! え……今、神楽坂って……えっ」
「……なんか変な事言ったか?」
「……覚えてるの? 神楽坂ミナとの世界」
「……………………んー?」
そう聞かれると答えられない、俺は確かにその名前を口にしたのだがピンと来ない。
いやでもその名前のあとに何か俺が内心で思っていたことがあったはずなのだが……十数秒前のことも思い出せないとは俺ついにボケがキテるのか。
「じゃあホニさんと付き合ったことあるの覚えてる?」
「え? なんで俺なんかがホニさんと?」
あんな癒しの存在と恋愛関係とか俺には恐れ多い!
「なら委員長は?」
「委員長と俺殆ど接点ないじゃん」
割とクラスが同じなことが多かったけど殆ど話したことなかったし。
「…………確かにそうだけど」
ミユは何を俺に聞いているのだろうか、ホニさんや委員長と俺が付き合っていたなどという意味不明すぎる。
「大体俺サクラが初恋だからな、もちろんその前もその後も誰とも付き合ったことないぞ」
……こう言うとDT宣言みたいでアレだな。
「…………そ、そっか。だよね」
「まったく、変なことを言うミユだなハハハこやつめ。じゃあちょっと少し自分の部屋に――」
「ドサクサ紛れに逃げないでよユウ兄」
……バレたか。
これを機会にミユの告白まがいのことを無かったことにしたかったのだが。
「…………答えなきゃダメか」
「私のことは嫌い?」
「嫌いじゃ――」
「好きか嫌いの二択ね」
ぐっ、なんだこの妹……グイグイ来るぞ。
「……家族としては好き」
「そういうのよくないなー……ユウ兄だってちゃんとした答えもらえない辛さは分かってるはずだけど」
……そこを突かれると痛いな。
いやそれでも流されてたまるか、俺は……社会から外れない!
「ああ、好きだよ!」
「っ! やった!」
『おめでとうございますミユ』
妹には勝てなかったよ……。
……すっげえミユ喜んでるし。
そりゃ、ミユって控え目に言っても可愛いし……兄妹が結婚できないと知るまでは俺もいくらかミユや姉貴との結婚も考えてたぐらいだし。
というかぶっちゃけミユが他の男と付き合うとか想像できないし、よっぽどの優良株でないと許さないというか、ミユ泣かすやつはぶっころというか。
嫌いだったらミユを外に連れ出そうなんてしないし、それでもこの好きというのは”今は”家族としてのものであって――
「とはいっても実の兄妹とか付き合いの現実じゃ無理だし……」
「何言ってんのユウ兄」
「え?」
ミユはそうしてしれっと口調で――
「今は現実とゲームのハイブリッドな世界だよ?」
…………!
「おま……桐の仲間とかなのか」
ミユのその言葉に俺の背筋に冷たいものが走る
その言い回しは桐の言ったことそのままだ、ユキが車に轢かれて死んで世界をやり直した時に言われたことだ。
ミユは俺が気づかないだけで桐のような、よくわからない存在の側なのかと俺は少し警戒し始めていた。
「うーん、あの子とはあんまり仲良くないけど。知ってる側ではあると思うよ」
「知ってる側って……」
知ってるというのはどういうことなんだ、さっきのホニさんやら委員長やらのことも関係あるのか。
思考渦巻く中でそれからミユは俺の予想だにしない言葉を言い放つのだ――
「私、今回の物語の”ヒロイン”なんだから」
……自称ヒロインとか反則だろ。
桐が言っていたことが本当なら――
「だから私を攻略してよ……ユウ兄」
桐の言う通りならば――実の妹ミユを落さないと、物語は次に進めないらしい。




