第372話 √3-24 気になる彼女は○○○で×××で。
またまたお久です
それはどこにでもあるような古びた二階建てのアパート。
そこに似つかわしくない一人の女性が階段を上がると「203」と書かれたプレートのある扉の鍵を開けました。
ちなみにその表札には「オルリス クランナ」長く美麗な金髪の髪が部屋の中へと吸い込まれていきました。
「ただいま帰りました」
私はそうして自分の家へと戻ってきた。と、いっても――
「この狭さも慣れると丁度よいものですね」
この国こと日本での”仮住まい”としての家なのですが。
「……はぁ」
思い起こすのは今日の昼辺りに覗いた古家具屋「カトウ家具」のこと。
魅力的な手入れの行き届いた古家具はもちろん、加藤さんとの話しはかなりに盛り上がった。
「階段だんすが実に……」
部屋を借りているだけに階段というものは必要はありませんが、とても欲しいですわ。
お値段も手ごろではあるのですが……
「考えどころですわね」
自分の1Kの部屋を見渡すと、狭いキッチンと冷蔵庫に、電子ケトル、電子レンジ、炊飯ジャーに木製の食器棚。部屋は五畳半の広さに安く買った組み立て式の木製の引き出しに載ったブラウン管のテレビ、丸く直径が一メートルもない小さい卓袱台が置かれているだけ。
「あまり無駄遣いは出来ませんし……」
財布の中身を思い出してがっくりとうなだれる。この国に居る間は、お金を無意味に使わないと決めていたことでごく少量の資金しか持ってきてありません。
引き出すことはできなくはないのですが、自分で宣言したこと故にそれは出来るだけ避けたいところで。
「シワがついてしまいますわね」
……とりあえずは着替えをしましょう。
質素にするつもりはないのですが、どうにもこの国で言う”貧乏性”というものなのでしょうか?
洒落た格好も、自分の国で着飽きたのか分かりませんが、家では常にジャージです。
お母様などが見たら卒倒しそうですが、生憎私一人ですから気にも留めません。
「…………」
畳に座り込んでぼうっとする。ここに引っ越してきてからそんな時間が多い気がします。
自分の国では常に付き人がいて落ちつく時間さえありませんでしたから、まったく一人で居たい時はあるというのに。
だから日本にきて、何もしない、何も考えない時間に私は幸せを感じてしまいます。窓越しに聞こえる生活の音だけで、私一人。
「はぁ」
無意味に吐息が漏れてしまう、それほどに落ちつく時間。
先程までの今日の出来事を回想しようとして、そういえば。
「(下に今日は案内してもらったのですよね)」
商店街の似たような景色をぐるぐると回っていた私は――
「(暑さで倒れて、それで)」
助けて……くれたのですわね。
今でこそ少しは涼しくなっていますが、日中は暑かったですからね。
「(体育祭の時も)」
口には出しませんでしたが、少し限界を感じていたその時に下に休めと言われたのでしたっけ。
「まったく……」
生徒会役員への気遣いや、お姉さまである副会長のこともしっかり考えてますのに。
「本当に”あの”ことが無ければ」
下の印象も大きく違うといいますのに、本当に――
* *
五月六日
私はこの藍浜町に引っ越してきました。それも、この日本という国に留学する為です。
私がなぜ留学することになったかと言えば、日本の文化を学ぶのが理由ではあるのですが、私の強い意志も存在していました。
私の国は言うところの西洋系の国なのですが、国の開拓に日本が関わっていたこともあり、国の一部には日本の色が要所要所に残っていました。
教科書でも日本の事を扱う「日本史」があるほどで「世界史」とは別に存在していることから、日本という存在が私の国で重要な存在であることは分かっていました。
私も日本と言う国に大きな興味を抱き、留学を希望したのです。
色々な手続きなどで、入学の時期に会わせられずこのような中途半端な時期に転入することになってしまいました。
「全てで自分でやります」と大手を振ってやってきたこともあり、全ての生活は自分自身でやることにしています。
付き人ももちろんのこといません……まぁ、どこかに紛れている可能性も十分にはあるのですが。
それで私は今日、留学先の高等学校こと。藍浜高等学校へと登校することになりました。
学校の場所は何度か下見に来ていたので覚えていました。ただ、なぜか早くに家を出たはずなのに着く頃には一時間ほど経っていたのが解せないのですけれど。
日本の方々の容姿は、私とは大きく違った茶色の瞳に黒髪や茶髪で、教科書や授業なので習った通りで感動します。
そんな藍浜の学生方は、私に視線を集めているようで。金髪で青い瞳というはやはり目立ってしまうことを再認識します。
ここであいさつするべきなのでしょうけど……今はとりあえず職員室というものに向かわなければ。
場所が……分かりません。
学校までの道のりは理解していたのですが、職員室の場所がどうにも。
「(聞いてみるべきでしょう)」
このまま授業が始まってしまっては……私の日本語は通じるでしょうか? ふ、不安ですわ。
「あ、あの」
「は、はい!」
声を掛けたのは、少し小柄な黒髪の女学生。
学年色を見る限りでは同じ学年の方のようです。
「職員室というのは……」
「あ、職員室はですね――」
懇切丁寧な説明を受け、場所を理解し。
「丁寧にありがとうございます」
「え、いえ」
そう手を振る彼女は、同姓からみても可愛らしいものですね。
遠くで「いーちゃんいくよー」と呼ぶ声に彼女は反応して、
「それでは失礼しますっ」
「本当にありがとうございました」
お礼を言うと、彼女は呼ばれた声の方へと駆けて行きました。
「(職員室は――)」
そうして私は彼女の説明通りの道順で職員室に向かいました。




