第375話 √3-27 気になる彼女は○○○で×××で。
Q.今度の更新はいつまで続けられそうですか? A.今日までかもね
下という人物は何故セクハラという行動に及んだのか、それから観察していても分かりませんでした。
時折不真面目ではあるのですが、基本的は誠実で気遣いも出来ている(ように見える)のですよね。
体育祭準備では嫌な顔一つせず、何度も私への場所案内もしてもらいましたし。体育祭でも私のことに気付いて、休むよう声をかけてくれたこともありまして。
「(本当によくわからない人ですわ)」
そしてこれはある教室でのこと。
授業が終わり、休み時間が訪れます。
授業は日本語で時折ムズカシイ漢字や表現などが出てきますが、一応ついていくことは出来ました。
このように大衆で勉強するというのは思いのほか胸が躍るものですね。授業内容を聞きながらも、教室を見渡すと授業に向かう姿勢は三者三様で見ていて飽きません。
いつも通りに近い席同士の岡さんや、滝川さんと話したり。岡さんや滝川さんの友人がやってきて色々とお話しさせてもらったりと、本当にこのクラスにはよくして貰っています。
少し質問が多いので……ほんの少し疲れてしまいますが。
休み時間が終わった直後に、岡さんがこちらへと顔を向けて、何か思いついたかのようにあっと声をあげて、
「そういえばクランナさんってどんな家に住んでいるの?」
「え?」
岡さんがそのようなことを聞いてきました。なぜ、そのようなことを?
「留学生なクランナさんて住む処どうしているのかな、っていう疑問かな」
留学生というものは珍しいものなのでしょうか? と聞くと、そうらしいです。
やはり気になるのでしょうね、そういうことは。
「単なる小さなアパートを間借りしてるだけですよ。あまりお金も使えませんし」
自分で自由にするお金は思いのほか少なく、月に使えるお金と言えば生活できる最低限――というほどではありませんが、多いわけではないのです。
「アパートなのか? なんか日本に留学する為に家買ってそうなイメージがあったわ」
「そんなことはないですよ」
と笑って返す。一応ホームステイが基本らしいのですが、三年間となると厳しいでしょうし。
それに、ある事情で難しくもありました。
「私って皆さん方からどんなイメージあるのでしょうか?」
本来ならば、変な時期に入ってきた半端者のような……ですが皆さんは優しいのですよね。一体どんなイメージで私は捉えられているのでしょうか、少し怖いですが気になります。
「クランナのイメージ?」
「はい」
「そりゃあ、なあ?」
「ですね」
「?」
息を合わせるように岡さんと滝川さんは頷きます。なんなのでしょう、共通認識ということなのでしょうか――
そして滝川さんが、とにかく簡潔に仰るのです。
「最初はお姫様だったな」
え、と声が漏れそうになるのを抑えます。
「すっごい美人がきました! というような感じでしたね。地味な私からすると高嶺の花というか、なんというかですね」
「でもさ、話してみたら日本語上手だし話し易いし、そのギャップがいいかもなって」
「…………」
そ、そういう認識だったのですか。
「今でも美人なことには変わりありませんが、おそらくクラスの皆もクランナさんとはやく仲良くなりたいと思っていると思いますよ」
「まあ、俺らは席が近かったからなー」
……いいクラスですね。
「色々岡さんも滝川さんもありがとうございます。おかげで少し安心できました。途中から入ってきた私がどのように思われているか不安だったもので」
「クランナさんは全然大丈夫ですよ。というか分からないことがあったら遠慮せずに聞いてくださいね」
「もちろん俺もな?」
岡さん……滝川さん。本当に優しい方々です。日本にきて好奇心に溢れている一方で、受け入れてくれるか不安で……本当に良かったです。
それで私は、出来れば相談したいことが頭に浮かぶ。
「突然相談で申し訳ないのですが――」
そしてお聞きしたのが、ある店のこと。
お二方には貴重な休みの日ですから、あと一度一人で周ってみたかったのです。と、少し惜しいですがお二方のある店への案内をお断りしました。
どこにその店があるのかお聞きしてから、私は――
そうして七月四日のこと。
私は家から地図では近くに見える商店街、いわゆるショッピングモールまで一時間ほどかけてやってきました。
「(今日は暑いですわね)」
日傘を少し除けて、見る空には燦々と輝く太陽の姿があります。
今日は全体的に蒸していながらも、気温が高く……じめっとした暑さがありました。
着て行く服がどうにも選択できないので、替えが数本ある制服を着て、日傘をさしながら私はある店のある商店街までやってきました。
その店とは――
「(いくつかはあるのですが……)」
家具屋。そのままです。
家の家具を必要最低限で済ませているのですが、いくらなんでも組み立て式のタンスは使い勝手良くなく。いっそ買ってしまおうと思っている次第でした。
この町にはいくつか家具屋があり、それも商店街に集中しているとのことで、商店街散策もかねて一人やってきました。
「(時折買う食事は学校に近くにあるコンビニで済ませていましたから)」
商店街はまったくもって遠くはありませんが、行きづらかったのです。
それも、
「(どうして私から目的地は逃げてしまうのでしょうね)」
商店街も地図無しで行ってみようと試みましたが、いつの間にか自分のアパートの前に戻ってきたり。
アパートの大家さんに頂いた町内の地図をもらって、いざ商店街に臨もうとしたというわけです。
「(それにしても暑いです)」
頬を流れる汗は心地の良いものではありません。とりあえず商店街をまわって家具屋を見てまわるのですが、あまりピンとくるものがないのです。
「(古家具屋があるとは聞いたのですが……)」
地図にはそれが載っていないせいで、探し回ることになりました(後に”サトウ”という記述が地図から見つかるのですが、やはり家具屋の文字はありませんでした)
人に聞いても良いのですが。
「(それでは道に迷っている風に見えてしまいますから)
……い、意地などではないのです。お手間を取らせては悪いと思ってのことで!
「(とりあえず探してみましょう)」
あれから一時間ほどたって、ぐるぐると同じ場所を廻っている錯覚に陥りました。
「(見つかりません……商店街にはあると聞いていたのですのに)」
大家さんは確かにそう言ったのです!
「(ああ……また、スーパーの前)」
傘をさしていても、暑さが全てしのげるはすがなく。
気付かない内に数時間が外に出て経過して、日傘越しでも太陽を浴び続けていた私は――
「(もともと暑いのは苦手で)」
ふっと意識が遠のいて、私は前に倒れ込んだように感じます。しかし力は入らずなすがままに。
「(あ――)」
次の瞬間には、何かに抱きとめられたような感触がして。薄い意識の中、私は気付くと喫茶店の椅子に座っていたのでした。その向かいには――
「……誰……ですの?」
「悪いが下之だ」




