第398話 √3-50 気になる彼女はお姫様で未来人で。
お待たせしましたー
あの後、一時間ほど打ち上げは続きそれでお開きとなった。
「お疲れさまでした……し、下之君」
そう、クランナが打ち上げ終わりの片付けが終わり、生徒会室からは会長もチサさんも福島も姿を消した生徒会室で言ってきた。
「ああ、クランナも今日はしっかり休むんだぞ?」
「分かっていますわ、起き遣いどうもありがとう」
そうふふっと笑いながらお礼を言ってくるのがひどく印象的だった。
俺へのお礼も、その態度も、微笑みかけてくることなんて考えたこともなかった。そしてその笑みに俺は少しだけドキリとされられる。
だけども――クランナにはオルリスが居るのだ。
一番今怖いのが、焦った末の急かした上での気持ちの暴発。俺はそれで過去に間違を犯したのだ。
だから、ドキリとした気持ちは心にしまっておく。クランナにもオルリス伝えることはない、この気持ちを。
家に帰ってきた。ユイと姉貴と一緒に、玄関扉を開くとホニさんがわざわざ待ってくれていた。
「お帰りなさい、ユウジさんっ!」
「ただいまー」
「あれ、ユウジさん?」
「ん、なに?」
「もしかして疲れてる?」
「そう見える? まあ自慢じゃないけど生徒会役員として文化祭を東奔西走してたからなあ」
「ううん、きっとそれも有ると思うんだけどね……やっぱり、なんでもない。ごめんね、変なこと言って」
ホニさんには少なからずお見通しなのかもしれないな、と俺は何も言わず苦笑した。
「六日間ねえ……」
オルリスが只の二重人格か何かで俺が騙されているわけでなければ。オルリスは明日から六日間で、生涯の伴侶、いわゆる結婚相手を見つけるのだという。
未来の政略結婚を回避する為に成人する前にその相手を見つけなければならない、そして彼女がやってきた文化祭終了直後。
つまりは条件は絞られ、六日間で理想の相手となるとこの国も出れないし、俺に道案内を頼んだ時点でこの町周辺であることは間違いない。
そして俺はその協力を求められてしまったのだ。
体調も考えてしまう程に気になってしまう彼女に、俺は特別な感情を持っているのではないかと思った。
井口の告白を断った理由の一つにして、それも断り文句でもなんでもなく――純粋な気持ちで、気になる彼女だった。
ユイには良い友人みたいなことは言った、だけども下心の有無を聞かれ、オルリスが出てきたことで――俺はクランナが好きなんじゃないか、と。
だからここまで世話を焼いてしまう、彼女のことが気になってしまう。
だけども、それらは胸に秘めることしか出来ない。皮肉にも同じようにオルリスが出てきたことで。
まあ、それはさ。オルリスが俺に探すのを頼む辺り、俺と言う選択肢は皆無ってわけで。
いやね、期待してたとかそういうわけじゃない。ただ、俺の言葉は伝えられそうもないなと。
「そう思うと、ちと……な」
複雑というか。胸が少し痛むというか。
俺以上にに彼女を気遣ってくれる、大切にしてくれる、好きになってくれる。というなら構わないけど……って何故俺は上から目線なのか。
どこぞの馬の骨にわしの可愛い娘はやれぬ! みたいなノリになってんぞ。
「まあ……そうだな」
オルリスが選ぶ相手ならいいかな、とも思ったりする。
オルリスはクランナとは同じだけど違う。だけどもきっと根本は同じはずなのだ。
……自分のことは二の次にしがちだけども、真面目に自分と共に行ける人を決めるはずだ。
「……さて、と。じゃあ適当に地図でもプリントしておきますかね」
地図があってもオルリスは迷うだろうし、俺はまず迷わないけど……まあ保険で。
* *
「……つ、疲れましたわ」
流石にあそこまで疲弊するとは思いませんでしたわ。
「また、下之ユウジに心配をかけてしまいましたし」
飲み物を買いに行ったというのに、疲れで寝てしまうなんて。
「……そういえば」
あの時みた夢はなんだったのでしょうか。
私が、私らしくないことばかり言う私が下之ユウジと話している夢。
確か、その内容は――
『婚約者探し』
そうそう……って、
「誰ですのっ」
私とは別の声の主を探し部屋を見渡しますが、誰もいる気配はありません。
それにこのアパート地味に防音仕様という見かけには騙されて行けないオプションハイグレードになっていますので、隣室の声や音が聞こえてくるはずもないのです。
では、誰……?
『わたし』
わたし……? 確かに、私の声に似ているような? それも何か頭に響くような……
「疲れているのでしょうね……」
『だと思うけど、ちょっと協力してね?』
「ま、また!?」
『また、です。はじめまして、女子高生の私』
女子高生の……私?
『私は未来の私。ちなみにネタバレすると今から十年間、結婚しません』
「ひどいネタバレですわ!?」
というより、十十年間ですって?
「私、あまりおとぎ話は信じない性質ですわ。本当のことをおっしゃりなさい! 一体あなたは誰なのですっ」
『私。ここではオルリス=クランナ、本当はオルリス=フィール。またユーのお弁当食べたいなあ、とこの頃の私は思っている』
「わ、私以外知らないことですわ……っ」
真名こそ、この国に来てから誰にも言っていませんから祖国の一部の人物しか知っていませんが。
ユーというのは下之ユウジであれば……!
「し、信じていいのですか? というか、未来の私はなぜ来たのですか」
未来から来たのなら理由があるはず……十年後にタイムマシンというものは実用化されていることになってしまうのですけどね。
ここまで私のことを知られている以上は、信じる他ありません。そして来た理由と言うのもあるのでしょう。
『それじゃ聞いてくれる? 私の気になる彼ゲット大作戦っ』
「私は変わってしまったのですね……」
少なくともそのように軽い物言いなどしませんのに……
「聞きます聞きます、それでなんなのです?」
『それはね――』




