第366話 √3-18 気になる彼女は○○○で×××で。
せつねえ……
ユウジさんが何かに気付いたと同時に我の目の前は何も見えなくなった。白黒の世界は凍てつくような闇色に染まっていく。
きっと、ユウジさんはこれで目覚めてくれるはず。やっぱりユウジさんは、我にとって――かっこよくて、凄くて、本当に我が大好きな人なんだ。
ユウジさんは周りの異常に気付いて、我に気付いてくれた。その事実が嬉しくて、ユウジさんを我はもっと好きになってしまう。
「辛いと思うけど……頑張ってね」
ユウジさんがいなくなった真っ黒の世界でそう呟いた。
我の声は聞こえるはずもなくて、我はそっと眼を瞑った。
* *
「お帰り、ホニ」
最初に聞こえたのは桐の声だった。
そこには確信のようなものもあるけれど、どこか安堵を含んでいるようにも聞こえた。
「ただいま、桐」
我は帰ってきていた。本当の色の付いた世界に。
桐に持つゲームの機械からも、ユミジがお礼をいってくる。
『お疲れ様でした。ホニ、ありがとう』
「ううん、我がしたかったことだから。ユミジも桐もありがとう」
そんな、と我はそうしてお礼を返す。我がユウジさんの夢に向かう為には桐とユミジが絶対に必要で、我一人ではどうしようもなった。
「いや……ホニが決断してくれたおかげじゃ」
『世界がループする現象が永続的に続くことで、どのようなことに発展するか予想も出来ないので……ホニの行動の早さで助かりました』
二人とも謙虚だなあ。
「あ、そういえば――」
我は時計の針を見る。
かちかちかちと小さく細い針が時を刻んでいることを確認して、
「成功したんだよね……?」
「もちろんじゃ」
『はい』
ということは時は巻き戻るはずで。
「じゃあもう、戻ったの?」
「うむ。今はの」
二〇一〇年
四月一日
〇時ニ分
「良かった……」
これがきっと我にとっての本当の三回目の季節。
ユウジさんは我のことをこう認識しているのだと思う――
『ホニさんとは三月の終わりぐらいにだったっけ? あの墓地を訪れてみたらさ、ホニさんがいてそれで――』
神石にいた我がついてきた。そういうことになっているらしい。
本来は神石にいて、ユウジさんを待っていたのだけど……二回目の季節から変わってしまった。
……も、もちろん! ユウジさんの家に最初から居れるのはいいことだけど!
なんでかな、って思う時もあるんだよね。
* *
それから時間は経って、夏が訪れようとしている。
ユウジさんはせいとかい? というもので忙しくて、帰りが遅くて、遊ぶ時間も減って……ちょっと寂しい。
でもユウジさんがマナビヤの生活を満喫できてるってことだと、我自身に言い聞かせてみる。
「(我が望んだことだから)」
我はユウジさんが近くにいるだけでいい。
ユウジさんと付き合っていた、いつでも一緒にいたあの頃をもう望まない。我がいることだけを覚えていて、知っていてくれればいい。
この道を選んだことで。分かっていたこと、決意したことなのだから。
振り向いて貰えることのない事実と、ユウジさんが……他の女の子と付き合うのを見続ける覚悟。
それはやっぱり悲しくて、切なくて、苦しいけれど……だけど!
ユウジさんの力になりたい。ユウジさんを我の少ししかない力で支えてあげたい。
我がユウジさんにたくさんもらった、全てを返せるわけがないけれど。
我があげられるものも、我が出来ることを全部。
「ずっと傍にいるからね――ユウジさん」
我は寝静まった夜に扉の隙間から、ユウジさんのすやすやと眠る寝顔を覗きながら、そう呟いた。
我の声は聞こえるはずもなくて、そっと扉を閉めた。




