第410話 √3-62 気になる彼女はお姫様で未来人で。
十一月六日
まあ色々あった。
うん、女性陣にそれはもう問い詰められた。
それも一人ずつに、代わる代わる俺に説教する人が変わっていった……いわゆる病室の外は俺に言葉を浴びせるべく行列状態になったという。
ユキと姉貴は泣いてるしユイに桐は怒ってるしマイは無表情で犯人を殺るとか言い出すし……心配かけたなあとは思う。
「大変でしたね、ユー」
「ああ……全く」
そして俺はオルリスと病室で二人話していた。
あらかた皆と話し終えて、オルリスとアイシアだけが残った。
委員長がそう一人一人話す機会に取り計らったらしい、学校外でも委員長させてしまっているというね。
「で、その呼び方からするとオルリスか」
「はい、その通りですわ。ユー」
「――そういや俺はどういう扱いになったんだ?」
オルリスから話される。
ましてや「アイシア&オルリスのSPとの戦闘による怪我」なんて言いようがなく、交通事故扱い。
誰が何と言おうと交通事故、トラックに跳ねられたんだと。
「無理があるんじゃねえか?」
「だから今は顔も包帯グルグル巻きにしているんですよ」
顔は……頬をかすった程度なんだけどな。
「…………」
「…………」
急に二人の間に沈黙が支配した。俺は何か話そうとは思ったけども……ちょっとした緊張で声が出せなかった。
これは一応付き合いだして初めて面と向かって話した機会で。
……そして情けないことにオルリスが先に口を開くことになり、
「……ごめんなさい」
謝られた。
「え? なんでいきなり謝ったんだ?」
「私が……あなたに守ってほしいなんて言ってしまったから、あなたは」
確かに俺は誓いの言葉に「オルリスを一生守る」としてしまったこともある。
「いや確かにそうだけど……オルリスが危なかったら、そんなの関係なく俺は助けるし。守ると思うぞ? ――好きな女性一人守れなくてどうすんだって話だ」
「ユ、ユウジ……」
オルリスは嬉しそうに表情を明るくするのだけども、それも一瞬で。
「それでも私がアイシアの気持ちに、私の周辺に付き人がいたことも気づけない私がいけなくて……」
「アイシアとは友人なんだっけ?」
「ええ、幼いころから付き合いのあった――友人でした」
「そんなオルリスが見抜けないんだから仕方ないだろ?」
眼鏡を取って髪を染めただけではおそらくわからないであろう、アイシアはそんな変装をしていた。
それに黒髪読書少女が銀髪灼眼美女だとはどうやっても連想できないから。
「ありがとうございます……ユー」
そうお礼を言われる。う、上目使いでそう言うのはナシだから!
……まあ、個人的にはそれよりもだ。
「改めて分かったんだけどさ……俺って本当に弱いんだなって」
「何を言うんですか! あなたは私たちの護衛を倒せるほどに力が……いつかあなたが私を守ってくれるというならば、人並み以上に強ければいいなとは思っていましたが……もう十分に強いではないですか」
オルリスさん、軽く人並み以上を求めてたんすね。
「いや……あれは俺の本当の実力じゃないからさ。現に今も筋肉痛でキツいし」
俺の限界で動き続けた結果がコレ。
あれは何かしらの”記憶”のおかげ。そして俺の衝動の部分も手助けしているだろう。
少なくとも記憶の俺はもっと強かった。もっと体を縦横無尽に飛ばして、動かせた。
もっと、もっと彼女を守る術を身に着けるべきで。できることなのだ。
「これからはもっと強くなるから、待っててくれとは言わないけども……愛想を尽かさないでくれると嬉しいな」
「愛想なんて尽かしません……あなたはあなたです。あなたがいくらあのSPへの闘いを否定しようとも――私を助けに来てくれたことには違いないではないですか」
「……! ありがとな。そしてこれからも頼む」
「ふふふ――未来で待っていますわ」
「ああ、それまではどうにかしてでも俺がクランナを守るから」
体力も付けないとな……とりあえずはクランナのいる三年間は、俺がどうにか。
「……あとお頼みしたいことがあるのですが」
「ん?」
なぜかそれを聞くオルリスは突然に不機嫌になっていた。
「いつまで昔の私をクランナと呼ぶのですか?」
……ああー、そうだった。
付き合い始めたのに他人行儀な上に偽名部分。うーん、よろしくはないな。
「でもそれじゃ今のお前と区別が……」
てかそう言ってきたのは未来のあなたですし!
「私の際は”オル”とお呼びください」
オル……そういや俺って人のことはフルネームか名前全部でしか呼んだことないんだよな。
そうなると呼称として”オル”みたいなニックネーム風に呼ぶのは初めてなわけで……抵抗があるというか。
「……呼び方決めるのはいいけども、オルリスってもう未来に戻らないといけないんじゃなかったけ?」
少し話を逸らすように聞いてみる。
オルリスがここに居れると言う日程は俺がオルリスと出会ってからではなく、最初のデート初日を指すらしいから。
今日で六日間だ。
「なおさらお願いしたいのです。私は今日で会えなくなってしまう……未来にそのあなたに特別の呼称で呼ばれる思い出を持っていきたいのです」
もう、手を合わせて瞳を潤わしながら言うもんだから困る。
……気恥ずかしさだけで彼女の希望に沿えないのも難だしな。
「オ、オル……これでいいのか?」
「もう一度、いいですか?」
「オル……」
「……もう一度、愛の言葉もこめて」
「え」
「私に愛はないのですか……? 昔の私にあっても未来の私にはっ」
……ごめん、ちょっと面倒くさいと思っちゃったよ。
まあでも、クランナとは違ったリアクションをオルは取るからそれはそれで可愛らしいからいいのだけど。
「未来で結婚しよう、オル」
言ってみた。
「け、結婚っ!? 愛の言葉とは言いましたが……そ、そんな更なるプロポーズだなんて!」
「ダメか? ……それとも俺は学園生活でオルリスが楽しむだけの期間限定の関係とか」
「そんなことあるわけがありません! 一生守ると言っておきながらあなたはそんなことを言うのですかっ! 一生、私といてもらいますわ!」
それはそれで……プレッシャーというか。
それでもオルリスの気持ちには答えたい、だから――
「ああ……一生一緒だ」
「っ……改めて言われると照れますわね」
じゃあ言うなよ!
「そして昔の私はオルリスと呼んであげてください……彼女拗ねはじめてます」
「ええー」
……オルが引っ込んだ後、どう機嫌とろう。
「そういえばですね……やはりユーは色々な方に好かれるのですね」
「あー……まあ今日来た皆には嫌われていないと思う」
中に”あなたの無様な姿を見に来たんです”という人がいなくてよかった。
「……はぁ、あなたはやはり鈍いのですね」
「いやいや俺鋭いから。その鋭さは鉛筆の8Hに該当するぐらいだから」
「気づいていないとしても、言っておくとして――あなたは結構な女性にターゲットにされてます」
「マジで? い、いやオルリスを守るとは言ったけどもそんなに命を狙われることになるなんて……ってオル? なんでため息ニ倍増し?」
一時期浮かれて「へっへー、俺ってもしかしてユキや姫城さんにも好かれてルー」なんて思っちまったが、ぶっちゃけない。
なんでだろうなー、本当に生徒会の多忙でどうにかなっていたとしか。
「それでも一応お知らせしておきますね」
「お、おう……なんだ?」
完全に呆れられる俺、何か俺は変なこと言っているのだろうか……でも実際俺が女子にモテるなんて客観的に見てもナイ――
「私の国って一夫多妻制なんですの」
オルリスの……オルリス=フィールってことはフィール国だっけ?
一夫多妻制って、そりゃあのハーレム異世界ラノベとかにありがちな――
「で、でも! あなたの本妻はこのわたくしですから! それだけは肝に銘じてくださいっ」
「お、おお……そうなのか」
でも俺にはきっと関係ないなー
オルリスと付き合えるだけで玉の輿レベル超越してるのに、それ以上を望むなんてもってのほかだろう。
俺は純情派だから、一人を愛するのが一番いいとは思ってるし!
「(案の定病室の外では聞き耳を立てている方がいるようですし)とにかく、一番私を大切にしてほしいのですわっ」
「ああ、それは肝に銘じる。俺は――オルを、オルリスを一番一生大切にする」
「……その言葉が聞ければよいのです」
そう強気な口調でも顔を真っ赤にするというのは、なかなかにドキリとクルものがあるなあ。
「それでは昔のオルリスに…………って出たがらないので、私がいなくなってからにして」
「もう、行くのか?」
「はい、そろそろ帰ると致しましょう――私とオルリスは、そしてアイシアともあなたに女性の方々が行列を成している間に話しましたから」
「はは……」
そう俺は苦笑するしかない、本当に行列だったからなあ。オルリスともオルは、それにアイシアともか。
そうしてオルリスはほんとうに別れを告げるように手を振って。
「それでは、また――ユー」
「未来で待っててくれ、オル」
そう一言残してオルリスはいなくなった――気がした。
「……去るときも突然ですのね、全く未来の私は」
自分に呆れて嘆息するクランナ――いやオルリスの姿がそこに。
「……未来の私の方を先に名前で呼んでいましたから、きっと今の私には魅力がないんですね」
……本当に拗ねてますよこの姫様。
彼女をなんとかなだめて、そうしてアイシアの番がやってくる――番ってのも変は話だけども。
オルリスが出て行って、入れ替わるようにアイシアが病院戸を開け、後ろ手で閉め。
「どうもです、ユーさん! 未来のアイシアです☆」
そして入ってきたのは、自称するように未来から来たアイシアだった。
……てか俺も人のこと言えないけども、アンタもキャラ定まらないな。
「突然ですが、少しネタバレと行きましょう――」
アイシアはそう言うと”あること”を話し始めたのだった。




